第一章その2
「あの、勇者様ですよね?」
これぞ女の子の声! という感じの可愛らしい声を後ろからかけられた。
これは絶対に可愛い! そう思ったワイは期待して振り返った。
そこには、茶色い髪を短く切り揃えて小麦色に焼けた素肌のいかにもスポーツ少女。という感じの女の子が立っていた。
猫のような切れ長の目に八重歯が特徴的だ。
ルックスは、そこそこって言ったら失礼かもしれないけど、うん。彼女いない歴イコール年齢のワイに言われたくないだろうが、可愛いとは言えない。
いわゆる声詐欺ってやつだな。
「えっと。勇者様じゃないですか?」
可愛すぎる! 声だけは可愛すぎる! この声でダリアのルックスだったら完璧だったかもしれない!
「ええと。多分勇者で合ってます。自分でもこの世界に来たばかりでよく分かってはいませんけど」
「やっぱりそうなんですね! 実は、勇者様は分かる人には分かる特殊な存在なんですけど、何しろ見たのは初めてだったので、本当に勇者様なのか不安で……」
何だろ? 勇者補正みたいのがあんのかな?
「お前は何なのだ?」
ずいっとワイとカワボ少女の間にダリアが割り込んだ。
「ごめんなさい! 申し遅れました。私はグラジオラスと申します。魔導士として勇者様のお仲間に入れて貰えればと思っています。この前15になりました!」
茶色い瞳を輝かせながら聞いてもいない年齢まで教えてくれた。
「タローとダリアの仲間になりたいのか? ダリアは構わぬが、タローの隣は譲らないぞ。ダリアとタローは結婚するんだからな!」
とんでもないことを言ってるよこいつ!
「結婚ですか……勇者様もダリアさんのことがお好きなんですか?」
なんてことを聞くんだこの子は!
「え? いや。好きとかそういうのじゃなくて」
「なんだタロー。照れてるのかー?」
ちげーよ!
「そう……ですか……」
グラジオラスは少し残念そうな表情をする。
何て言うか、めちゃくちゃ運動神経良さそうで活発そうな女の子なんだけど、どうも性格はおとなしめな感じそうなんだよね。
それにしても、残念そうにしているってことは、やっぱりハーレムコース確定で、グラジオラスもワイのことが好きってことかな?
ルックスはあれだけど、声だけは最高だからよしとしよう!
「えーと。仲間になるって言ってたけどさ、実は俺たちまだやること何にも決まってないんだよね。多分勇者だから魔王を倒すのが目的だとは思うんだけど、それだとちょっと問題もあってね」
チラリとワイはダリアを見る。
「それはもちろん勇者様は魔王ブッドレアを倒すための存在です! 魔王ブッドレアがどんな存在かご存知ないのですか?」
「あぁうん。だってほら、俺ついさっきこの世界に転生したばっかだからさ」
おとなしめの性格かと思ったのに、なんかグイグイ来たぞ。
「分かりました。では魔王ブッドレアがどれ程恐ろしい存在なのか教えて差し上げます。魔王ブッドレアは、自分が働くのが嫌だからという理由で最初にモンスターを生み出しました。しかしそのモンスター達は主であるはずの魔王ブッドレアの言う事を聞かなくなります」
「え?」
思わず相槌を打ってしまった。
働かせるためにモンスターを生み出したの? んで、言う事聞いてもらえなかったの?
「そうなんです。そこで魔王ブッドレアは、自ら私たち人間を脅かすようになったのです」
そこはやっぱり魔王なんだな。きっと酷いことをたくさんされたんだろう。
もしかしたら、言う事を聞かなくなったモンスターへの八つ当たりとかもあったのかもな。
「魔王ブッドレアは、私たち人間に言う事を聞かないならば飲み水におしっこを入れたり、作物を盗んだり、家畜を勝手に逃がしたりしてやるぞ。と脅して来たんです」
「しょぼっ! 魔王しょぼっ! やることがなんか幼稚だぞ! 地味な嫌がらせだなそれ!」
「それで仕方なく我々人間は、魔王ブッドレアの言いなりになって、毎日食べ物を献上しているんです」
「倒せばいいんじゃないか?」
ワイがもっともな質問をすると、グラジオラスは首を横に降った。
「それは出来ません。魔王を倒すのは勇者様のみと決まっているのです」
何その設定。
「ちなみにそのモンスターは害があるの?」
「もちろんあります。魔王ブッドレア以上に厄介です。人間に攻撃してきますし、町が襲われた被害もよく聞きます」
「てことは、勇者の目的って、魔王の討伐だけじゃなくて、モンスター退治も含まれてるとか?」
「そうですね。中にはモンスターさえ討伐してくれればいいって言う人もいます」
「パパの討伐は困るけど、パパ的にもモンスターの扱いに困ってたから、モンスターの全滅は全然オッケーだと思うのだ。必要ならまた生み出せばいいだけなのだ」
ダリアもダリアで突拍子もないことを言い出したな!
「あの、パパって?」
グラジオラスが聞いてくる。
「いやいやいや。気のせいだよきっと」
焦って誤魔化すワイ。
「魔王がダリアの父親だってことはみんなには内緒な? 知られたらややこしくなっちゃうでしょ?」
ひそひそ声でダリアにそう言うワイ。
なんかめちゃくちゃ忙しいんだが。
「2人だけの秘密か?」
ダリアはにこにこしながらも、ひそひそ声で返してくる。
「あぁそうだ。2人だけの秘密だ!」
「あの、勇者様?」
声をかけられて飛び上がるワイとダリア。
「うぉーう! 何でもないよ! 大丈夫。とりあえず、モンスターを退治するのを当面の目標とするけどいいかな?」
「もちろんです! 勇者様が決めたことなら私は何でも従います」
にこりと笑顔で微笑まれた。
「ダリアもそれでいいのだ!」
ダリアも笑顔で返す。
「では、モンスターを全滅させた後に、魔王を倒しに行くのですね?」
笑顔のままグラジオラスが聞いてくる。やっぱりそうなるよね?
ワイ個人としては、別に倒す倒さないはどうでもいいんだけど、ダリアの目の前で倒す宣言はさすがにできなんだよなー。
「今魔王と言ったか?」
ワイが答える前に、男の声がした。




