第六章その6
「危なかったわね。」
チーゼルが開口一番に言う。
あのままトラが暴れていたら誰かが傷を負ったかもしれないと。
「すぐに逃げて正解だったってことね。」
出番が無かったローゼルは消化不良といった感じだ。
「あのヘビはどうなるのでしょう?」
アヤメが訊いているのは、地面に突き刺された<デスストーカー>のことだ。
「あの杭を誰かが抜くことはないと思うわ。私たちが向かへばまだあそこに刺さったまんまでしょうね。」
ふーとスカートをうちわ代わりにして仰ぎながらチーゼルが応える。
お行儀悪いわよ。とスカーレットに注意されていた。
「明日もまた夜行くのか?」
ダリアの問にチーゼルが首を降った。
「夜襲はもう警戒されていると思うわ。とりあえず、昼にまた攻めてみましょ。ヘビが1匹減っただけでどれだけ楽になったのか検証できるし。」
「こちらはまだ進展がない。すまない。」
チーゼルがカルドンの方を向きながら言ったので、カルドンが頭を下げた。
グラジオラスもヒゴタイも新しい魔法の習得や魔力の増加はまだ出来ていないようだ。
「私たちは、もうアイテムの購入は終えてるわ。いつでもレモンバームの丘に再び行けるわ。」
スカーレットはやる気満々だ。
「いいわ。明日、みんなで再び<笑う木>と戦いましょう。倒せれば上々、トラかヘビの数を減らせれば可といったところね。アイテムは使いどころが肝心よ!無駄にしないようにね!」
明日また、あいつらと戦うのか。
以前のチーゼルの言葉が頭に浮かぶ――
――私たちはこういう仕事柄、いつ死んでもおかしくないわ。今生きているこの瞬間を大切にしてあげなさい――
「スカーレット。」
部屋に戻ろうとする彼女を呼び止める。
全員がこちらを見る。
「あっと…ちょっといいかな?」
みんなに注目されているとかなり気まずい。
こういう経験は初めてだ。
ダリアとローゼルとヒゴタイはむくれている。
なんだよー。とか、スカーレットが本命か。などと言い、ハイハイ。とチーゼルにあやされている。
アヤメは目をうるうるさせながら走って部屋を出ていった。
「行こうか?」
背後からカルドンの声がする。隣にはグラジオラスが居た。
なんと!手を繋いでいる!
その手腕。ぜひ手ほどき願いたいものだ!
通り過ぎ様にカルドンがウインクしてきた。
イケメンは何をしても似合うな。
全員がいなくなって静かになった、会議している部屋。
スカーレットがキョトンとした顔でこちらを見つめている。
どこか期待している表情もしている。
「えっとさ。その…なんて言うか…」
段々と声が小さくなるワイ。情けない。
心臓の鼓動がうるさい。もしかしたらスカーレットに聞かれてるんじゃないか?
喉がカラカラだ。
そんなワイの様子を見たスカーレットがクスリと笑う。
「とりあえず座ろっか?」
あ。確かに立ったまんまするような話じゃない。
はい。と冷たいお茶を出してくれる。
一気に飲み干すと少し落ち着いた。
心臓はさっきと同じくらいうるさいけど、もう気にならない。
「ありがとうね?」
ワイが何か言う前にスカーレットがお礼を言う。
「え?」
思わず声が零れた。
ふふっ。とまたスカーレットが笑う。
「みんなの前で私を呼び止めてくれたじゃない。太郎たちとの付き合いはそこまで長くないけどさ、濃い毎日を送ってるつもり。でさ、太郎がみんなの前で誰かを呼び止めるのって私が知る限り初めてなんだよね。」
気付かなかった。
「太郎は私を選んでくれたってことなのかな?」
テーブルの向こう側から身を乗り出して、下からワイを見上げてくる。
「え、選んだとかそういうのじゃなくて、えっと。」
自分で自分の思考が分からない。
スカーレットのことは好きだ。と思う。
好きとかよく分からないけど、嫌いじゃない。可愛いし優しいし一緒に居て楽しいし。
「俺は、その…付き合うとかそういうのがよく分かんなくて…えっと。つまりさ。スカーレットのことは嫌いじゃない。多分好き…だと思う…えっと…なんて言うか…」
ワイはスカーレットと付き合いのか?それとも気持ちを伝えたいだけなのか?
「今はその気持ちが聞けただけで嬉しいよ!私もさ、付き合うとかそういうのはよく分かんないし。とりあえず他の人よりは上だと思っていいよね?これからは、なるべく私と一緒にいてくれる?」
これはもしや、友達以上恋人未満ってやつか?
友達から始めましょう的な?
スカーレットの勢いに押されてワイは頷いてしまった。
「やったぁー!男女の関係ってのがよく分からないけど、デートとかしてみたいし色んなお話とかもしてみたい!それに接吻にも興味ある。」
頬を赤らめながらスカーレットが言う。
「これからが楽しみだね!私に生きる理由をくれてありがとう!」
そう言ってスカーレットは寝室へ戻って行った。
あれ?キスする流れじゃないの?
それにしても生きる理由か…何の目的もなく生きていたのかな?
そう考えてから、自分も目的がなく生きていることに気が付いた。
窓を開けると夜の澄んだ空気が鼻と部屋を満たした。
『まぁ今はこのままでいいや!』
そうワイは思った。
外から入ってきた夜の香りがワイを包み、それからそっと部屋を抜けていった。




