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森での採取

商業ギルドの実習は、営業販売業務だけではなく、グレイリィ敷設の準備が同時進行で始まったということも相まって、非常に忙しいものになってしまった。

ジェシーの一週間の実習が終わる日には、メスカルに「このまま、うちで仕事をしてよ!」と涙ながらに引き止められてしまった。


そんなこと言っても、私はまだ学生なんだよね~

会長が貴族担当の人員を増やしてくれるよ、きっと。


その後、商業ギルドに実習の完了を報告しに行ったら、偶然、ロバートのじいちゃんに会って、強引に会頭の部屋に引き入れられた。


「それで、ホルコム商会はどうだった? 何か興味深いことはあったかね?」


そんな風に実習先の様子を根掘り葉掘り聞かれたが、いくら商業ギルドの会頭だとはいっても、仕事で知り得たことは、話しちゃダメだよねぇ。

もしかしたら、ゴールデン会頭は、ジェシーを体のいいスパイにしようとしてたのかな?

そんな穿(うが)った見方をしてしまいそうになるぐらい追及がしつこかった。


結局、何だったんだろ。



そんな激動の一週間だったので、ジェシーは久しぶりにのんびりと、森の中を散策したくなった。

ミリアもそろそろ採取に行きたいというので、今日は二人でウエスト・フォレストにやってきた。


ジェシーたちが実習で忙しくしている間に、森には若葉が芽を吹き、鳥たちが春の歌を歌い出していた。


「やっぱり町中で大勢の人に会う仕事をしてるより、森の木々に囲まれてる方がいいなぁ」


清々(すがすが)しい空気を胸いっぱいに吸い込みながら、ジェシーがそんなことを言うと、ミリアも笑って頷いた。


「わたしも村のくらしになれてるから、まわりに木がたくさんあるほうがおちつく」



さて、今日はどっちの方角に進もうか?

そんな風に、やることを自分で決められるのも心地いい。自分は思ったより父親に似ているのだろうか?


ミリアと一緒に森の中を西へ西へと進んでいると、だんだんと木が少なくなり岩があちこちにむき出しになっている丘が見えてきた。

丘の上には壊れた石柱のようなものがいくつか見えるので、古い時代の遺跡なのかもしれない。


「あれはもしかして、ピュリンガいせきじゃない? だとしたら、わたしたち西へむかってるっておもってたけど、だいぶ北のほうへずれて、すすんできちゃったんだね」


「ミリア、ここのこと知ってるの?」


「うん。くだものやにピュリをたくさんもってきた男の子がいてね。その子にどこでとったのかきいたら、北のほうのピュリンガいせきのまわりだって、おしえてくれたのよ」


「へぇ~、いいじゃん! 取り残しがあったら、ラッキーだね」


ピュリというのは、春先に出回るイチゴのような赤くて丸い果物だ。本物のイチゴよりも粒は小さいが、甘みが強くて美味しい。ジェシーは、ピュリを煮込んで作ったジャムをパンにつけて食べるのが大好きなので、ワクワクしてきた。



遺跡の手前の方のピュリはもう採りつくされているようだったが、草むらをかき分けて奥へ入っていくと、ピュリの群生地があった。


「やったー! 見つけたよ!」


「ホントだ、まだこんなにのこってるよ。よかったねー」


ジェシーとミリアが喜び勇んでピュリの実を採っていると、遺跡の向こうの林の中から、何か鳥のようなものがギャーギャー鳴いているような声や、バサバサという大きな羽音が聞こえてきた。


これは小鳥の声ではない。ちょっと不穏なものを感じる。


「ねぇミリア、ちょっとヤバそうな感じがするんだけど」


「にげよう、ジェシー! あ、出てきた!」


ミリアが見ている方へ振り向くと、木の間から金色に輝く鳥が姿を現した。プテラノドンを小さめにしたような見た目だ。


二人はピュリが入った採取袋を引っ掴むと、鳥が出てきたのとは反対側の森に向って一目散に逃げだした。


「うわぁぁぁぁぁぁっ」


ヤバいヤバいヤバい。


体長が大人の男の人ぐらいあった。

いくら鳥だとはいっても、あれは怪鳥といっていいよね。こんな大きな鳥がウエスト・フォレストにいるなんて、聞いてないよーーー。



「はぁはぁ、大丈夫? 追いかけてきてない?」


しばらく走っていたが、何の音もしないので、ジェシーとミリアはやっと震える足を止めた。胸が壊れそうにドキドキして、背中に冷や汗をかいている。


「まいったね。まだピュリをとりはじめたばかりだったのに……」


ミリアは悔しそうだが、あれと素手で戦って勝てる気がしない。

そういえば武器を持っていないや。これから冒険者稼業を続けるつもりなら、父さんが持ってるような剣が必要なのかなぁ。



怪鳥が金色に光っていたことを思い出したのは、ジェシーたちが冒険者ギルドに帰り着いた時だった。

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