第十六章その2
ティムがかなり成長したおかげで、外に1匹だけ出してワイたち全員は街へ入れるようになった。
「悪いな太郎。俺たちは魔法の勉強などをするから、ヒゴタイと今夜の宿を探してきてくれ。」
カルドンに言われてワイは、とりあえずヒゴタイと街の中を歩くことにした。
何が悪いな。なんだ?
「太郎ちゃん。太郎ちゃんは今でもスカーレットちゃんのことを想ってる?」
歩きながらヒゴタイが話しかけてくる。
「どうなんだろう?忘れているのか?と聞かれれば忘れてはいないけど、でも今はもう前に進むことにしたからさ。」
素直な気持ちだった。
確かにスカーレットのことを忘れることは出来ない。
でも、いつまでも後ろばかり見ていられないのも事実。
それに、死んだのはスカーレットだけじゃない。アヤメもワイのことを好いていてくれていた。
「そっかぁ。僕もスカーレットちゃんもチーゼルちゃんもアヤメちゃんも好きだったなぁ。もちろん太郎ちゃんのことも。」
にこりと微笑まれる。
これはもしや!ヒゴタイちゃんとお付き合いできるフラグなのでは?
「ヒゴタイあのさ…」
「でもね。」
告白しようとしたらワイの言葉を遮ってヒゴタイが言う。
「僕は太郎ちゃんと付き合う資格なんてないの…」
え?どういうこと?
「僕は男なんだ。でも男の人が好きなの…おかしいよね?男なのに男が好きなんて…だからごめんね。僕は太郎ちゃんとは付き合えない。」
なんということだ!
いわゆる男の娘というわけか。
好きになりかけてた…いやもう好きだったのかもしれない。
これも失恋と言うのだろうか?
だから、ワイのことを好きな感じだったのに一向に告白してこなかったのか!
するとヒゴタイが、でもね…と言った。
「本当に太郎ちゃんのことが大好きだった。ううん。今も大好き。こんなにも人を好きになったのは人生で初めてだった。それにこんな僕を気持ち悪がらないで傍に置いてくれたのも太郎ちゃん達だったよ。ありがとね?」
チュッとほっぺにキスをして、照れ笑いをしてくる。
きっと、ヒゴタイはワイが知るよりも前からずっと悩んで悩んで辛い想いをしていたんだろうな…
ワイはずっと自分がハーレムになれることを考えていたけど、自分が死んだから後はどうでもいいという考えは間違っているんだよな…
スカーレットにもアヤメにもチーゼルにも彼女らの人生があって、ワイのことを好きになってくれて、ワイはその気持ちに真剣に正面から受け止めることはなかった。
そんなワイを好きだと言ってくれる人達、そして今でも好きだと言ってくれる人。一緒に居てくれる人。
ワイはもっと他人に目を向けなければいけないな…
「タロー!」
ちょっと考え込んでいたら、向こうからダリアの声がした。
あれ?1人?カルドン達は?
「なんかなー。買い出しを手伝って欲しいって言われたのだ。」
買い出しはワイとヒゴタイに任せるんじゃなかったのか?
やっぱなんかあるのか?隠し事?
「僕が見てくるよ。」
そう言ってヒゴタイがカルドン達の元に向かった。
これで、グラジオラス・カルドン・ローゼル・ヒゴタイと何かを相談するにはもってこいの形となったが、いくら何でも無理やりすぎるだろ。
色々戦術を学んだカルドンが、こんなあからさまなことをするかな?
すぐにヒゴタイがローゼルと共に戻ってきた。
やっぱり、相談事とかがあったわけではなかったのか。
よく考えればこれで、カルドンとグラジオラスが2人きりになれるしな。
「勇者。ちょっといい?」
そう思っていたらローゼルから声をかけれて、ワイはローゼルと2人きりになった。
「あのさ…ヒゴタイから聞いたんだけど、あの子が男って…」
「え?あぁ。さっき聞いた。」
ワイが頷く。驚いていないところを見るとローゼルも気が付いていたのだろうか?
「チーゼルがさ、教えてくれたんだ。みんなで下着を買いに行った時にね。」
そういえばチーゼルが死に際に、ヒゴタイを頼むと言っていたっけ?あれはそういうことだったのか。
「ヒゴタイは心は女でさ、ウチよりも女っぽいんだよ。下着もいっつも可愛いのつけてるし。」
へー。そうなのか。いくら男の娘とはいえ、顔も声も可愛いし、それはちょっと気になるな。
「チーゼルも同じだった。でもどうしても見た目は変えられない。だからあんなキャラになってただけ…」
それはワイも分かる。
チーゼルはああ見えていい人だった。面倒見もいいし、優しいし、母性とかそういうのがありそうな感じだった。
それが何だ?何か関係があるのだろうか?
ワイはローゼルの顔をチラリと見た。
俯いたローゼルは、口をキュッと結んでいた。
何か言いにくいこと?カルドンが何か企んでるとか?
もしかして、カルドンを裏切ってワイ達の仲間になってくれるとか?
「ウチも女だ…」
…?
ん?知ってるよ?
それよりもカルドンの計画は?
「勇者には…まぁこれはいいか。こんな無理やりな形で2人きりの状態を作ったのには理由があるの。カルドンが持ち掛けてくれた計画なんだ。ウチらはいつ死ぬか分からない。そしてそれは明日訪れるかもしれない。それならば、後悔ないようにしようって。」
「あぁ。それは分かる。俺もその通りだと思うよ。」
ワイは大きく頷いた。
何となくだが、ワイが想像しているものと話が違っていそうだ。
カルドンの計画は、つまりみんなが後悔しないように行動すること。
そのために自分はグラジオラスと2人きりになりたいってことだろう。
ヒゴタイはワイにカミングアウトをして、気持ちを伝えた。
ローゼルは?
それは――
「私は…勇者のことが好き!私と付き合って。」
…
静寂が訪れる。
そう。ローゼルはワイに告白をしようとしていることにはさっき気が付いた。
でもワイはさっきまでヒゴタイのことが好きで、そしたらフラれてそしたらすぐにローゼルから告白されて…
でもワイは今までローゼルの話し方とかで拒絶してた。
のに…
「分かった。」
空気なのか?何が決め手なのかは分からない。
でもワイはローゼルの告白を受けた。
ワイは人生で初めて彼女が出来た。
多分。スカーレットとは付き合ってなかったし。
「マジ?よっしゃー!」
目の前でピョンピョン喜んで飛び跳ねるローゼルを見たら、告白をオッケーして付き合って良かったと思えるしな。




