第八章その3
エルフの町は、すもも村からエルフの森を東に抜けた先にあった。
徒歩で5時間というところだろうか。
無言で歩かされた。
エルフの町は木造の建物が中心で、かなり発展していた。
「こっちだ。」
エルフの門番らしき案内人がひときわ大きな建物へと案内する。
大きな間で少し待っていると、族長らしき人が部屋に入ってきた。
とても美人なエルフだった。
「お主が勇者か。話は聞いた。まずはっきりさせねばならぬことは、我々エルフ族は人間とは手を組まないということだ。そしてお主がなぜ魔王の娘と行動を共にしているのか、その理由も聞こうか。」
えぇ?エルフはやっぱり人間とは手を組まないの?
「えっと。どうしても援軍の要請は引き受けてくれませんか?」
ダメもとで訊いてみる。
「ならん。我が問いに答えよ。」
ひえー。怒らせちゃダメだから、とりあえずダリアと行動を共にしてる理由を話すか。
「えぇと、俺はこの世界の人間じゃないんです。」
そう前置きをして、ワイはこの世界に転生した経緯とダリアと出会ってから旅をしていることをかいつまんで話した。
「なるほど。となると勇者は魔王の娘の婚約者というわけだな?」
「いや。それはダリアと魔王がそう言ってるだけで、俺はそんなことは思っていないんだけど…」
「否!魔王の決定は絶対だ。とはいえ、魔王の娘の頼みとなれば話しは違う。相手が魔族のモンスターだとしても、我々エルフの精鋭を派遣しておこう。」
ラッキー。ダリアって実は凄いんだな!
「我々エルフ族の願いとしては、勇者。お主に魔族を救って貰いたいものだがな。だが勇者の宿命もあるからな。難しいが、いやはやある意味楽しみではあるな。」
わけわからんこと言われたけど、とりあえずエルフが援軍出してくれるってことで話がまとまった。
そうと決まればワイとしては早くこの場を去りたかった。
堅苦しいし、なんかワイの意見とか無視されてるし。
「それでは勇者よ。我らエルフ族が人間に援軍を送るための儀式をこれより執り行う。」
なに?儀式って?
これはすぐには帰れそうもないな。
その後、30分ほどお経のような呪文を永遠と聞かされた。
ふと気が付くと、ワイの腕にミサンガのようなものが現れた。
「ふむ。これにて儀式は終了だ。我らエルフ族は勇者と正式に契約を結ぶ。ここに血判を。」
血判ってあれ?血のやつ?指をがぶっとか噛んで血を出すやつ?
あんな痛そうなのやるの?
周りを見ると、エルフの衛兵たちがこちらを見続けている。
やらなきゃいけない空気だ。
ガブッ。
痛い…けど血は出ないぞ。
そもそもこんなことで血が出るなんて物語の世界だけだよ。
「何をしておる?そこの針で指を刺せばよかろう。」
鼻で笑われた。
先に言ってくれ。
「あ、はい。すみません。」
だが逆らえない空気。長い物には巻かれろと言うしね。
ぷっ。と軽く指に針を刺した。
ぷくぅ。っと血が出てくる。
「いちち。これでいいですか?」
長い何も書いていない白い紙に血を押し付けると、紙が黄色く光った。
そのまま紙は、ワイの腕に突如現れたミサンガのようなものに吸い込まれるようにして消えた。
「?」
何が起きたのか分からず、指の血を舐めながら呆然とする。
エルフ達からは滑稽に見えたことだろう。
何人かは嘲笑っている。
しょうがないじゃん。分かんないんだから。
「すまぬ。お主がここまで無知だとは。別の世界から来たというのはどうやら本当のようだな。」
族長が頭を下げた。いいのか?王様みたいなもんでしょ?勇者とはいえ、ワイみたいなガキに頭を下げていいのか?
案の定周りのエルフ達が、族長!と言って騒ぎ立てた。
「さて勇者よ。これより、説明をするがその前に何か言っておくことや聞いておきたいことはあるか?」
何もなかったかのように族長が言う。
言っておきたいことや聞いておきたいことか。
「えっと、魔王の娘は普通の人間として生活しています。どうかあの子のことは人間として接してください。」
「ふむ。そうだろうな。でないと他の人間と仲良くできるはずもないものよの。相分かった。他には?」
「どうしてそんなに人間を毛嫌いしているんですか?」
質問をミスったようだ。
周りのエルフ達、族長に睨まれた。
「どうして。だと?人間は勇者にその理由を教えていないのか?」
え?どういうこと?人間もエルフに嫌われている理由を知っているってこと?
