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最初の武器

怪鳥トリガーに出会ったことで、ジェシーは武器を持つことを考えるようになった。


ソファの上に寝そべって大あくびをしている先輩らしき人がそばにいたので、ジェシーは相談してみることにした。


「ねぇ、父さん。武器を買おうと思ってるんだけど、何がいいと思う?」


「んー? ジェシーは冒険者になりたいのか?」


父がゴロリと横になってこちらを向いてくれたので、ジェシーも向かいのソファに腰を下ろした。


「まだそこまでハッキリとは決めてない。でも、これからも森には採取に行くと思うし、こないだみたいな魔獣が出てくることもあるでしょ? あの時に森で何の守りもないままっていうのは、不味いなと思ったのよ」


「ふーん、そっかぁ。そうだなぁ、あんな魔物は滅多にダンジョンの外に出てこないから、別にいままで通りで大丈夫っちゃあ大丈夫なんだが。俺が小さい頃に使ってた(なた)がどっかにあったから、それを裏のチャドに研いでもらって使ったらどうだ? それはお前にやるよ」


「鉈って、小枝や下草を払うやつ?」


「ああ、ウエスト・フォレストの採取程度ならそれで充分だろ。本格的に森の探索に手を出すんなら、最初は短めの(やり)だな。リーチがあるから安全だし、初心者にも扱いやすい。それに剣を買うより安くつく。ただ、槍を振り回すんなら、防具も買ったほうがいいぞ。まずは頑丈な靴や、軽くて丈夫な胸当てや足周りの防具だ。冒険者になるんなら、最初は『逃げるが勝ち』ってことを覚えとけ。その逃げる時に有効な防具を選ぶことだな」


「へえ~、ありがと、参考になったよ」


C級冒険者以上の者しか討伐出来ない魔物を瞬殺する男が、逃げることを推奨する。

それを聞いた時に、父が闘ってきた長い年月を感じたし、経験からくる実感が伴ったアドバイスでもあると思った。

家では役に立たない父だが、外の世界でずっと戦ってきたんだろうなぁ。



父が言っていた鉈の場所を母に聞いたら、「さぁ、家にはないから庭の納屋の中じゃない?」と言われた。

本当にあるんだろうな。


納屋に行って戸を開けたら、顔に蜘蛛の巣がかかってきた。


「ぎゃああぁ」


やだやだ。蜘蛛は嫌いなんだよー、誰か取ってぇ。

ヒイヒイ言いながら顔から蜘蛛の巣を払い落としたジェシーは、目に付いた庭帚を掴み、それを剣のように構えながら、もう一度納屋の中をこわごわと覗き込んだ。


「お前、何やってんの?」


そんなジェシーに、のん気に声をかけてきたのは、裏に住む天敵チャド・クソバカだ。

鍛冶場からの帰りなのか、仕事用の汚れたエプロンを腰に巻いている。


「あ、え? なんでもないよー」


チャドに弱みを見せたくなかったジェシーは、箒の剣を下ろすと、なんとなくそのまま地面を掃くマネをした。


「プッ、噓でぇ。納屋の中になんかいたんだろう。ネズミか? それともお前が嫌いな蜘蛛あたりなんじゃないか?」


「えー、違うよ」


ジェシーはとぼけたが、付き合いの長いチャドは騙されてくれない。


「どら、何を出すんだ? 俺が取ってきてやるよ」


そう言いながらズカズカと納屋の中に入って行くので、ジェシーは仕方なく鉈を取ってきてほしいと頼んだ。


「鉈か。おーい鉈、どこにいる? 出てこーい」


「鉈が返事をするわけないでしょ。ホントにクソバカなんだからぁ」


「お前こそわかってないな。あった! ほら、これだろ。一番奥にあったから、あんまり使ってないんじゃないか? あーぁ、こんなに錆びちゃってる。鉈が可哀想だろ」


チャドが持ってきた鉈は、持ち手の木の部分がずいぶん使い込まれた色になっていて、肉厚の刃には赤錆が浮いていた。


「これ、どうすんだ?」


「かして! 森の採取に持っていくのよ」


ジェシーが取ろうとした鉈を、チャドはヒョイと上に持ち上げた。


「ちょっと! かしてよ!」


「ばーか、研がないと使えないだろ。俺様が研いでやるから、うちに来な」


チャドが鉈を持ったまま、ズンズン自分の家の方へ歩いて行くので、ジェシーは仕方なく後をついていった。



チャドの研ぎは手馴れていた。

水を少しずつ刃にかけながら、丁寧に磨いていく。


研ぎ具合と刃の鋭さを確かめるために、顔の前まで刃先を持ってきて鋭い目で検分しているチャドは、いっぱしの仕事人に見えた。

へー、学校を出てから、ちょっと変わったかも。



祖父のもとで、鍛冶師見習いをしているチャドは、もう大人へのスタートラインに立ってるように、ジェシーには見えたのだった。

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