第一章その5
無事に依頼を果たしたワイたちは、報酬を貰うが当然装備を整えるのには足りない。
それどころか、
「あの、ご飯とか宿とかそういうのでもお金はかかりますよね?」
グラジオラスの言う通りだ。生きるためにはお金が必要だ。
だがしかし、問題があった。
「ダリア以外使えないな!」
その通り。
無い胸を張られるとイラッと来るが、正にその通り。
ワイは装備が無いし、あったとしても戦い方すら知らない。
少し前まで陰キャだったんだから剣とか持てる自信もないし。
グラジオラスは強力な魔法を使えるけど、それに見合う魔力がない。
カルドンは魔法の知識はあるけどそもそも魔法が使えない。シーフとしての能力は皆無。
ダリアの言う通りダリア以外使えないパーティーなのだ。
「でも、メンバーを増やすにしてもその分お金がかかりますよね?」
そうなのだ。グラジオラスは現実的だ。
メンバーが増えるということは、そのメンバーの生活費がプラスされるわけだから当然だ。
「フッフッフ。ならば個人個人の戦力アップしかあるまい。」
そう言ってカルドンは強制的にグラジオラスを連行した。
「俺たちは魔法の修行をする。太郎とダリアは簡単な依頼をこなして日銭を稼いでくれ。夕刻にここで落ち合おう。」
「勇者様~。」
悲しそうに叫ぶグラジオラス。
傍から見ると、誘拐犯だな。
でもカルドンの提案はあながち間違いじゃないかもしれない。
ワイは勇者だから、実践で鍛えるしかないし、ダリアがいれば間違いも起きないだろうし。
その間にグラジオラスが簡単な魔法を覚えてくれれば願ったり叶ったりだ。
「こうして見ると、作物を荒らしてるのはモンスターばかりじゃないんだな。」
この街ならではなのかどうかは分からないが、依頼の大半は作物を動物から守ることだった。
「まぁな。依頼がなくなることはないけど、この街に住んでる俺たちからしたら、作物を荒らされるのはごめんだよ。」
依頼を探しながら掲示板を見てポツリと呟いたワイに、ギルドの受付が返事をしてくれた。
「新人2人でもこなせる簡単な依頼ってありますか?」
あまりにも依頼の量が多すぎて探すのが面倒になったワイは、話しかけてくれた受付に依頼を見繕ってもらうことにした。
「丁度今日、酒場の手伝いの依頼が舞い込んできたよ。3人募集なんだけど、1人しか応募してないから君たち2人がやってくれれば助かるな。」
そういう依頼もあるのか。
選り好みしても仕方ないし、酒場の手伝いをすることにした。
「ダリアは働くの初めてなのだ!」
ワクワクしながらダリアが言う。
そういうワイだって初めてだ。バイトの経験もないし、自慢じゃないが家の手伝いだってロクにしたことがない!
受付に案内された酒場に入ると、奥の控え室に通された。
「助かるよ。あんた達みたいな若い者が助っ人だと特に!いま先に来た子が制服に着替えてるから、順番に着替えちゃっておくれ。」
気さくなおばちゃんが店主だ。
控え室で待っていると、更衣室から1人の女の子が出てきた。おばちゃんが言ってた先に来た子か。つまり、ワイとダリアとこの子の3人で酒場の手伝いという依頼をこなすことになるわけだ。
それにしても、陰キャのワイが言うのもなんだけど、この子めちゃくちゃ陰キャっぽいな。
同族の匂いがする。
真っ黒な髪の毛を目元まで降ろしてるし、めちゃくちゃ猫背だし。
どういうわけか、こういう陰キャの女子が巨乳なんだよな。
この子も例に漏れず巨乳だし。
「ダリアも着替えてくるのだー!」
たたっと更衣室へダリアが向かう。
おいおいおい。陰キャが2人きりって会話が成立しないぞ。
ここは男としてワイから声をかけるべきか。
「ど、どうもー一緒に依頼をこなすことになった山田太郎です。今着替えてるのはダリアです。」
作り笑いで声をかけるワイ。
「あー!もしかして勇者!?」
女の子が甲高い声で話す。
え?見た目と話し方のギャップ凄くね?
「ウチはローゼル!これでもアーチャーなんだー。よろしくー!」
片手の人差し指と中指を立ててそれをこめかみにあてる。そのままこめかみからピッと離しながらよろしくー!と言ってきた。ギャルっぽい挨拶だ。
というよりも、ノリがなんかギャル!
ワイが苦手なタイプ!
「ねーねー勇者ー。この仕事が終わったらウチも仲間に入れてくれるー?」
下から見上げてくる。
やや背が高いから屈みながら覗き込んでくる。
初めてこの子の顔がはっきりと見えた。
結論から言おう。決して可愛くはない。グラジオラスといい勝負だ。
陰キャのワイが言うのもなんだけどね。
目元には濃い目のクマがあり、ほっぺにはニキビの痕とソバカスが目立つ。だから顔を隠してるのかもしれない。
「仲間に?俺1人では勝手に決められないからそれはちょっと待って貰ってもいいかな?」
ダリアもそうだけど、女の子が苦手なワイにグイグイ来るのは止めて欲しい。そういう点ではグラジオラスはありがたいな。
特にローゼルと名乗ったこの子は、ワイが苦手なギャルタイプだ。どう対応すればいいのか分からないのだ。
「えー?何でよー?ケチィー。いーじゃん仲間に入れてくれたってー。」
などと言いながらワイの手を取ってその胸に近づけようとしてくる。
ワイだってこういうの嫌いじゃないよ?でもいいの?こういうのいいの?経験ないからワイ分からないけど、付き合ってなくてもこういうことってするものなの?
「何してるのだ!」
更衣室から出てきたダリアが怒鳴る。
ドキドキが収まらない。
助かったという気持ちと残念という気持ちが入り混じってる。
「あんたがダリア?ウチはローゼル。今からあんた達の仲間になったから。それとウチは勇者のことが気に入ったらから。だから胸くらい好きなだけ揉ませてあげようと思ったの。
何それ?これもハーレムスキルのおかげ?
「何だと?ダリアだってタローのことが好きなのだ!お前にはタローは渡さないのだ!」
「残念だけど。あんたじゃ勇者のことを満足させられないと思うよ?」
そう言ってローゼルはダリアの胸を見た。
「む!ダリアだってタローを満足くらいさせられるのだ!」
ちょっと待て!だからってワイの手をその無い胸に持っていこうとするのはやめてくれ。
ワイが手を引っ込めるとローゼルが勝ち誇ったような顔をした。
「ほうらね?ウチの時はこんな反応しなかったわよ?」
「タロー!タローはダリアのことが好きだったんじゃないのか?」
「ウチのような胸のある人間の方がタイプだよね?」
えぇー。どっちかを選ばないといけないの?
「むぅー。タローはダリアの裸を見たんだぞ!ダリアの勝ちに決まってるのだ!」
何言っちゃってるのダリアさん!
「何ですって?」
何ですってじゃないよ!
「まさか2人がそこまでの関係だったなんて…今のままではウチの負けのようね。」
そこまでの関係って何だよ。
「当然なのだ!タローにとっての一番はダリアなのだ!」
またもや無い胸を張るダリア。
膝を落として落ち込むローゼル。
そこまで?
おばちゃんが、まだなの?と声をかけてきたので、とりあえずワイは着替えることにした。ローゼルに一発殴られたのは納得がいかない。




