第六章その1
ワイ達へなちょこでヘンテコなパーティーは、レモンバームの丘に向かうことになった。
レモンバームの丘は、りんご市から東に向かうとある。
ここには、強力な<グラスランドタイガー>がいるらしい。
レモグラライオンと同じかそれ以上に強いらしいので、遭遇したくない。
従って、静かにモンスターに見つからないように行動することにした。
そういう約束だったはずなのだが…
「あんたねぇ!いい加減にしなさいよ?」
ローゼルがチーゼルに怒っている。
「なぁーによぉー!キスなんてねぇー!早い者勝ちなのよー!」
「マスター!マスター!大丈夫ですか?」
まぁ、このメンバーで静かに行動とか無理だったわけだけど。
道中で、チーゼルがカルドンに不意打ちのキスをしたのが発端。
これにグラジオラスとカルドンが悲鳴をあげ、カルドンは意識不明の重体に。
ダリアが昨日はワイにまでキスをしてきたと怒り、それを聞いたローゼルも怒ったわけだ。
「いつもこんなに賑やかなの?」
ワイの隣にタタッと走ってきてスカーレットが訊ねる。
「まぁ。だいたいこんな感じかな。」
ふふっ。と笑いながら、楽しくて何より。とスカーレットは言った。
「僕だってまだ太郎ちゃんとちゅーしてないのに!」
ヒゴタイが頬を膨らませるのを見つつ、まぁ辛気臭いよりはマシかと思った。
「あらぁ?あなたぁー。」
チーゼルが何か言おうとしたが背後からアヤメがポカリ。とチーゼルを叩いた。
「勇者さんはみんなのものです。」
相変わらず声が小さい。
「あなた可愛いわねー。」
可愛いか?ただのギャルだぞ。
チーゼルがにやりと笑ってアヤメのミニスカをめくった。
なんと!そんな攻撃があったとは!黒!やっぱエロいな。
「きゃっ!止めてください。」
スカートを抑えながら小さな声で抵抗するアヤメ。
相手が高校生の制服着たおっさんだからか、変態に襲われてるように見えるな。
「なんだよアヤメー。エロいの苦手とかいいながらちゃっかりウチが買ってあげた下着着てんじゃーん。」
ローゼルがからかう。お前か!あのパンツは!
「そういうことなら今度私も一緒に買い物に行きたいわ。勝負パンツが欲しいのよ。」
ローゼルの巨乳を揉みながらチーゼルが頼んでいる。
チーゼルが勝負する時ってなに?戦うの?
「いいわよ!ウチにかかればどんな男もイチコロよ!すっげーエロいの選んであげる!」
猫背の背筋を伸ばして自信満々に言うから怖い。性格ギャルだしこういうの得意そうだし。
「ダ!ダリアはいらないからな!そんなエッチなの。タローはあぁ見えて純粋そうなのが好みなのだ!」
何を言ってるの?とゆーか。ワイの何を知ってるの?
「勇者様もマスターも下着で女性は選びません。」
その通りだグラジオラス!
「なぁーに言ってるの?下着は女にとってはオシャレと戦いの両方の意味があるのよ?あなた達みたいに下着に拘らないでいると、男も逃げていくし、他の女に男を取られるわよ?」
だからチーゼル。お前が女を語るな。キモい!
「そういうものなんですか。勉強になります。」
ヒゴタイは妙に納得している。というより、かなりチーゼルから学ぼうとする姿勢が強いな。やめとけやめとけ。
「すまないグラジオラス。どうやら俺は魔物の亜種に悪魔のキスをされてしまったようだ。」
カルドンがグラジオラスの肩に捕まりながら言う。
この2人はなんかもうお似合いだな。
チーゼルは魔物の亜種扱いだし。まぁ2の世界だから放っておこう。
グラジオラスも、マスター!マスター!とか言ってるし。
「凄いね。あの2人。年齢も離れてるし性格とか全然違いそうなのに息もピッタリだしお似合いだよね。」
スカーレットもワイと同じことを思ったらしい。
「まぁあの2人は、波長が合うというか、カルドンの好みにグラジオラスが毒されてるというか。」
苦笑いしながらワイは答える。
「でも。ああいうのいいなぁ。」
微笑ましそうに羨ましそうにスカーレットが言う。
戦いに身を投じているが中身は女子高生。
恋したい年頃だしな。
ワイだって同じくらいの年だしその気持ちは分からなくはない。
「ねぇ。太郎は違う世界から来たって言ってたよね?その世界では女の子と男女の中になったりしたの?」
顔を覗き込みながら聞かれる。
ワイの前世は女っ気が全くない人生だった。
そういうのとは無縁の陰キャだったし、ややオタク気味だったし。
ワイが言いよどんでいると、スカーレットが更に言葉を続けた。
「ねぇ。今の外見と前世の外見って違うの?性格は?運動神経とか頭の良さとかは?」
そう言えば気にしたことがなかった。
「見た目はそうだなぁー。あんまり変わらないというよりも同じだと思う。髪の毛はもっと長くてローゼルみたいに目のあたりまであったかな?身長も同じだし性格も一緒…だと思う。最近は女子に少し慣れてきた感じ。」
ふーん。と言いながらワイの顔をまじまじと見る。
「いいと思う!私なら好きになってたかも!」
ニコッと微笑まれながら告白まがいのことを言われた。
「私はさ。チーゼルとずっと旅してるじゃない?そうするとたまに旅の途中とかで恋に悩む男女に出会うこともあるのよね。チーゼルはあんなだから、結構恋愛のイロハとか知っててさ、アドバイスとかして恋を助けちゃうこともあるのよ。」
今や下着の話からいかに男心を掴むのかという話をしているチーゼル達をちらりと見て、スカーレットが話し続ける。
そうか。チーゼルはあんなだけど。いや、あんなだからこそ、男心も女心も分かるのかもしれない。
それなりに恋愛の達人になっていても不思議じゃないな。
「そういうのを見るとさ、やっぱり羨ましいんだよねー。私もさ、こういう旅に出る冒険者の仕事をしてなければ、ああやって恋してドキドキしてとかやってたのかなーって。違う人生って言うの?そゆのをたまに想像するんだよね。」
違う人生か。
あの時ああしてたらどうだとかこうしてたらどうだっただろうとかか。
ワイがもしあの時死んでいなかったらどうなっていたのだろう?
相変わらず同じ仲間と集まってアニメやアイドルの話で盛り上がっていたのかな?家に帰ったらゲームして、女の子とは一切話せないままだったのかな?
「でもね!」
先頭を歩きながらワイの方を振り向き、スカーレットは後ろ向きで歩き始めた。手を後ろに組みながら笑顔でワイに言う。
――今は太郎に会えて幸せ!
ワイの答えを待たずにくるりと前に向き直ってしまう。
こういう時に、女子に慣れていないと困る。どうしていいのか分からないのだ。
でもそんなことは考えなくても良くなった。
目の前にあの強敵、<笑う木>が現れたからだ。




