第九章その2
丘を北に進み、途中で西に折れた辺りで<グラスランドタイガー>が現れた。
「ち!」
カルドンが短く舌打ちをする。
トラは2匹いた。
「!気を付けて。<デスストーカー>が隠れてるわ。」
チーゼルが素早く気づいて注意を促す。
「風の精霊よ我が呼び声に応えよ!万物の法則を捻じ曲げ今、神速を与えん!」
カルドンが無駄な詠唱をしてヒゴタイを見る。
ヒゴタイが<スピード>の補助魔法をローゼルにかける。
「あんがと。」
ひょいひょいと、素早くローゼルが移動を開始した。
チーゼルとスカーレットはそれぞれ別のトラを叩きに向かう。ローゼルが狙うのはヘビだ。
アヤメは3匹のどれでも留めをさせるように待機している。
グラジオラスとダリアは第二陣として待機している。
ワイは少し離れた場所で見守る。
ん?なんだこの黄色い気味の悪い蛙は。でかいし集団でいるし、絶対モンスターだ。
「タロー!離れるのだ!」
「む。モンスターか。」
ダリアとカルドンも気づいた。
グラジオラスが詠唱を待たずに<ファイア>を、ヒゴタイが<サンドウォール>を唱える。
蛙が数匹炎上し、目の前に砂の壁が出来た。
「<レモンバーム蛙>だな。毒を持ってるぞ。何匹いた?」
カルドンが注意してくる。
「ぱっと見ですけど、5匹くらいかと。」
「ふむ。蛙に限って5匹ということはないだろう。」
もっと多いということか。
目の前を見るとチーゼル達がモンスターを倒して戻ってきた。
「どったの?」
砂の壁を見てローゼルが訊く。
「<レモンバーム蛙>だ。少なくとも5匹いる。」
「後方の憂いをなくすためにも倒しておきましょ。」
チーゼルの意見にみんなが賛同した。
ヒゴタイが魔法を解くと、砂の壁が消えた。
2匹の蛙が焼けて倒れていた。
素早くアヤメがグラジオラスの前に出る。
グラジオラスは<精神薬>を飲んで、魔力と体力を回復させた。
更にヒゴタイがカルドンの詠唱を無視してアヤメ・チーゼル・スカーレットに<スピード>の魔法をかけた。
目の前には倒れていない蛙が10匹以上いた。
「ちと多いな。」
カルドンが呟く。
「アヤメと私とスカーレットとダリアとローゼルで前線を叩くわ。カルドンと太郎は援護して。ヒゴタイとグラジオラスの護衛がいなくなるから速やかに終わらせるわよ。念のため<毒消し>を飲んでおいて。」
チーゼルが素早く指示を出す。
ワイとカルドンは、<手投げナイフ>を使って誰も攻撃していない蛙を攻撃した。
素早さが上がったローゼル・アヤメ・チーゼル・スカーレットは次々に蛙を倒す。ダリアは元々速かった。
「我が疾風の刃を受けよ!」
こういう攻撃でもカルドンは謎の言葉を発するらしい。
10分もしない内に蛙は全滅した。
「ちょっと休憩しましょ。」
スカーレットが提案して、食事の用意をした。
すもも村で仕入れた野菜とミルクをふんだんに使ったシチューだ。
「ミルクも野菜も日持ちしないから早く使わないとね。」
というチーゼルの意見を採用した。
旅をするなら、そういう知識も必要なんだ。
「お、兎だ。ちょっと捕まえてくる。ダリア手伝って。」
ローゼルが兎を発見した。
分かったのだ。とダリアと2人で兎を追いかけた。
「勇者様これ。」
グラジオラスが香草を渡してきた。
「兎を入れるなら、これも一緒に煮込んだ方がおいしいです。」
そういうものか。料理はアヤメが意外と上手なんだよな。
でも、今はワイが料理当番。アヤメに教えられながらシチューを作る。
「兎は私が捌いちゃいますね。」
小さい声でそう言って、手慣れた手つきで兎を捌くアヤメ。
ワイには出来そうもない。
そうこうしている内に、シチューが完成した。
「ふっふっふ。俺がこのシチューのおいしい食べ方を教えてやろう。」
カルドンがグラジオラスとヒゴタイに話している。
2人とも目を輝かせて、お願いします!マスター。なんて言ってる。
スカーレットはチーゼルとこの後のことを話している。2人ともラベンダー湿原より先には行ったことがないって言ってたな。
「なぁなぁローゼル。ダリアが捕ってきたきた兎の方が美味しいな。」
「あんたねー。こんなの煮込んじゃえば一緒よ。どれがどっちが捕ってきた肉かなんて分かんないでしょーに。」
そりゃそーだ。
「そんなことないのだ!ダリアには分かるのだ。」
そう言ってこちらを見る。
ダリアと目が合うが、プイっとそっぽ向かれてしまった。
いつもなら、なぁタロー?とか言われるんだろうけど、最近はずっとこんな感じだ。
まぁ、いつも引っ付いていたのが離れたような感じか?
「あんたまだ怒ってんの?」
「別に怒ってないのだ。」
怒ってるじゃん。
ふと、ダリアが怒っている原因である、ワイとスカーレットの関係を思い出す。
街中でゆっくりする時とかは、2人きりで買い物とかするけど、よくよく考えたらこうやって旅をするとあんまり2人きりって感じはないな。
お互い好き同士でも、これが付き合ってても、きっと今と変わらないんだろうな。
「難しいものだな。」
ふと隣でカルドンがワイに言う。
「え?」
「考えていたのだろう?スカーレットとのことを。こうして旅をしていると、普通の恋愛というものが出来なくなるものだな。その点、ダリアはすごいと俺は思うがね。」
ワイにはダリアの何が凄いのかは分からなかったが、普通の恋愛が出来ないという点には、同意できる。
ひと時の安息だ。
休憩が終わると再びレモンバーム丘を進む。目指すりんご市まではそう長くかからない。




