第十三章その6
見れば見るほど気分が悪くなる。
脅威度がある<レッドドラゴン>を倒すためにやらなければならないことは分かる。
だが、それでもやっぱり気分は良くない。
木に<レッドドラゴン>の子供を1匹縛り付ける。
その子供を助けるために<レッドドラゴン>がやって来るはずだと。
そこを狙って、大きな槍にロープを付けたものを突き刺すという作戦だ。上手くいけば体の中までロープを通せてもう逃がさずに済むし、確実にドラゴンは弱っている。
かなりダメージを与えることが出来ることは確実だ。だが、子供を囮にしておびき寄せるという作戦がワイの個人的には、やや抵抗がある。
「割り切れ。俺だってそこまでいい作戦だとは思えないが、魔族を根絶やしにするためには必要な作戦だ。」
ヤグルマソウが悩むワイを咎める。
ワイが黙っていると、肩をモナルダにポンと叩かれた。
「大丈夫よ。きっと上手くいくわ。」
いや、ワイは失敗を気にしているわけではなく、やり方を気にしているんだが…
「太郎。この作戦が気持ちのいいものでないことは分かる。分かるが反対の色を顔には絶対に出すな。人類の敵になるぞ。」
カルドンがヒソヒソ教えてくれた。
カルドンもこの作戦がいい作戦だとは思っていないのか。仲間がいたようで心強い。
人類の敵にならないためにも、今後の脅威を排除するためにも必要な措置。だから否定的な顔をしてはいけないし、必要なことだと割り切らなければならない。
そういうことか。
「来たぞ!」
討伐隊の誰かが叫んだ。
<レッドドラゴン>が子供を助けに戻ってきたのだ。
そのまま待機していた部隊がロープ付き槍を投げる。
ドラゴンが嫌がる。
槍が刺さってもお構いなしに子供の方へ向かっている。
子を想う母親というやつか。
体中から血が噴き出ても子供のところへ向かう。
人間には目もくれず子供を助けに行き、子供のロープを優しく口で噛み切る。
ワイはそのドラゴンと目が合った気がした。
ドラゴンは優しい眼差しで子を見つめ、ワイに何かを訴えるような目をしたような気がした。
「!」
声が口から出てこない。
ワイは強く頷いた。
何に対して頷いたのかも分からないし、ドラゴンと目が合ったのも気のせいかもしれない。ましてや何かを訴えるなんてきっと間違いだろう。
それでも、ドラゴンは満足そうな表情をしたような気がした。
ドラゴンの目から光が消えた。
「目を逸らすな。その生き様をしっかりと目に焼き付けるんだ。」
カルドンがワイに言うその声は、震えていた。
「よーし!子供も殺せー!」
え?子供も殺すの?そこまでしなくても――
ワイが止める間もなく、木に縛り付けられていた子供が槍に刺されて、他の2匹も殺された。
いくら何でもやりすぎな気がするけど、どうやらほとんどの人は、当たり前といった様子。
「あの子供が成長して大人の<レッドドラゴン>に成長した時に、我々人間に牙を向かない保障はないからな。」
とヤグルマソウが言ったが、それでもワイはやっぱり納得出来なかった。
街への帰り道。ワイはヤグルマソウやモナルダとはちょっと距離を置いて歩くことにした。
言っていることは分かる。甘い考えなのはワイだというのも理解できる。大人になった<レッドドラゴン>は絶対に人間に恨みを抱くはず。それはスカーレットと同じ人を生み出してしまう。そんなことは避けなければならない。
頭では分かっている。でもやっぱりそれでも納得なんて出来ない…
「キュィキュィ。」
変な鳴き声がして見ると、<レッドドラゴン>の子供が1匹、木のウロに隠れていた。
ワイは誰にも気づかれないように、そっと革袋に入れて子供を隠した。
「太郎。悪いことは言わない。絶対に育てられない。野生に返すんだ。」
カルドンにだけは見つかってしまったようだが、ワイの意志は変わらない。
「ごめんなさい。ある程度までは育てさせてください。」
子供がもし見つかったら絶対に殺されてしまう。
そんなことはさせたくない。
カルドンはこれ以上は何も言わなかった。
りんご市に着いたが、ワイの中で魔族が悪という気持ちが少し揺らいでしまった。
<ブルードラゴン>を倒すために山ごと破壊する。
<レッドドラゴン>を倒すために子供を囮に使う。
なんだかやりすぎな気がする。
おまけに、ドラゴンの子供を連れてきてしまった。
いろいろなことが起こり、頭がパンクしそうだ。
それなのに、もっと酷いことがりんご市では起こっていたようだ。




