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変身

チャドは黙ってジェシーの話を聞いていたが、ヤンと組むもう一人の男の子は『チャドの知り合いだ』と言われて、ジェシーの方を意味深に見つめた。

ジェシーもそれに小さく頷き返す。


「わかった。俺は明日、一日だけ王子のふりをすればいいんだな。でも、あいつはどうなるんだ?」


「あいつって? ああ、ええっと、ジェ……イクのことね。ジェイクには南の村まで行ってもらうから、二、三日かかるって言っといて」


そういえば自分が男の子に変身した後の名前を考えてなかったよ。とっさにジェイクにしちゃったけど、この町に同じ名前の男の子はいなかったよね?

迷惑をかけてもわるいし、いないことを祈るしかない。


「学校の方は大丈夫なのか?」


「うん、今は製造ギルドの実習中だから、なんとかなるよ」


ジェシーらしい楽観主義に、チャドも首をふって呆れていた。


チャドと護衛役のボルが、明日落ち合う時間と場所を決めた後、ボルは警察の支所に被害届を出しに行った。


「じゃあチャド、右手を三角巾で吊って、怪我をしてる風に装うのを忘れないでね」


ジェシーは王子から借りた服を一揃いチャドに渡しながら念を押した。


「わかってるよ。お前の方こそドジを踏むんじゃないぞ」


チャドはジェシーを心配していたが、こういうことでジェシーを止められる人は誰もいないことを知っている。そこでゲンコツを作って、ジェシーの頭をポコンと叩いておくだけにした。


「もう、痛いじゃない!」


「アホ、何かあったらこんな痛さじゃすまないんだぞ。無茶する前に一旦止まって考えることを覚えろ!ヤンさん、ジェシーだけじゃなくて、ジェイクのこともよろしく頼んます」


「ハハ、わかったよ。俺に任せな。無謀なことをしそうになったら、必ず止めるから」


「もう、子ども扱いするんだからぁ」


「子どもじゃないか、ボケ! そういうとこ、お前もランスも姉弟だよなぁ」


チャドがぼやきながら家に入っていったので、ジェシーはヤンと一緒に店に向かうことにした。


夕方から夜に向かおうとしている商店街は、昼間とは全然、様子が違っている。

「お気に入りボーデン」をはじめとした女性向けの店は、もうとっくに営業旗を降ろしているし、カーテンも閉まってまっ暗になっている。けれど飲み屋や食堂などはまだ客が多いのか、皓々と明かりがともっていた。


「鍵を開けてきますから、ここでちょっと待っててくださいね」


ジェシーはヤンを店の前で待たせ、裏口から店の中に入っていった。

そして表の鍵を開けると、ヤンを店の中に招き入れた。


「へぇ、雑貨屋ってこんなふうになってるんだ」


ヤンはこういう店に来たことがないのか、棚に並べられたファンシーな小物を物珍しそうに眺めている。


「ヤンさん、私は明日乗る竜車を頼んできます。そのついでに友達の家をまわって、ジェイクにも声をかけてくるので、すみませんが事務室にある木箱を五つ、こっちの店の戸口の所まで運んでおいてもらえませんか?」


「あ? ああ、わかった。そこに積み上げてるやつだな」


「ええ、それです。お願いします」


ヤンに雑用を頼んだジェシーは、まずはミリアの家に向った。

ミリアから、書いてもらった手紙を預かり、一度、家に戻って王子にそれを渡す。そして一人で庭の物置の影に行くと、気合を入れて変身してみた。


変身できてるよね?

あ、できてるっぽい。


股の間に違和感があるので、たぶん男の子になっているのだろう。


こういう時は、キラキラのバックミュージックがかかって、クルクル回りながら変身すべきじゃない?

前世のアニメだと変身シーンが見どころなのだが、異世界の魔法だと、いまいち地味である。


ジェシーはそんなことを考えながらも、魔法のカバンから取り出した王子の服に素早く着替え、今度は竜車を手配しに行った。


夜に知らない子どもが竜車を頼みに来たので、車両場のおじさんに不信がられたが、ボーデンの名前を出すと明日の貸し出しを快く請け負ってくれた。

毎月、竜車を借りているので、信用があったみたいだ。


あー、お腹が空いた。お昼をくいっぱぐれちゃったよ~。


ペコペコのお腹を抱えながら店まで戻ると、ヤンが事務室の椅子に所在なげに座っていた。


「誰だ?!」


ぼんやりしているのかと思ったら、即座に反応されたのでびっくりした。

あー、ドキドキする。

やっぱりどうこういってもC級冒険者はすごいなぁ。


「ヤンさんですよね。ジェシーから頼まれてきました。あの、ジェイクっていいます。よろしくお願いします」


ジェシーが挨拶をすると、ヤンは緊張を緩めた。


「なんだ、お前がジェイクか。ジェシーはどうした?」


「ジェシーはまだ用事があるので、明日、わ、僕たちが町を出てから、町の外で僕と交代するようです。今日はこの店に泊まるので、二人はこのまま銀寿荘に向ってくれと言ってました」


「そうか……しかしあいつの頭ン中はどうなってんだ? 俺なんか言われるがまま、動いてる感じだよ」


「そう、ですねぇ」


なんか他人が目の前で自分の噂話をするのって、変な感じだな。


でも、何と言ってもこれから銀寿荘の夕飯だよ!

あそこのご飯は美味しいからねぇ。


ジェシーはよだれが垂れそうになる口元を咄嗟に引き締めた。


これも役得だなんて思ってないよ。思ってないからね。


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