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ホルコム商会

気は重いが、今日から商業ギルドの実習だ。


母親が街道沿いに店を構えているので、ジェシーも商店街のことはよく知っていたが、ホルコム商会がある通りにはあまり来たことがなかった。

通りには倉庫がずっと建ち並んでいて、北街道よりも筋を一つ入った所にあるので、人通りも少ない。


学校から一緒に歩いてきたワルスとは、運送屋の前で別れた。

ワルスが入って行った店では、大きな荷物を移動しているような威勢のいい掛け声が飛び交っていた。


ジェシーもすぐ近くにあったホルコム商会の営業旗を見つけた。その店の間口は広いが、外から見たところ店売りの品物などはまったく置いていない。どちらかというと、店というよりは問屋のような雰囲気だ。

ジェシーは重量のある引き戸を開けると、薄暗い店の間におそるおそる入って行った。


「こんにちは、どなたかいらっしゃいますか? 学校から実習に来た者ですが」


扉を開けてすぐの部屋に誰もいなかったので、奥に向かって声をかけると、縄のれんをくぐって中年の男の人が出てきてくれた。


「いらっしゃい、先生から連絡はきてますよ。ジェシーさんだね。うちの会長に引き合わせるから、ついていらっしゃい」


「はい、よろしくお願いします」


店の人が思っていたよりも普通の応対をしてくれたので、ジェシーはホッとした。

男の人について薄暗い通路を歩いていると、両側に等間隔にドアがあったので、たぶんその部屋は事業の相談や商品の注文などを個々に受ける場所だと思われる。

やはり最初の印象通り、ホルコム商会の事業形態は問屋らしい。


この店に学校の生徒を受け入れないというのは、よくわかる。

ここで子どもができることといったら、お客さんにお茶を出したり、掃除をするぐらいではなかろうか。でもそんなことは、とっくに専門のお手伝いさんを雇っているだろう。

店同士の取引に関わるので、秘匿しなければならない情報も多いと思われる。


なんか、場違いだよね。



通路が途切れたところには、大勢の人が事務仕事をしている部屋があった。

ジェシーたちが入って行くと急に静かになり、チラチラと視線を感じた。


男の人はそんな視線をものともせず、ずんずん奥に進んでいき、仕事部屋の最奥にあった大きなドアをノックした。


「お入り」


低い声がドアの向こうから聞こえてきたので、男の人とジェシーは中に入って行った。


おー、ドキドキする。

なんかボス部屋感があるな。



「実習生のジェシーを案内しました」


「うむ、ごくろうさん。所属を決めて、後で挨拶させるから、みんなにそう言っておいてください」


「わかりました」


案内をしてくれた男の人が出ていったので、部屋にはジェシー一人だけが残された。

心細いことこの上ない。


「緊張するなと言っても無理だろうが、初めての場所でも働いているうちに慣れてくる。まあ、そこに座って楽にしなさい」


会長に目で示されたので、ジェシーは返事をして、ソファに腰かけた。革張りのソファからはプンとなめし油の香りがした。


会長は作業していた書類を机の隅に片付けると、ソファの方へやって来てジェシーの向かい側に座った。

アンジェリカの父親というには、平凡な容姿に思える。たぶん彼女は母親似なのだろう。


「私はハワード・ヴァンテス・サード・セブルスという。ここの会長だ。君にとってはアンジェリカの父親と名乗った方がわかりやすいかな。まぁ、一週間という短い間だか、君の上司になるわけだ。よろしく頼む」


「ジェシーと申します。こちらこそよろしくお願いします」


ゲッ、長い名前。覚えられそうにないな。まぁ、ただの見習い実習生だから「会長」呼びでいいよね。

ジェシーはそんな失礼なことを考えていたが、会長の方はそうではなかったようだ。


「ほう、申します、ときたか……君のご両親は何の仕事をしているの?」


「えっと、父は冒険者です。母は商店街で雑貨屋を営んでいます」


「雑貨屋? なんという屋号だい?」


「『お気に入りボーデン』です」


「ボーデン? ああ、レディ・ボーデンのところか。なるほどねぇ」


会長は、なるほどなるほどと頷いていたが、ジェシーには何がなるほどなのかさっぱりわからない。

ボーデンというのは、ジェシーの大叔母さんの嫁ぎ先の家名なので、そちらの親戚を誰か知っているのかもしれない。


「ふむ、そうなると、所属はメスカルのところだな」


あ、所属の希望は聞かれなくて一方的に決められちゃうのね。やっぱりこんなところは、アンジェリカの父親だ。


ジェシーの直接の上司になるこのメスカルという人は、若い男性だったのだが、心は乙女なお姉さんだった。つまり、ソフトな表現に言い替えるとジェンダーレスな方だった。

ジェシーは前世を含めて初めてこういう人に接したので、最初は戸惑うことになるのだった。

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