第十三章その5
「なんだ今のは?」
ヤグルマソウが周囲を見回す。
ワイは妙な胸騒ぎを感じていた。根拠はないが、ダリアがピンチのような気がする。
よく分からないが、焦燥感を感じる。
「チーゼル。嫌な予感がする。」
ワイは何とも言えない感情をチーゼルに話した。
「どういうこと?根拠は?」
ライオンを叩きのめしながらチーゼルが訊いてくるが、上手く答えられない。
そんなワイの様子を見てチーゼルが、やれやれと首を横に振った。
「どうする?この場を放棄して街に戻る?それともドラゴンの方に行って危険を承知で援護する?」
少し考えてワイは答える。
きっとこれが最善だと考えて。
「みんなで前線を押し上げる!ドラゴンが見える場所でドラゴンに攻撃しつつ周りの敵を倒す。ダメかな?」
「あなたが決めたことならいいわよ。」
ふぅ。と息を吐いてからチーゼルが微笑む。母親のような眼差しだ。
すぐさま、グラジオラス・カルドン・ローゼル・ヒゴタイ・アヤメ・ヤグルマソウ・モナルダ・オミナエシ・アザミが集まって場所の移動を提案した。
みんなワイが言うとみんなすんなり聞き入れてくれた。勇者だかららしい。
ワイ達は少しずつ移動していった。
目の前に綺麗な泉があり、上空に真っ赤なドラゴンが飛んでいた。
口から煙を出しており我々を威嚇している。
討伐隊や冒険者は魔法や矢を打ち込んでいるが、どうも決定打にはなっていない。
「さて、周りにはモンスターの気配がない。魔法や飛び道具が効かない。そんな相手にどう戦う?」
カルドンがワイに問う。
前回の<ブルードラゴン>との戦いをワイなりに考えていたことがある。
ドラゴンは基本的に空を飛んで攻撃をしてくることが多い。
それならばあの巨大な翼を攻撃したらドラゴンの機動力をかなり減らせるのではないだろうか?
「リスクは高いけど、得られる利益はかなり高そうね。」
チーゼルが半分賛成という立場を取った。
「翼に攻撃をしても致命傷にはならないからね。怒りを買うだけの危険性が高いのも事実よね。でもそれで本当に機動力を減らせるなら確実な方法にもなるわ。」
アザミがそう言い、アチの召喚獣で翼を攻撃してみるわ。と言ってくれた。
出した召喚獣は白くてフワフワのネコ。
「アチの召喚獣が翼を攻撃するのを援護してちょうだい。」
よしきた!とヤグルマソウが走り出す。並走するようにオミナエシがいる。
2人とも扱う武器は近接系。
「注意を引き付けてくれ。ワシが一撃を入れよう。」
ヤグルマソウにオミナエシが言う。
ヤグルマソウは1つ頷くと、大きく音を鳴らしてドラゴンの気を引いた。
他のドラゴンと戦っていた討伐隊や冒険者も、背後のオミナエシ、更には影に潜む召喚獣の存在に気づいてドラゴンの気を引くような立ち回りをした。
ドラゴンの気がヤグルマソウたち冒険者に向いた。
ドラゴンの視線から離れるようにオミナエシが走る。その肩には、オミナエシの影に潜むように召喚獣がいる。
ドラゴンが威嚇するように陽動に対して低空飛行攻撃を仕掛ける。
その瞬間をオミナエシが見逃さず、刀で切りかかる。あわよくば翼を狙った攻撃は爪で弾かれた。
しかし、召喚獣のネコがドラゴンの背中に乗ることに成功した。
よし!これで翼を攻撃できる!
