第十二章その3
翌日以降も大きな問題もなくスムーズにラベンダー山を登って行った。
「先行している銃士隊は相当な手練れのようだな。」
隣でカルドンも驚く。
確かに行く道々に、倒されたモンスターを目撃するが、中にはあの<ミニブルードラゴン>もいた。
「数も減ってなさそうですね。」
とワイが言うように、銃士隊のメンバーは誰1人欠けていなさそうなのだ。
山頂に着く前に目標と遭遇した。
「<ブルードラゴン>が出たぞ!展開しろ!」
ギルド長が叫ぶ。
さすがに<ブルードラゴン>相手では、銃士隊だけというわけにはいかないようだ。
それもそのはず、戦いが始まってすぐに、ドラゴンの脅威を知った。
皮膚は鋼鉄のように硬く、魔法もほとんど通じない。
<ミニブルードラゴン>とは比べ物にならないレベルのブレスの範囲と威力。
正に天災と呼べる代物だった。
今まで名目上冒険者も参加していたが、さすがに討伐隊から冒険者も手伝うように指示があった。
「いよいよ俺たちの出番か。」
やれやれとカルドンが動く。
「まずはヒゴタイがみんなに<スピード>をかけてちょうだい。<プロテクト>はまだ覚えてないのよね?」
チーゼルが確認するとヒゴタイは、こくんと頷いた。
パーティ―に<スピード>の魔法をかけ始めた。
「グラジオラスはいざという時に魔法を使用してくれ。それ以外は待機だ。」
カルドンが相棒とも呼べるグラジオラスに指示を出していた。
「はい!マスター。マスターは今日は戦うんですか?」
「うむ。どうやら俺の力を見せつける時が来たようだ。」
「頑張ってください!マスター。」
なんか羨ましいな。
「ほら勇者。行くよ。」
ローゼルに声を掛けられて、アヤメ・チーゼル・ローゼル・カルドンと共に前線へ向かう。
ヤグルマソウとモナルダ、オミナエシにアザミも同行した。
ドラゴンは想像以上にでかかった。
討伐隊は、遠くから魔法や銃で攻撃をしつつ、接近戦も展開していたが、今のところしっかりとしたダメージを与えているようには見えなかった。
それにしても…
「おびただしい数の死体ね。」
チーゼルが呟く。
「あんたら今到着したのか?だったら奴のブレスに気をつけろ。一発でこの数が死んだんだ。」
隣の冒険者が教えてくれた。
死んだ人々がスカーレットと重なった。
ワイの頭に再び血が上る。
「やっぱり魔族はみんな敵だ。あり得ない!仲間をみんな殺しやがって!」
思わず声に出していた。
だが、周りのみんながそれに賛同してくれた。
「!何だ?この違和感は。」
カルドンが呟く。ヤグルマソウやオミナエシ達も同様に違和感を感じ取った。
それどころか、さっき親切に教えてくれた冒険者や他の冒険者、討伐隊までもが違和感を感じたようだ。
はて?ワイにはその違和感が全く分からない。
チーゼルが言うには、急に体が軽くなったようで、パンチなどの攻撃力が上がったらしい。
他の人も似たようなもので、驚いたのが、消耗していたはずの体力などが回復したと言う。
ワイに感じ取れないそれら違和感は、ワイに才能がないからなのだろうか?
しかし、<ブルードラゴン>を討伐しに来た全メンバーの能力が上がったことで、討伐がしやすくなった。
明らかに魔法の威力が上昇しており、今まで全くダメージを与えれていなかったのに、かなり効いている。
「やっば。ウチの動き早すぎね?」
ビュンビュン動き回りながらローゼルが言う。
何が原因かは分からないけど、ワイ以外のメンバー全員の戦闘力が大幅に向上したようだ。
「私達は、みんなの援護として、<ミニブルードラゴン>を倒すわよ。」
チーゼルが目の前のドラゴンを指さした。
1匹でもモンスターを減らせば、その分親玉と戦う部隊を増やせるという計算だ。
戦闘力が向上している上に、前回と違って人数もある。
それでも油断できないはずだが…
「凄いです。体が軽くて簡単にドラゴンを切断できます。」
アヤメが改めて驚いていた。
無理もない。あの苦戦していた<ミニブルードラゴン>をたった1人で一刀両断したのだから。
「うむ。何が起きたのかは分からんがこれはいい兆候だ。他の<ミニブルードラゴン>も倒していくぞ。」
カルドンも別のドラゴンを1人で倒していた。
ワイだけは後方支援という情けない役割だった。
<ブルードラゴン>の周りにいた<ミニブルードラゴン>は見る見る数を減らしていった。
「残りは任せていいかしら?私は<ブルードラゴン>本体を叩きにいくわ。」
チーゼルがカルドンとアヤメとローゼルに訊いている。
チーゼルに同行するのは、ヤグルマソウ・モナルダ・オミナエシ・アザミの新人4名。
「相変わらずあんただけ役立たずなのね。」
隣に来たローゼルがニヤッと笑う。
本当、なんでなんだろ?
