家を追い出された元貴族、ヒャッハーしてそうなゴツい野郎からの忠告を断ったら後にその男からのご祝儀を貰うかもしれない
いくつもの世界と交差する異世界の一つ。
とある国のとあるギルド_
治安はともかく今日も自称荒くれ者や冒険者の賑やかな声がする。
『かぁー!仕事の後は一杯飲むに限る!』
『ついにBランクに到達したぜぇ!』
『次の方どうぞ!!』
『このスカッとするブツ(薬草)をよぉ、市場より安く譲ってやるぜ!』
ギルドに一人の男が入ってきた。
背は高く、肌は筋肉が目立つ程焼けてモヒカン、面は強そうだがチンピラやゴロツキの雰囲気がよく当てはまるだろう。
椅子に座るや口を開く。
「そこのねぇちゃん、アレを頼む。」
一分くらいするとギルドの職員の女性が緑のボトルと木製のジョッキを持ってきた。
「……悪ぃ、ジョッキもう1つ、いや、2つ用意してくれ。」
彼はツィーゴ・カケミセ。
この世界の住人だ。
ギルドに来るや近くにいた人々が小声で話し出す。
離れれば聞こえないくらい小さく話すのだ。
彼は一つのジョッキに瓶の中の冷たい液体を注ぐ、するとブドウの詰まった香りがした。
それを口へ流す。
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今ギルドに着いた。
街の端とはいえなかなかの大きさだ。
俺がかつて居たあの家くらい。
「やっと着きましたねぇ〜ウィード様!」
「うん、日が沈むより前に来れて良かった。……っと、『様』はつけなくていいよ。」
「はい!わかりましたっ!」
俺はもうそのように振る舞うことはできないから。
俺はウィード・ニャーロ。
日本に住んでる高校生だったが不幸な事故で死亡、そして奇妙な運命か前世の記憶を持って貴族の家に生まれる。
しかし名門貴族のニャーロ家が得意としていた光属性の魔術を俺は使えず禁忌とされる闇属性の魔術を使えると知る。
俺が14才になり闇属性の魔術を一番使え、水、土、の2属性も多少使えるようになると知ってから嫉妬なのかそれとも他に何かあるのか家族だった者達からいないものとして扱われそして追い出された。
ちなみに普通は魔術の才能があっても光と闇属性のどちらかに適正があるとその一つのみ使えるらしい。
冷たい家族とは違い黒髪のメイド、シャールはずっと変わらず腫れ物扱いもせずに仕えてくれた。
彼女はそんな一人ぼっちになった俺についてきた。
みんなが拒絶する中で彼女だけが俺の味方をしてくれたんだ。
彼女ためにも応えるためにも魔術の腕を磨き続けている。
「じゃあ、行こう。」
「はい!」
俺はシャールと共に声の漏れる冒険者ギルドへ足を踏み込んだ。
中は人は多く騒がしい。
酒の匂いを弱いがする。
自分はゴロツキと言ってるような格好のやつもそれなりにいた。
「広いですね〜大きいですね〜」
シャールはくるくると回るように見回していた。
「シャールもここに来るのは始めてだったりする?」
「そうじゃないですけど私が来たときは建て直す前のときですよ。」
シャールの生まれがこのあたりだと聞いたからやはりそうだったみたいだ。
「ならギルドに登録するところがどこか知ってたりは?」
「うーん、前と内装は前と似てますから……あそこですね!」
「_待ちなお二人さん。」
低い声、声の発信源から俺達を呼んだのだろうか。
「そうだオレだ。」
ふむ、なかなかに凶悪な雰囲気を出してる。
それに強いブドウの匂いがした。
こんな時間から酒を煽ってるのかよ。
【ステータス表示】で一応どんなやつか確認するか……うんまぁ悪くはない、この世界基準では。
世紀末の雑魚肩パットの見た目にしては上の下くらいはある。
魔術関連は初歩程度か。
「何か御用ですか?」
「冒険者登録するのだろ?はっきり言おう、やめてときな。」
やはり場所が場所だ。
こういった難癖つけてくる暇人もいるのだろう。
テーブルの真ん中を軽く叩きそんなことを言った。
これ以上絡まれることを避けるため適当に流すか。
「俺は自分の意志でここにいるんだ。それに魔術は得意分野だがかなりできる。」
「んなことで止めたんじゃねぇよ坊主、クックックッ……」
さっきからシャールのことをコソコソ見てるな。
それがコイツの目当てなのか。
「悪いがアンタにかまっ『良かったですねウィード様!ちょうど私達流れ旅でここに来たんですよ〜』シャール!?ちょっと!?」
「ふー、ごちそうさまです!ありがとうございます!」
「おう。」
よくわからないが一杯奢りらしい。
シャールから無理やり飲まされたがあれブドウジュースだったのか。
魔術で調べても何かしら害を与えるものは入っていなかった。
「……助かる、ありがとう。」
「オレはツィーゴ、こうすれ違うのも縁だ。そんな気にすんな。」
味は素朴だ。
風味は俺の知ってるブドウジュースと比べて違和感が少しある程度。
品種改良などに力を入れてないのだろうか?