ネコがドラゴンの翼を噛んだ瞬間――
「グゴォォォー!」
咆哮だ。
くそ!ネコが振り落とされた。
ヤグルマソウ達も硬直してしまっている。
ブレス攻撃をされたら終わりだ。
「助けにいくわよ!」
遠くで見守っていたチーゼルがワイ達に言う。
ローゼルとアヤメはもう走り出している。
ブレス攻撃をされる前に間に合った。硬直しているメンバーに違う刺激を与えて硬直を解く。
「おかしいな。」
カルドンが違和感に気づいた。そう。ワイもおかしいと思った。
「ブレス攻撃をさっきからして来てませんよね?上空にいた時も威嚇の滑空攻撃じゃなくてブレス攻撃をすればよかったのに。」
「つまり、ブレスが使えない何か理由があるってことね?」
チーゼルが試してみるわ。と走り出した。
ドラゴンの正面からぶつかる。かなり危険だ。ブレス攻撃をまともに受けるぞ。
だがしかし…
ドラゴンは上昇してチーゼルをかわした。
「やっぱり!」
思わずワイは叫んでしまった。
何でか分からないけれどドラゴンはブレス攻撃が出来ないらしい。
そうと分かれば攻め方は単純だった。
討伐隊が、持ってきたかぎ爪のついたロープをドラゴンに投げる。
何本かは避けられたが、複数のロープを投げた結界、何本かのロープがドラゴンに引っかかった。
「引けぇー!」
討伐隊の隊長が叫ぶ。
力づくでドラゴンを引きずり落とすつもりだ。
ドラゴンを引きずり下ろしさえすれば、ワイ達に勝ち目がある。
ここでもドラゴンはブレス攻撃をしてこない。
「決定的だな。ドラゴンはブレスを吐けないようだ。」
カルドンが様子を見ながら言う。
そういうことならと、ワイ達もロープを引っ張るのを手伝う。
ドラゴンは悪あがきに咆哮するが、耳を塞いだり遠くのメンバーが硬直を直したりして対処した。
見る見る内にドラゴンが地面に引きずり落とされてきた。
近接武器が届く距離になった!剣や槍などで攻撃を与えた。
ドラゴンが嫌がる。それでもブレスは吐かず、大きな口と咆哮で攻撃をするのみだ。
「ここら一帯を焼きたくない理由があるようだな。その理由が我々に大きくプラスに出たようだ。」
カルドンが腕組を死ながら言う。
1撃1撃はそこまで大きなダメージではないが、それでも少しずつダメージは蓄積されていく。
カルドンが言うように、確かにブレスを吐けばこの森が燃えてしまう。
それを嫌がる気持ちは何となく分かる。分かるが、果たして自分の命をかけてまでだろうか?
ワイは何となくそこに引っかかった。
燃やしたくない理由が何なのか。それを知りたいと思った。
「カルドンさん。命をかけてまで森を燃やさない理由って何でしょうか?」
ワイが問う。
「む。そうだな。俺ならば例えばグラジオラスが動けずにいる場合などだろうか。あぁもちろん太郎、君たちが森に取り残されてもだが、やはり大切な人がいる場合とかは死んでも燃やしたくないな。」
そう。ワイもそう思う。
では<レッドドラゴン>にとっての大切な存在とは?伴侶?少し違う気がする。
「子供か…」
カルドンが呟いた。
ワイはカルドンの方を見る。
「この森のどこかに<レッドドラゴン>の子供がいる?」
思わずため口になってしまった。
「その可能性が高いな。」
思いもしなかった。
あれ?その子供ってどうなるんだ?やっぱり魔族だし危険だから殺すのか?殺さないと人間に危害を加えるかもしれないもんな。
「逃げるぞぉー!」
その時誰かが叫んだ。
ドラゴンがスキを突いて空中へ再び逃げ出したようだ。
「くそ!ロープを抑えている係は何をやっているんだ。」
カルドンが悪態をつく。
しかし――
「<レッドドラゴン>の子供がいたぞー!」
別の討伐隊だろうか。森を散策していたのだろう。
子供は森の中に隠れていたようだ。
討伐隊の1グループが、3匹の小さな赤いドラゴンをロープでグルグル巻きにして連れて来た。
鼻から小さな炎を噴き出しているが、口からは炎が吐けない様子。
翼も小さくて空も飛べないようだ。
なるほど。こんな子供が3匹もいたんじゃ、森を燃やすわけにはいかないな。
「よし!子供を餌にして大人を討伐する!」
隊長がそう指示を出して罠が張り巡らされた。




