第十一章その3
空気が爆発した。
幸せだった空気は恐怖に変わった。
何が起きたのか分からなかったのは一瞬で、すぐに何が起きたのか分かった。
気が付いた時には走り出していた。
「太郎!そっちは危険よ。」
スカーレットの忠告も無視して火の手があがる先へ走り出した。
具体的に何が起きたのかは分からない。だが、さっき空気が爆発した瞬間にりんご市が火の海に包まれたのだ。
何だか分からない。分からないが恐らくこれは魔法。
「そいつらを捕まえてくれー!」
誰かが叫んでいる。
前から5人の男女が走ってくる。この5人が犯人なのか?
「魔法を使われるかもしれないから気を付けて!」
追いついたスカーレットが言う。
5人はそれぞれにナイフやら剣やらを抜いて走ってくる。
ワイも応戦すべくナイフを構える。剣は重くて無理だしね。
5人と対峙しているのはどうやらワイとスカーレットだけのようだ。他の住人は一般人。戦えないのも無理ないし、何よりパニックになっている人も大勢いる。
「その女が急に爆発魔法を使いやがったんだ!」
さっき捕まえてくれと叫んでいた人だろう。息も切れ切れに言う。
「何でそんなことをしたの?」
剣で切りかかって来る男に対して剣で応戦してスカーレットが問う。
「…」
男は無言を貫いた。
「そう。悪いけどここまでした人を野放しには出来ないわ。」
剣の柄で男の頭部を叩く。気絶させようとしたのだろう。
しかし、男は反撃に剣を振り回してくる。
お世辞にも剣術が上手とは言えない。
ナイフで攻撃してくる男もワイのナイフで応戦できるレベル。
やはり魔法がキモなのか?
「こいつらを拘束します!誰かロープを持ってい――」
目を背けたくなるような光景だった。
スカーレットが剣で背後から真っすぐ心臓を突き刺された。
突き刺した犯人は何を隠そう、先ほど捕まえろと叫んでいたおっさんだった。
グルだったのか!
頭に血が上るのを感じる。
「スカーレットォー!」
近づこうとすると2度目の空気の爆発が起きた。
その爆発は、まだ被害が少ない場所を狙っていた。
「この辺は直に火の手が回るだろうよ。行くぞ。」
スカーレットを刺したおっさんがニヤリと笑って他の5名に向かって言う。
待てよ。何でこんなことするんだよ。スカーレットは!誰か!助けてよ!
周りの人が駆け寄ってくれる。
スカーレットの胸からはどんどん血が溢れてくる。
「太郎…ごめんね…」
なんでスカーレットが謝るんだよ。
「こんなことになるなら…私のファーストキスを奪われておけばよかったかな…きちんと付き合っておけばよかったかな…でも太郎の中は常に――」
ここでスカーレットは一息置いた。ゴフッと血を吐き出した。
「もういいスカーレット!喋るな!」
ワイは泣きそうになる。
「太郎。私に生きる理由をくれてありがとね?私は太郎といれて凄く幸せだった。」
スカーレットがにこりと微笑む。血にまみれたその笑顔はとても可愛かった。血に染まる手をこちらに差し伸べる。
どうしてだよ…さっきまではあんなに緊張して手をつないでいたのに、今はこんなにも簡単に手を繋ぐことができる…
「スカーレットォー!」
的確に心臓を貫かれ、スカーレットの処置はどうしようもなかった。
後から駆け付けたワイの仲間達も、空気の爆発に巻き込まれて重傷を負った者が数名いた。
ヒゴタイの回復魔法によって他のメンバーの怪我は治ったが、スカーレットは治すことは出来なかった。
朝日が昇っても、ワイの中には大きく暗い影が残った。
ぽかりと、心の中に穴が空いたようだった。
「おはよう!太郎。」
そこにはスカーレットの笑顔はもうなかった。
スカーレットの影をいつまでも追い求めた。
そんなワイに仲間の誰もが、声をかけなかった。




