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【悲報】勇者に転生したワイ魔王の娘に好かれる  作者: shiyushiyu
動き出す者たち

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第五章その1

神は人間が作り出したものだった。


神は人間を支配した。


神は世界を破壊できる力を持っていた。


人間は神を恐れた――



大陸の一番西には<魔王城>がある。


城という名前だけあって豪華絢爛で広大な土地だ。


元々はレモングラスの森全域が魔王城の領土だったなんて言い伝えもある。


大陸の一番東には山々が聳え立ち、囲まれるように小さな村が存在する。


<神の村>と呼ばれ、この世界を作った村だと言われている。


囲む山々を人々は恐れと尊敬を込めて<畏敬山>と呼ぶ。


<畏敬山>はここ数百年噴火なんて起こしたことがない。


いやそれどころか、歴史を振り返っても噴火の記述があるのは数回程度。


それでも常に噴煙を上げ、いつ噴火するか分からない状態を常に保っている。


これもまた、人々が恐れる理由の1つとなっている。


世界は勇者が現れたことで歓喜に満ちている。


それなのにこの村の人々の表情は穏やかでない。


伝承によると、勇者によって魔族は討ち滅ぼされるというのに。


「勇者が現れたというのは本当か?」


村人に問う1つの影。


「そういう噂ですが、確証はございません。」


「我が名は妄語のオペレーター。覚えておくがいい。」


村人に問う影が名乗る。


「妄語…神の軍勢の幹部様…」


村人が絶句する。


「勇者が現れたならばしてもらうことは1つ。貴様らは勇者をこの地まで呼び寄せるのだ。」


「ははぁー!」


村人には、ひれ伏す以外の選択肢は無かった。


神の怒りに触れてはいけない。


この村でもごく一部の人間にしか知られてはいない<世界の理と秘密>。


神の存在もまたその一部になる。


気がつけばオペレーターと名乗った者はいなくなっていた。


神の軍勢の幹部が顔を出すのは珍しい。


供物さえ捧げていれば、機嫌さえ伺っていれば、怒りにさえ触れなければ人族は安全に暮らせるのだ。


幹部が顔を出したということは機嫌を損ねたということ。


理由はただ一つ。勇者の存在だろう。


神と勇者は共に魔族を敵対としているはず。


なのに勇者の存在を許さないとなると、村人のいや人類の悪意に神が気づいたことになる。


噂では勇者はモンスター一匹も倒せる力は持っていない。魔王討伐なんて夢のまた夢。ましてや人類の悪意の成就など…


「お祈りを捧げるだー!」


村の中心では祈りの声が聞こえる。


火を囲み、いるかも分からない神を信じて崇めている。


この世に本当に神がいるならば…


神の軍勢幹部と面会した者は、皮肉なものよ。とポツリと呟いた。



大陸の最西端――


<魔王城>に魔王はただ1人君臨していた。


長く悠久の時を経て現れた勇者。


魔王たち一族、魔族を討ち滅ぼす者。


本来であれば敵対関係にあるのが勇者。


だが、魔王の娘ダリアはそんな勇者を好きになった。


「これだから世の中は面白い。ワシがかつてそうだったように。」


魔王ブッドレアはニヤリとほくそ笑む。


「勇者よ。我ら魔族を討ち滅ぼす者ならばそれも良かろう。ダリアが認めた者だ。ワシがとやかく言う筋合いはない。だが、お主たちは違うぞ?」


ギロリと闇の中を睨む。


「魔王ブッドレア…さすがだね。最古の生き物にして最強の生物。ボク達神の軍勢を許さないって?でも魔族ももはやあんた1人だ。配下たちはボク達との戦争に破れ、他の者は野に下った。」


闇の中から人間の男性と同じような姿をした者が現れた。やや鼻が長めだ。


「<土砂のカリモーチョ>か。久しいな…確かにワシは1人だがお主も1人に見えるぞ?よもやサシでワシに勝てると思っているのか?新参者が!」


ブッドレアが、壁に立てかけてあった大斧を掴み、振りかざす。


轟音と共に城が崩れる。


「ワシが許さないのは神の軍勢ではない。全ての人間だ。」


「よく言うよ。その人間と結ばれたくせに。ボクが来たのは戦いのためじゃないよ。忠告のため。勇者とあんたの娘が結ばれるとボク達にとって都合が良くないんだ。分かるだろ?勇者はあんたら魔族を討つ者。それなのに魔族と結ばれる訳にはいかないんだよ。勇者はあくまでもボク達神の側でなくちゃならない。あんたの娘を呼び戻せ。そして勇者に近づかず滅ぼされる時を待て!」


「ワシがその要求を呑むとでも?」


ブッドレアが再び大斧を振りかぶる。


「呑むさ。これから勇者が辿るであろう運命をあんたが知ればね!どう足掻いてもボク達神の軍勢の勝利は揺るがないんだよ。」


カリモーチョが光の玉をブッドレアに放る。


「言ったはずだよ?ボクは戦いに来たんじゃなくて忠告に来たのだと。娘を悲しませたくはないだろう?あんたが要求を呑めば、人間の血が混じってるあんたの娘は助けてやれないこともない。」


光の玉の映像を見たブッドレアは心が折れる。


「なるほどな。何百何千何万年も生きてきた我ら魔族もこれで終わりというわけか。勇者ならその選択をするだろうよ。いや、お主ら神の軍勢がこのシナリオの通りに動かすのじゃろ?足掻くのは人間だけか…」


「分かってくれて助かるよ。ボク達神の軍勢にとっては、あんただけが厄介だったからさ。大人しく勇者にやられてくれれば、それでいいんだ。」


やれやれと、カリモーチョが汗を拭う。


「ワシの娘の命を保証してくれると言ったな?」


「あんたのところできちんと大人しくさせておいてくれればね。」


「良かろう。すぐに使いの者を送る。」


敵であるはずのカリモーチョに背を向ける。ブッドレアにとってカリモーチョはその程度の実力しかないのだ。


「それとさ、僕に背を向けたこと。いつか後悔させてやる。」


そう言い残してカリモーチョはその場から消えた。



カリモーチョとオペレーターの報告を聞いた最高神ゼウスは満足気に微笑んだ。


「よくやりました2人とも。」


ここは神界。


何人たりとも立ち入ることは出来ない神の領域。


入れるのは神の軍勢のみ。


「これより魔族、いや魔王ブッドレアを殺す計画を遂行するとしましょう。キティ。勇者に情報を共有してください。悟られない程度で構いません。ジントニック。例の者達に連絡を入れて勇者と接触させてください。各人、我らの悲願は近いですよ。」


ゼウスが幹部達に言い渡す。


「ゼウス様。よろしいでしょうか。」


オペレーターが待ったをかけた。


何ですか?とゼウスが問う。


「人間側にやや不穏な動きがあるのが気になります。これほど信仰を深めているので無いとは思いますが、謀反の可能性も視野に入れておくべきかと。」


「謀反。それはつまり我ら神の軍勢に逆らうということでしょうか?はたまたこのゼウスを殺して神殺しの大罪を犯そうとする者がいると?」


「は、いえ。そこまで考える者がいるかは分かりませんが、万が一を想定しておく必要もあるかと。」


言い過ぎたと感じたオペレーターは、頭を下げる。


「分かりました。人間側の対策も考えておきましょう。当面は勇者と魔王の娘の動きに注意してください。」


幹部達は一礼してその場を去った。


「人間たちが私を殺そうとしていますか…」


そう呟いてゼウスもその場を後にした。

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