でもおいしい。
「ウィードだ……それでどうして俺を止めたんだ?ただ嫌がらせをするためではないようなんだが。」
「まぁ、なんだ、一つはそこのメイドは同郷だとわかるがにいちゃんはよそ者だろ。ここは狭い町だ、冒険者として活動する前に顔を覚えて貰え。」
「具体的にはどうすればいい?」
「ここのギルドに居るときや必需品を買い揃えときにそれなりの挨拶でもすればそれで大丈夫だ。だが言葉に気をつけな、どこの生まれだろうと今は流れ者には変わりないからよぉ。」
すごく優しくないかこの人。
「それともう一つあってよ。だがその前に……」
ツィーゴが途端に脱力をした。
肩の力を抜き顔の表情も眠る人の様になっている。
『おい兄ちゃん、聞こえるか?』
声が頭に響いた。
音じゃない耳では聞き取れなかった。
意思疎通系の魔術というものか?
『そうだな。これで長話はできねぇから完結に言うぞ。』
なんのことをだ?
『お節介だろうがシャール、だったか?アイツは危険だ。どうするかはオレが決めることじゃねぇが……ツルんでると得るものはあってもなかなかのものを失うことになるぜ。』
っ!?……いや、ツィーゴは心配しているのか、なら腹を立てるのも筋違いだな。
それでもシャールは俺といてくれると言ってくれた。
なら俺もシャールと一緒にいる。
『後悔だけはするなよ。』
もちろんそのつもりだ。
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もう日も落ちて辺りは火の灯る所の近くでなければ何も見えない。
ツィーゴの助言には助かっている。
いつかこの借りは返そう。
近くの食堂もいいところだった。
「お辛いかもしれませんがお宿までもう少しですから頑張りましょう!」
「大丈夫だよ、平気平気。」
長時間の移動で疲れた、シャールが元気そうなので羨ましい。
もうなんだか疲れた。
声もボゾボソで聞こえいいかな?
ごめんシャール、なんだか足が重いんだ。
ちょっとこの辺で横になっていいかな?
「だめですよ!?そんな隙だらけだと悪〜い人に襲われちゃいますよ。」
ならシャール……重いけど引きずっていいから宿までお願い。
「もう、仕方ありませんね。ふふふ……」
あっ、おんぶしなくていいよ。
君だってキツいでしょ。
「かわいいウィード様のお願いです、私も頑張りますよ!」
カワイイ?
違うよ僕は……
もうなんでもいいや……頼むよ。
「はい!」
うっ、なんだろう?
誰かに口を引っ張られる感じがする。
それにしてはとても暖かい。
瞼を開いても光は感じられない。
おぼろげな何かが動いている、それのせいだろう。
ブドウの匂いがちょっとする。
確かツィーゴから貰った一杯がおいしかったから食堂でも似たものを頼んだっけ?
ん、いや!?
おぼろげが、それが人だ!
「ングッ!?ン、ンーン!?」
何をしてるんだ!
あれ?振りほどこうにも力が入らない!
シャールだよね!
そうなら、俺のことがわかるならちょっとどいてくれ!
「ンンーン、ふはっ、シャール!?」
「お目覚めですか?でも今は夜ですよ?」
「何を言ってるんだ!いいからちょっとどいてよ!」
首から上しかまともに動かない。
でもそれを言ったら危ない気がする。
「今なんで動けないのか?と考えてましたね?そんなの私が動けなくしたからですよ。あっ、アレが動いてますね?」
やかましい!
ってそうじゃなくて。
いや、そうなっちゃうけどさぁ。
「どうしてこんなことを!?」
「聞いちゃいますかそれ?好きだからに決まってるじゃないですか?バカなのですかウィード様。」
「えっ、あっ、んん!?」
「そもそも貴族だとしても家から追い出されたなんの繋がりもない上に無賃金でウィード様のお供をしてるところからわからないものですか?」
せやな、わかる。
今ならすごくわかる。
「アナタのことです。お供してる私に手を出すのは信頼を裏切るなどと臭いことでも考えているのでしょう。」
お供しゅごい、なんでも知ってる。
「で、でも身体動かせない必要ないよね?」
「少しは自分がどんな人間かわかってないものですか?私のことが好きなクセに誘ってもアナタはやんわり断り、例え強めにでても魔術とかで誤魔化すのでしょう?」
「そんなこと……」
あるかもしれない。
「なのでバカで優しいくてかわいいウィード様が誰ものか……」
バカって言った!
そんなに言わなくてもいいでしょ!?
「……わからせてあげます。」
「おっ、落ち着いて、一旦話し合おう!」
「うるさい、力も魔力もとっくに吸われてるくせに!ワタシを見ろ!ワタシだけを見ろ!」
「ちょっと!ああ!?待って!」
強く押されまた抱きしめられている。
「あ、その、当たって……」
「どうかしましたか?嫌でしたらお得意の魔術でなんとかしてみてはどうでしょうか?」
え?え?
いや、魔力吸ったとかは……
「お肌がスベスベですね〜モチッてしますね。」
「あう……もうやめっ、ひぁっ!?」
スッパじゃん俺。
ふと圧迫が弱くなり首元に触れられる。
くすぐったいから首元を撫でないで欲しい。
「魔術、使いませんね。同意ですかそうですよねわかりました。」
「だ、だってさっき魔力を……」
「言い訳するな!お前は使わなかった!……それともウィード様はそのような無理矢理が好みなのですか。すみません配慮が足りていませんでした。」
これ抵抗する意味なくない?
ないよねぼくがんばったからもういいかな。
「ふふ、私を受け入れてくれるのですね。ありがとうございます。ではお望み通り、」
シャールの目がとても淀んで透き通って、綺麗だ。
「……いっぱいしてあげますね。」
少し前に夕日が眩しい中で世紀末の雑魚風の男、ツィーゴは思った。
ご祝儀はどれくらい用意したらいいかちょっと調べないとな、と。