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あいつ

春先の天気が悪い日が続いている。

植物の種が芽を出すのに必要な慈雨だとは思っているが、学校が休みの日がここのところずっと雨でつぶれているのはいただけない。


あれからジェシーとミリアは、もう一度だけ森に採取に行くことができた。

その時は薬草がたっぷり採れたので、二人ともそこそこのお小遣いを稼ぐことができている。


ハルシラセや薬草を売ったお金で、ミリアは髪に付ける赤いリボンを買った。他の女の子達が髪飾りを付けていたのが、ずっと羨ましかったらしい。


ジェシーは髪を伸ばすのが嫌いなので、癖っ毛のある金髪をバッサリ切って、いつもショートヘアにしている。なのでミリアが勧めてくる髪飾りには目もくれず、屋台に行ってホットドッグやフライドポテトを大人買いして、お腹いっぱい食べた。


自分が稼いだ金で美味しいものを食べる。働く意義は、これでしょ!


あーぁ、でもこんなに雨が続いたら、ぜんぜん稼ぎに行けないじゃん。


「早く晴れないかなぁ~」


ジェシーが窓から外を見ていると、裏のクソバカが傘をさしてジェシーの家の方へやって来た。弟のランスも一緒のようだ。

どうやらランスはこの雨の中、裏の家に遊びに行っていたらしい。


ジェシーは裏口に小走りで先回りし、相手がノックをする前にドアを大きく開けた。

クソバカは、手をノックする形にしたままフリーズして、目を見開いている。


勝った。

フフン、どうよ。


勝ち誇ったジェシーの顔を、クソバカは呆れたように見て、ボソッと言った。


「こどもだな」


キーーッ、こういうところがこいつの嫌味なところだ。

クソッ、なんか悔しい。悔しいんだけど……


ジェシーのそんなイライラした気持ちなど気にもかけず、クソバカはランスに話しかけた。


「俺、これからじいちゃんの作業場に行くから、午後は来るんじゃないぞ。来ても誰もいないからな」


「わかった。ねぇねぇ、チャドにいちゃん、うちでひるごはんをたべていけば? アネキがつくるごはんは、なかなかなんだぜ」


空気を読まないランスの提案に、思わずジェシーとチャドは顔を見合わせた。


「あんたのご飯なんかない」


「だよな」


きっぱりと断るジェシーの態度に、チャドは苦笑している。


「クッ、ソバカスが真っ赤になってるし」


小さく付け足したチャドの声が、耳のいいジェシーにはバッチリ聞こえた。

カッと血が沸騰してきて、頭の血管が切れそうになる。


ジェシーは、手をブルブル震わせて戸口を指さした。


「さっさと帰れ、クソバカ!!」


「クッハハハハッ、わかったよ。じゃあな、ランス」


「うん、バイバーイ」


バタンと閉まったドアに向かってジェシーが歯を剥いていると、ランスが両手をあげて肩をすくめ、お手上げのポーズをした。


「まったく、アネキとチャドにいちゃんは、なかがよすぎるよ」


「あんた、どこを見てんのよ。私たちのどこが仲良く見えるって?!」


思わず声が大きくなるジェシーの様子を見て、ランスはため息をついた。


「だって、おたがいに、いしきしすぎじゃん。かあさんもいってたよ、ふたりともせいかくがにてるって」


マジ?!

あいつと私が似てるですって?!


そんなことあるわけないじゃん。まったく、母さんもランスにおかしなこと言わないでよね。

あのクソバカは天敵だ。いつ顔を合わせてもイライラする。

なんであんな奴が、うちのすぐ裏に住んでるんだろう。


そうやって、相手のことをずっと考えていることこそが意識しているということなのだが、ジェシーはそれがまったくわかっていなかった。



この時、チャドは八歳で、ジェシーよりも二歳年上になる。二年前に学校を卒業してから、祖父の鍛冶屋を手伝いながら、鍛冶職人になるべく修行している。

チャドの両親は二人とも冒険者なので、いつも家にいない。今は息子を父親に預けたまま、遠くのダンジョンに出稼ぎに行っている。



実は、これからジェシーが授かることになる神様のギフトに、この天敵のチャドの協力が欠かせないことになるのである。

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