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アンジェリカ

時の塔のガラスの中を泳いでいる青い妖精をぼんやりと眺めながら、一人でベンチに座っているジェシーの前に、アンジェリカがやって来た。


「呼び立てて申し訳ありません。あなたが実習に行く前に一言、言っておきたいことがあったのです」


相変わらず一方的なお嬢様だ。

ジェシーとしては、アンジェリカと話したいことは何もない。


学校でも「広場のベンチで、待ってらして」と命令されたので、黙ってバックレようかと思っていたが、それを聞いていた先生にも「それはいい考えですね」と言われたので、しぶしぶここに来てアンジェリカを待つことにした。

いったい何がいい考えなんだろう。めんどうなことこの上ない。



アンジェリカはジェシーの隣に腰をかけると、わずかに躊躇した様子を見せた後で、顔をキッとジェシーの方に向け、宣誓でもするかのようにハッキリとした声で話し始めた。


「まずは、先日のジェスさんとのことで、あなたに不快な思いをさせたことをお詫びいたします」


「は?」


ジェシーは、話が意外な内容だったので拍子抜けした。

てっきり、年上の者を暴力で言うことを聞かせようとするのは、けしからんなどともったいぶったことを言いだすのではないかと思っていたのだ。


「あなたに謝るのは本意ではありませんが、自らの非に目を背け続けるのも精神衛生上よくありませんの」


「はぁ」


「あの時、あなたは『先生の話をちゃんと聞いていれば解けるはずの簡単な問題だった』とおっしゃいました。けれど……上級クラスの誰一人として、簡単な問題だとは思えませんでした。下級生にバカにされたように感じたのは、ジェスだけではなかったのです」


「だからと言って……」


「そうですね。ちっぽけなプライドが傷つけられたかといって、ああいうことをしてはいけませんでした。それは反省しています」


本当に反省しているのだろうか?

ツンと顔を上げたアンジェリカの態度は、とてもしおらしく自分の非を認める人のそれではない。


その時、ハンカチを握っているアンジェリカの手が少し震えているのを見て、ジェシーは得心した。

なるほど、ジェシーにこんなことを言うのは彼女なりに勇気がいったのね。


「わかりました。謝罪らしきものは受け入れます。それでは話がそれだけでしたらこれで」


さっさと帰ろうとしたジェシーのことを、アンジェリカは慌てて引き止めた。


「お待ちなさい」


「はぁ? 一言と言っておられたんですから、もう用は済んだんじゃないんですか?」


「あなたねぇ、その生意気なところは、いただけませんよ」


それはこっちのセリフだよっ。

この女とは合い入れないものがあるな。



「さっき先生に、実習先がホルコム商会だと聞いたでしょう。そこは私の家です」


なんですとぉおおおおーーーーー?!!


いや、なんか聞いたことがある名前だと思ってはいたけれど、よりにもよってアンジェリカの家だったとは……

終わった。

ワルスたちのことを言えないじゃん。これは厳しい。べこべこに凹む。


「私の家は、いつも学校の実習生は受け入れていないのです。従業員教育をちゃんと済ませた者しか、店におりません。今回は商業ギルドのゴールデン会頭から『ジェシーをホルコム商会で預って欲しい』と強い要望があり、うちの父もしぶし……いえ、会頭の意に添うべく積極的に生徒を受け入れることになりました」


今、しぶしぶって言ったよね。

しかしロバートのじいちゃんは、何を思って私をアンジェリカの家に回したんだろう。

嫌がらせか?


今回の校外実習は、一週間ある。全員で一軒の店屋に行って手伝いをするのではなく、一人一人が能力や適性に見合ったかたちで、実習先を振り分けられるようになっているようだ。


ミリアはよく買い物に行っている果物屋に行くことになったし、ワルスは運送屋だと言っていた。

ジェシーの場合は、母さんの雑貨店でもよかったのだが、家の手伝いでは実習にならないということで、他の女の子たちも自分の家ではないところに実習先が決まっていた。


これから一週間もアンジェリカと顔を突き合わせることになるのか……


凹むジェシーにアンジェリカが追い打ちをかけた。


「今日からしばらくの間、私のことをアンジェリカお嬢様と呼ぶように」


それが言いたかったんかーい!


ちょっと気が遠くなるような気がするジェシーなのであった。

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