そういえば、りんご市のオネェ受付が癪だけどって表現していたっけ?
「人間とエルフ族は仲が悪い?」
ワイがポツリと呟いた。
「その通り。その原因は全て人間側にある。」
族長が頷く。
「俺がいた世界では、魔王が悪で勇者が正義で、魔族も悪って立場なんですけど、もしかしてこの世界では人間や勇者が悪の立場なのでしょうか?」
ワイは悪側に転生してしまったのか?
しかしどうやらそうではないらしい。族長は首を振りながら諭すように言う。
「勇者よ。まだ若いな。いいかね。正義なんてのは立場によって変わるものだ。我らエルフ族は人間を確かに恨んでいる。嫌っている。だが全ての人間を恨んでいるわけではない。だからこそ、勇者に手を貸すことにしたのだ。」
ワイにはちょっと難しく聞こえた。
「さて、エルフ族と人間のいざこざを話すには、勇者という君の立場と魔王の娘と結婚をするという立場からいって、非常に微妙となる。これはまだ若い君に話せば見聞を狭めることになるかもしれん。まずは広く知識を集めて、自分で考えてみることが大事だ。」
この話はこれで終わり。そう聞こえた。
今は言わないけど、いずれ言う。それまでに世界のことを知り、自分なりの考えを見つけろと。
「この儀式によって勇者がそのミサンガに呼びかけることで、我らエルフ族の誰かがすぐにそこから召喚されるようになる。」
すっげー!召喚魔法じゃん!
「ただし、あくまでもこれは契約。呼び出したからには相応の供物を捧げねばならぬ。」
供物?生贄とかそういうの?
「我々エルフ族は、木の実を好む。おいしい木の実を報酬として頂きたい。ということだ。」
にこりと微笑まれた。
「分かりました!この契約はいつまで続くのでしょうか?」
「本当なら、その町を助けたら切っていいのだが、君たちの行く末を見届けるまで有効としよう。」
またまたにこりと微笑まれた。
意外と優しい人なのかもしれない。
「君たち人間のことだ。このあとドワーフの洞窟へ向かってあやつらとも契約するつもりだろう?エルフ族同様にドワーフ族もまた、人間を恨んでいる。気を付けるのだぞ?」
幸運を祈ると言って族長は部屋を後にした。
「晴れて我々エルフ族の同盟者となった勇者殿!今日はもう遅い。我らの宿へと案内しよう。」
族長が部屋を去ると、1人のエルフが手を取って来た。
「私はミシシッピ!人間の世界に興味がある。楽しい話を聞かせておくれ。」
エルフの青年といったところか。
人間がどうやって生活しているのかとか、娯楽は何かなど聞いてきた。
「やはり人間世界は楽しいな!我々エルフ族は、閉鎖的な空間で暮らしている。これが一族を守るためだと言われているが、私はそうは思わない。」
「でも、この広大な森に隠れられるというアドバンテージはでかいと思いますよ?きちんと一族を守ってくれそうな森ですし。」
素直な意見を伝えると、にこりを笑われた。
「勇者殿は本当に若くて素直だ。この森が我々一族を守ってくれていることは分かっている。それでも私は外の世界が見てみたいんだ。族長から許可が下りれば、私が人間とエルフの繋がりとなる。」
宿屋に着いたので、話は終わった。
つまり、ミシシッピが援軍要請を許可すると人間側に伝えるということか。
誰もいない部屋で1人黙々とご飯を食べながら色んなことを考える。
人間とエルフのこと。人間と魔族のこと。正義についても。
考えても答えは出なかった。
そういえば前にダリアが、人間が住みやすいようにこの世界を変えたとか種族と交わったとか何とか言っていたような気がした。
それがもしかしたら、人間が嫌われる理由なのかな?環境破壊とかそんな感じで。
それなら確かに人間側にも正義がないとは言えないし。生きるためだし。
ダリアと言えば、ワイといないのは初めてじゃないか?大丈夫だろうか?
まさかまだ村の入り口で待ってるなんてことはないだろうな。
帰ったらダリアが怒る顔が目に浮かぶ。
ふふ。と一人で笑ってしまった。




