第二十章その5
族長がいる屋敷に案内され、猫人族との契約もすんなりと通った。
首飾りに呼びかければ助けてくれるらしい。
見返りは面白そうなものというざっくりしたやつ。
猫人族って、ほんと猫みたいなんだな。
「勇者様。これからどうされますか?」
胸元でタイニーが訊いてくる。
とりあえず当初の目的ではこの後<遠吠え岬>へ向かって犬人族を仲間にすること。
「みかん町を出てから結構時間かかっちゃったしなー。でも途中で放棄することはできないしとりあえず犬人族に会いに行くよ。」
というのも、先ほど族長と会った時に聞いた話によると、<神の軍勢>の動きが活発になってきているらしい。
動物の勘とでもいうのか、何やら嫌な空気が世界を覆っていると言うのだ。
「嫌な空気ってのが何なのかは分からないけど、とりあえず今はできることを少しずつやるしかないかな。」
そう言うと、そうですか。とだけタイニーは言った。
どことなく表情が暗い気がする。
そういえば今朝はダリアもなんか暗い。
「なんかあったのか?」
ダリアに聞く。
「タロー。例えばなんだが、魔族と人族のどちらか片方を滅ぼさないといけないとしたら、タローはどっちを滅ぼすのだ?」
「そんなの選べないよ。人族にはカルドンとかグラジオラスもいるんだし。でも魔族にはダリアがいるからな。」
答えにはならない答えを言う。
実際そういうことが起こらないとも限らないけど、交渉次第で何とかなりそうな気もするしね。
「じゃあ、タローの命を使えばその両方が助かるなら?」
「えー?俺も死にたくなしなぁー。かっこいい物語の主人公とかなら、俺が死んで世界を救う!みたいなこともあるんだろうけど、俺にはそんな度胸もないし、やっぱり選べないなー。」
とゆーか、死ぬのは嫌だしワイが死なない選択をする。
ダリアはそうか。とちょっと暗い表情をした。
?ワイが死ぬ選択をすると思ってたのか?
「勇者様。ここは死んでもお前のことは俺が守ると言うべきところですよ。」
とタイニーに言われたが、そんなこと言ったこともないし思ったこともない。
「お待たせー。」
後ろから声がした。
チラコンチネだ。
タイニー同様に、一緒に旅に付いてきてくれるらしい。
「ん?どったの?」
ダリアが暗いのを見てチラコンチネが訊く。
ワイが止める間もなく、タイニーが説明してしまい、こっぴどく怒られた。
「勇者ってほんと女心が分かってない!女は男に甘えたいし頼りたいの!」
「え?でも普段は俺がダリアを頼ってるんだけど。」
「普段はどうでもいいの!いざという時の話よ!じゃないと安心できないでしょ?」
すげー怒られた。
家でオトンがオカンに怒られている時みたいだ。
でも確かにいざワイを叱るって時には、オトンが召喚されることもあったし、夫婦とか男女ってきっとそういうもんなんだろうな。
「悪かったなダリア。」
素直に謝る。
ダリアのふくれっ面は直らない。
ぐ。くっそー。
「もしも俺が死ぬことでダリアが助かるなら、俺が命をかけてでもダリアを助けるよ!」
何でこんな照れくさいこと言わなきゃいけないのさー。
ダリアがにっこりした。
「それでこそタローなのだ!」
タイニーは、素晴らしいですわ。
と言い、チラコンチネはよし!とか言ってる。
そしてなんとダリアはワイの頬にキスをしたのだ。
「ダリアは本当にタローのことが大好きなのだ!タローが死なないおまじないなのだ。」
タイニーとチラコンチネは、猛烈に頷いていた。
たまにダリアのこの真っ直ぐなところが、凄く羨ましくも眩しくも感じる。
ワイの心の中には、自分の命を投げ出してまでダリアを助けようとする気持ちがない。
そんな後ろめたさが、胸にチクリと刺さる。
ワイは、魔族と人族のどちらかを選べるのだろうか?
自分の命と世界全ての命を天秤にかけられるのだろうか?
そんな重要な選択なんてしたくない。
しないでなんとか済むはずだ…
風が里の草木の匂いを運んできて、ワイの不安を一緒に連れ去ってくれた気がした。
今はまだ大丈夫。
今はまだ――