<ミニブルードラゴン>と戦っていた他の冒険者達も、パーティを二分して、<ブルードラゴン>討伐へ本格化してきた。
「そういえば、この山って危険なモンスターがいるはずなのにドラゴンしか見てないよね?」
ワイがふとした疑問を投げかける。
「あの本体がいるから、同じドラゴンしかいないんじゃないの?」
あの本体と言いながらローゼルが<ブルードラゴン>を指さした。
そうなの?なんか違う気がする。
と思っていると、先ほど教えてくれた冒険者がまた教えてくれた。
「ほとんどのモンスターは討伐隊が倒してしまったようだ。残っているのは、<ブルードラゴン>と<ミニブルードラゴン>だけらしい。」
討伐隊すげえな!
「ということは、ここら一帯を全滅させれば、ラベンダー山は魔族から解放できるということですか?」
カルドンが核心をつくことを聞いた。
そうだ。ワイ達の目的は、この山から魔族を無くすこと。
冒険者は、その通りだ。と頷いた。
そしてその目標は間もなく達成されるだろう。
巣があるのか、無数に湧いて出てくると思われた<ミニブルードラゴン>も残りの数は50もいない。
そして、その親玉であろう<ブルードラゴン>に関しては、先ほどから強力な魔法が炸裂している。
それに加えて、近接部隊が剣や槍などで硬い皮膚を攻撃している。
驚やはりみんな攻撃力や破壊力が上昇しているようで、さっきまで一切通じなかった魔法もかなり効いているし、刃が通らなかった皮膚を傷つけている。
「<ブルードラゴン>を倒すのも時間の問題だな。」
その様子を見ていたカルドンが呟く。
さっきからドラゴンは、攻撃を受けて嫌がり、反撃をしようともしない。弱っているのか攻撃を封じられているのかは分からないが、倒すまで残りわずかなのは確かだった。
その時突如<ブルードラゴン>が咆哮した。
距離があっても音が届いて体が硬直してしまう。
しまった!
前回のように指に神経を集中させてなんとか硬直を解こうとする。
その瞬間、<ブルードラゴン>が口から濁流を吐き出した。
標的となった討伐隊は一掃され、恐らく生きてはいないだろう。
ワイの心にまたざわっとした何かが生まれる。
!解けた!
<ブルードラゴン>がこちらへ濁流を吐き出す前に硬直から抜け出せた。
「退避せよ!<ブルードラゴン>は山ごと爆破させる!準備は整った!すぐに退避せよ!」
ギルド長が叫びまわる。
<ブルードラゴン>を倒す作戦ってそういうことか。
ワイたち冒険者や目の前の討伐隊は囮。
山を破壊できるだけの爆弾を仕掛けることが本命だったのか。
「急いで逃げるわよ!」
チーゼルが鋭く言う。
<ラベンダー山>に遠征した者は皆、命からがらりんご市まで戻った。
数分後、山が爆発した。
跡形もなく山が消し飛ぶ程の爆発。
きっと<ブルードラゴン>も生きてはいまい。
自然を破壊するのは微妙だけど、倒すために手段は選んでいられない。
これでいいんだ。
心の中に何かモヤモヤしたものが残っている気もしたが、それはきっと正攻法での倒し方じゃなかったからだろう。
風が火薬の匂いを街に運んで、そのまま過ぎ去って行った。




