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自分

どうしたらいいんだろう。


ジェシーは自分が自分であることを祖父や祖母にわかってもらえるか不安になって、ついつい自宅の方へ向かっていた。


いや、こっちに帰って来たって食べる物がないかも。

家をしばらく留守にすることがわかっていたので、母さんは腐ってしまうような生ものは買ってきていないだろう。家のパントリーに何か夕食にできるものが残っていたとしても、せいぜい缶詰ぐらいだ。


あー、お腹減ったな。

ばあばのシチューが食べたいなぁ。


いつものように我が家のドアを開けようとしたジェシーは、そこでまた自分のうかつさに気が付いた。

鍵がかかってたんだった……何してんだろう、私。


やっぱ、みんなを驚かせてしまうことになっても、とことん説明してわかってもらうしかないか。


おじいちゃんの家にもう一度行ってみようと考え直して歩き出したジェシーの肩を、誰かがグイッと乱暴に掴んだ。


「おい、お前。ジェシーをどうしたんだ!」


うんざりだ。

こんな時にこいつに捕まるなんて。


そこには不穏な空気をまとわせて、ジェシーを睨みつけているチャドが立っていた。


なんで今日は会う人ごとに、こんな風に理不尽に睨みつけられないといけないのよ!

何かがプッツンと切れたジェシーは、クソバカに向って大声で怒鳴った。


「ジェシーが何だっていうのよ。あんたはジェシーの敵でしょ?! ジェシーがどうなろうと関係ないじゃない」


「なんだとぉ?! お前、やっぱりジェシーをどうかしたんだな! 何であいつの服を着てる?! あいつはどこだ!」


チャドが飛びかかってきたので、ジェシーは抵抗してチャドの顔をガリガリと引っ搔いた。


「やめて、やめてよ。このクソバカ! こんなことをしてる場合じゃないんだってば」


チャドの力が強くて逃げられなかったので、ジェシーは今度はチャドの腕を叩こうとした。するとその両手を即座に捕まれて、とうとうジェシーは動きを止めるしかなくなった。


ジェシーの顔を正面からジッと見つめているチャドは、今度は戸惑っているように見える。


「おい、キャンディ缶のフタをいまだにタンスの引き出しに隠してるんだってな。だっせぇ」


「なんであんたがそんなことを知ってるのよ」


あ、ランスのやつぅ、こんなことまで告げ口してたのか。今度いっぺんしめなきゃな。


ジェシーはそんなことを考えていたが、チャドの方はジェシーが言ったことを聞いて、ひどく驚いているようだった。


「まさか……まさかお前、ジェシー……か?」


「そうよっ。だから手を離してよ」


「え、ホントに?」


チャドのこんな崩れた顔が拝められるのだったら、ジェシーは何でもしただろう。けれど今はジェシーの方もテンパっていたので、そんなことを気にしている場合ではなかった。


「今日、学校から帰ってたら、上級生の女どもに絡まれて、理不尽な言いがかりをつけられたの」


「何だって? そいつらに何かされたのか?」


「バカね。私を誰だと思ってるのよ。返り討ちにしてやったわ」


「……ああ、ホントにジェシーなんだな」


「そこで納得されるのも、ちょっと違う気がするんですけど。まぁとにかく、その時の私は頭にきてて、女の嫌な部分に辟易(へきえき)してたの。だから、男に生まれればよかったって、強く願ったのがマズかったみたい。うん、そう……やっぱりあの時に、ダーシャの怨念か何かが……うーん」


「何のことかよくわからないが、これからお前はその格好で男として生きていくことにしたのか??」


チャドにそんなシンプルな質問をされて、ジェシーはギョッとした。


これからずっと男として生きるですって?

そんなこと望んでるわけないじゃん。ミリアと遊べなくなるし、私は私だから私なんであって、私が俺や僕になるなんて考えられない!

それに孫の中で唯一の女の子がいなくなったら、じいじとばあばがどんなに悲しむことか。


その時、ジェシーの身体が静かに発光し始めた。


その様子を息を飲んで眺めていたチャドが、乾いた喉に無理やり空気を送り込むようなかすれた声でジェシーに言った。


「ソバカス、戻ってるぞ……」


「え、本当?!」


力が抜けたチャドの腕を振り払って、ジェシーは家の窓に飛んで行った。

少し汚れた窓ガラスには、いつものようにソバカスがいっぱい浮かんだ、懐かしい自分の顔が映っていた。

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