第九章その5
ラベンダー山に向かって右側(西側)を迂回するように歩くと、ヒゴタイとアヤメが以前に言っていたように、途中から荒地となり濃霧が出てきた。
気味の悪いような空気が辺りを包む。
「恐らくだけど、湿原も同じような霧が発生しているはずよ。視界が悪いから注意してね。」
スカーレットが忠告する。
そう言った瞬間、目の前に黄色い蛙が現れた。<レモンバーム蛙>だ。
やはり霧で視界が悪く、発見が遅れた。
「気を付けるのだ!他にもいるのだ!」
蛙は3匹しか見当たらなかったので、全員で囲って倒そうと思った瞬間、ダリアが叫ぶ。
ダリアの視線の先には何やら人影があった。霧で姿は見えないが人間みたいな姿だ。
手早く蛙3匹を倒すと、影がぬっと霧のカーテンから姿を現した。
腐った人間だった。いわゆるゾンビというやつだろう。
「確か<死を呼ぶ者>とかいうモンスターだ。」
カルドンはモンスターに詳しいな。
ゾンビは一般的な人間には出来ないような動きを見せた。
体が腐っているから出来る芸当なのか、体を背中方面に倒して弓なりに反り、その反動で飛びかかってきた。
その威力は荒れた地面を簡単に抉った。
「気を付けろ!異常な攻撃力だ――」
カルドンが途中で言葉を切った。
ゾンビは、攻撃してきたのではなかった。地面にいた<レモンバーム蛙>を食べていたのだ。
ワイらが倒した3匹の蛙をぺろりと平らげた。
「あれって食べれるの?」
うえぇーとローゼルがカルドンに訊く。
「普通は毒があるから食べれないと思うがな。」
口の周りに蛙の黄色い体液を滴らせてこちらをゾンビが向く。
「ヒゴタイ!我が呼び声に応えよ!風の主よ!」
カルドンが声をかけて無駄な詠唱をすると、ヒゴタイが<スピード>をみんなにかけ始めた。
「あなたよく何の魔法か分かるわねー。」
チーゼルが感心する。
全くもってその通りだ。
「何となく分かります。」
にこりとヒゴタイが笑っている。うむ。可愛い。だがワイには<スピード>の魔法をかけて貰えないのは何でなんだ?戦力外だとでも?グラジオラスにもかけているのに?
「ゾンビなら火に弱いだろう。グラジオラスいくぞ!生きとし生ける者全てを灰とかせ!」
グラジオラスの<ファイア>がゾンビを包む。
効いている。やはり弱点は炎のようだ。
アヤメが真っ二つに切って留めを刺した。
「きゃあ!」
ヒゴタイの声だ。
全員がヒゴタイの方を向くと巨大で色鮮やかな蜘蛛がいた。
気絶しそうになった。
両手には大きなハサミを持ち、針のような尻尾、口元にはムカデの顎のような牙まである。
ヒゴタイは蜘蛛の糸に搦め捕られていた。
「たぶん<ラベンダー蜘蛛>だ。確か牙と尻尾に毒があるはずだ。」
カルドンが持っている知識をフル活用している。
度々カルドンは街中で本を買っていたが、こういう時のためだったのか。
「複数の箇所に毒を持つのは厄介ね。」
チーゼルが舌打ちする。
ローゼルが弓矢を射る。
思えば最近のローゼルの弓矢の技術は進歩している。
今までは10本に1本くらいの命中率だったのが、最近は7本に1本は当たるようになってきていた。
みんなも、飛んでくるローゼルの矢を避けるのは難なく避けれるようになっていた。
「ローゼルの弓矢は下手すぎるのだ!」
叫びながらダリアがヒゴタイ救出に向かう。
「まぁ、少しは上達してるんだけどねぇー。」
やはりチーゼルもローゼルの上達に気が付いているようだ。
「グラジオラスは、少し休んでいろ。」
カルドンがグラジオラスを背中に庇うように立つ。
「悪いが太郎。後ろを見張ってくれないか。」
そう言われて、ワイとカルドンがグラジオラスを挟むように立って守ることになった。グラジオラスの横からはローゼルが弓を放っている。攻撃しながらグラジオラスの横を守っている形だ。
ローゼルの反対側の横にはアヤメが身構えている。
霧が濃いから目の前の蜘蛛だけを相手にせず、他も警戒せねばならない。
ダリア・チーゼル・スカーレットの3人がヒゴタイを救出しつつ蜘蛛と戦っているが、ワイからは後ろになっているのに見えない。
それに、こっちもそれどころではなくなってしまった。
「青い…竜?」
思わず絶句してしまった。




