初仕事
学校が休みになったので、ジェシーとミリアは森に草を採りに行くことにした。
冒険者ギルドの前で待ち合わせをしていたのだが、ジェシーが着いた時にはミリアはもう正面階段のところに腰かけていた。
ミリアのそばには、竹で編んである大きな背負子が置いてある。それに虫よけのためだろうか、顔は手ぬぐいで頬かむりをしている。
気合が入ってるなぁ。
「ミリア、お待たせ~」
ジェシーが座っているミリアの前に立つと、ミリアは顔を上に向けてため息を一つ吐いた。
「もうジェシーったら、おそすぎる。ぼうけんしゃの人たちは一じかんも前にみんなあちこちにでていっちゃったよ」
「ごめんー。出がけに弟に絡まれちゃってさ。自分もついて来たかったみたい」
「おとうとくん、四さいだっけ? 長く歩けるんなら、つれてきてもよかったのに」
「いや、ムリでしょ。山に住んでいる人とは違うのよ。平地の、それも町中の平らな地面しか歩いたことがない幼児が、木の根っこがあちこち張り出してる森の中を歩けるとは思えない」
「そっか、まぁわたしたちもまだ草をさがすのになれてないし、つれてこないほうがよかったのかな」
「そうそう。じゃ、遅くなったけど行きますか」
「オッケー、きょうはがんばるぞー!」
手をあげて頑張りポーズをしているミリアの腕を引っぱって、ジェシーたちは冒険者ギルドの中へ入って行った。
建物の中は閑散としていた。ミリアが言ったように、ジェシーたちは出遅れてしまったようだ。
ちょっと焦る気持ちを抱えて、受付に歩いて行くと、登録手続きの時に薬草の採り方を教えてくれたお姉さんがニコニコ笑いながら迎えてくれた。
「あら、おはよう。あなたたちは今日は来ないのかと思ってたわ。同級生の男の子たちは朝一番に手続きをして、森に飛び出して行ったわよ」
わ、そうなんだ。なんだかちょっと負けた気分。
でもこっちには魔力サーチがあるもんね。遅れは取り返せるよ。
「私たちもこれから森に採取に行きたいので、手続きをお願いします」
「はい、いいですよ」
ジェシーとミリアがお姉さんにギルドカードを渡すと、お姉さんは「ちょっと待ってね」とジェシーたちに断りを入れて、後ろにある棚の中から分厚いファイルを取り出してきた。それをジェシーたちの前のカウンターに乗せると、最初のページを開いた。
「二人とも初めてだから、簡単に冒険者ギルドについて話しておくわね。まず、この図を見てちょうだい」
そう言ってお姉さんが見せてくれたページには、組織図のようなものが書かれていた。
それによると、こういうことらしい。
ジュニアクラス・・・6~9歳(見習い)
Eクラス・・・一般ギルド員(一般社員)
Dクラス・・・中堅ギルド員(係長)
Cクラス・・・ベテランギルド員(課長)
Bクラス・・・優秀ギルド員(部長)
Aクラス・・・最優秀ギルド員(幹部)
カッコの中は、説明を聞いた時のジェシーの印象だ。
つまり十歳になると、正式な冒険者として認められるということらしい。お姉さんも「Eクラスになると、あそこの掲示板に貼ってある依頼が受けられるようになるのよ」と言っていた。
ということは、学校を卒業する八歳になっても、二年間はアルバイトぐらいの収入になるのかな。
それにしてもうちの風来坊というか父親は、一応Aクラス冒険者だと言ってたし、意外とできる男だったんだなぁ。
ジェシーにしてみれば、気が向いた時にふらっと家に帰ってくるどこかの寅さんのような人だと思っていた。
小さい頃から母子家庭のような生活だったので、母親が移動販売に出かけて町にいない時は、ジェシーと弟はいつもおじいちゃんの家に預けられていた。
家の周りに五人の叔父さんたちの家があるので、父親がいなくても特に困ることもなかったが、弟にとっては寂しいものもあるのだろう。ジェシーの家の裏に住んでいるクソバカの後をついて歩くばかりしている。
ぐっ、今日はクソバカのことなんかどうでもいいのよ。
「方向石を渡しておくから、なくさないでね。帰って来た時には、こっちに戻してもらう決まりになってるから。それと、ジュニアクラスの採取場所は、ウエスト・フォレスト限定になってるの。東にはダンジョンがある森があるから、たまに、はぐれ魔物が出没することがあるの。だから、安全な西側で活動するようにね」
そうそう、安全が第一。
君子危うきに近寄らず。
顔を見ると、なぜかイライラしてしまうので、あのクソバカには近づかないようにした方がいい。
お姉さんの説明をしっかり聞いたので、ジェシーとミリアは初めての冒険?に向けて旅立つことにした。
なんだかちょっと、ドキドキするな。




