第十九章その5
カポーン。
いかにもな音が心地いい。
異世界に来て温泉に入れるなんて思わなかった。
しかも小人族はなぜかワイらが温泉に入ると言ったら出ていって貸切状態。
勇者特権かな?
「タロータロー。背中流して欲しいのだ。」
は?何でダリアがいるんだよ!
「結婚すると言ったら一緒の風呂場に案内されたのだ。」
ぺったんこツルツルの裸をこちらに見せながら、笑顔で言われても。
「何を恥ずかしがっているのだ?ダリアの裸なら前に見たではないか。」
「そうだけど、そういうものなの。」
と言っておく。
女性経験がないとかバレたら恥ずかしいしね。
「そういえばタローは、胸が大きい女が好みだったな。ダリアももう少し胸が大きければタローに好かれたか?」
キョトンと聞いてくるダリアにはぁ?と言ってしまった。
「何言ってるんだ?好きになるのに胸の大きさは関係ないだろ?」
「でもタローは、胸が大きい人のことをチラチラ見ているではないか!」
う。なぜそれを知っている。
「それはな、男の本能みたいなもんだ。」
誤魔化してみた。
「本能か!それならしょうがないのだ。」
わかったのかよ。
「それはそうと、本当に一緒に入るのか?」
もう洗い場で髪の毛を洗っているダリアに聞くのも変だが一応は確認してみる。
「結婚したら一緒に入るのではないのか?チーゼルはそう言っていたぞ。」
どういう理屈だよ。うちの親は一緒に入ってねぇし、そんなの想像したくもないよ!
「ダリアのパパとママも一緒に入っていたらしいのだ。」
「そういえば、ダリアって生まれてから何百年も経ってるんだよな?母親の顔とかって覚えてるの?」
ふとした疑問だった。
母親が人族であるとは聞いていた。
だから当然もうこの世にはいないわけだけど。
「んー。ダリアが小さい頃に死んじゃったらしいからダリアは顔をよく知らないのだ。でもパパが言うには、ダリアにそっくりだったらしい。」
てことは、普通に可愛い顔してたんだな。
どういういきさつで2人が知り合って結婚したのかは知らないけど、そうか。ダリアを産んだことがきっかけで死んじゃったのかな?
人族が魔族を産むわけだから、きっと普段とは違っただろうし。
「でもな。ダリアも子供を産んでみたいのだ!タローとの子供!どうだ?」
ザボーンと浴槽に飛び込んで来た。
顔が近いよ。
「飛び込むんじゃないよ。」
そう注意した。
どうだと言われてもワイには実感が沸かない。
自分が子供を育てる?まだ子供の自分が?
「考えておくよ。」
ずるいな。
逃げるようにそう答えた。
それなのにダリアは笑顔で、嬉しいのだ!と言ってくれた。
「もう出るのだー!」
早くね?もう?今入ったばっかだよね?
たたたー。と走りながら脱衣所に向かって行った。
暫くしてからワイも浴槽を出る。
着替えると、ちょっとびっくりする出来事があった。
ワイとダリアにしか懐かないティムが、小人族を背中に乗せている!
「え?俺も乗せて貰ったことないのに!」
思わず口に出してしまった。
「タロー!ティムはな。小人族が気に入ったみたいなのだ。」
たたた。とダリアが駆け寄って来る。
「なぁティム。俺のことも背中に乗せてくれよー。」
そう頼むと、背中に乗っていた小人族が降りてアドバイスをくれた。
「勇者様。乗るという考えがダメなのです。一緒に空を飛ぶようなイメージだとドラゴンは背中に乗せてくれますよ。」
言ってることが分からんな。どっちも変わらなくないか?
しかしダリアには理解できたようだ。
「なるほどなのだ!他力本願じゃなくて、自分も頑張るからね!という意思表示が必要なのだ!」
ヒョイとティムの背中に乗るダリア。
ティムは嬉しそうに空高く舞い上がった。
「スゲーな。」
ワイの心の底からの言葉を、隣で一緒に見上げていた小人族が聞いて頷いた。
「ダリア様は、やはりブッドレア様の娘ですね。勇者様が魔族の力になってくれるというのでしたら…」
ん?なんかこの小人族頬を赤く染めてるぞ。
急にワイの手を握って来た。
サッとその手を離された。
え?なにこれ?
「私共小人族は潔癖な種族で、基本同族としか肌を触れ合いません。ですが、勇者様になら私の肌を触れても構いません。ですから、旅のお供をさせてくださいませんか?」
頬を染めながら言う。
「もちろんダリア様との関係を邪魔するような無粋な真似はしません。ただ、少しの間だけ勇者様のお傍にいたいのです。」
何をどう気に入られたのか。
この小人族の女性、タイニーはワイとダリアと一緒に冒険がしたいと言ってきた。
ワイとしては問題ない。が、常にワイの懐に入るという行動はどうなんだ?
「一度触れられれば何度触れられても同じです。」
とタイニーは言うが、小さくても女性。ワイとしてはソワソワしてしまう。
「タロータロー!すっごく高く飛べたのだ。」
ダリアが笑顔でこっちに走ってくる。
ま、この笑顔が見れたのも、タイニーがティムの背中に乗れるアドバイスをくれたんだし。いっか。
「あ!タロー!何なのだその女は!」
目ざとくダリアがタイニーを見つける。
「ダリア様。これから私も旅のお供をさせていただきます。私は勇者様の懐で敵のスキをついて攻撃いたしますので、よろしくお願いします。」
タイニーが礼儀正しく言うが、ダリアは聞く耳を持たない。
「許さないのだ!そこから出るのだ!絶対にダメなのだ!タローに触れていいのはダリアだけなのだ!」
「ふふふ。いくらダリア様と言えど、そこまで横暴なことは認められませんわ。」
「そうか。それならば仕方ないのだ。ダリアの力でこの帝国を滅ぼすのだ。」
ダリアが肩をワナワナと震わせている。
ぎょっとして他の小人族がワイに止めるように言ってきた。
「お願いします勇者様。ダリア様を止めてください。」
えぇ。そんなこと言われても。
そもそもタイニーがダリアの言うこと聞けば良かったんじゃ?
そう思ってタイニーを見ると、そっぽ向かれてしまった。
これ、確信犯ってやつ?
「ダリア!ちょっと待て。ここを滅ぼすのはやめよう。な?」
「何でなのだ?タローはダリアと結婚するんじゃなかったのか?これは立派な浮気なのだ!」
パチィーン。
頬をビンタされた。
力強すぎ。
ワイは吹っ飛ばされた。
「タローのバカ!」
そう叫んだあとダリアは、大好きなのだ!と言って舌をチロっと出してウインクしてきた。
女ってよく分かんないな。
まぁでもしょうがないか。
勇者に転生したワイはどうやら魔王の娘に好かれて、でもワイの方がもっと魔王の娘のことを好いているようだしな。
この笑顔があれば今はいいかもな。
ティムがぐるると鳴いて、ワイに頬ずりしてきた。
鱗に覆われたその触感は、気持ちよくないがそっと撫でてやる。
今はこの日常を大切にしよう。




