第四章その2
ラベンダー山にはりんご市最大の依頼対象となっている、ブルードラゴンが住んでいるらしい。
すいかシティのレッドドラゴンと同じ難易度なので、当然今のワイらでは討伐不可能。
麓の生態調査は、ブルードラゴンが活発に活動するかどうかを見極めるのに必要不可欠らしい。
というわけで、ワイらへなちょこでヘンテコなパーティー一行は、りんご市を南に進んでラベンダー山へとやって来たわけだ。
「まぁまぁの高さの山だな。」
カルドンが言うが、まぁまぁか?てっぺんが見えないぞ?
知らないけど、富士山レベルなんじゃない?
まぁ今回は麓の探索だし、山を登らなくて済むからいいか。
ワイ・ダリア・ローゼルが街に一番近い場所を探索。
グラジオラスとカルドンが街に向かって右側を、ヒゴタイとアヤメが向かって左側を探索することにした。
山の向こう側は、ラベンダー湿原という強力なモンスターの住処があるらしいので、そこは探索しないことにした。
「とりあえず1日探索したら例の酒場で落ち合おう。」
カルドンの指示で、各人探索を開始した。
●
ワイ・ダリア・ローゼルサイド――
「いつもタローと一緒でダリアは嬉しいのだ!」
ダリアが腕にひっつく。無い胸が悲しい。
「ウチも結構勇者と一緒だよな?嬉しいわー。」
ローゼルも反対側にひっつく。胸の感触が気持ちいい。
「生態調査って植物とか虫とかの調査もするのかな?」
何をすればいいのかイマイチピンときていないワイがローゼルに聞いてみた。
ダリアに聞いても無駄だし。
「すると思おうよ。それらの生態系が活発に活動してたらブルードラゴンは静かにしてる証拠ってことじゃない?」
うわぁー。虫の生態調査とかやりたくないなー。
とりあえず目に見えるものから調査してメモするか。
なぞの花、咲いている。なぞの虫、這っている。なぞの木の実、笑っている。
ん?笑っている?
「タロー!」
ダリアの声で間一髪、その攻撃をかわすことができた。
あと一歩遅ければ、木の枝に串刺しにされているところだった。
ワイが見た笑っている木の実は、同じく笑っている木になっていた。
「<笑う木>と<笑う実>だね。地面から根っこで攻撃してくるから気をつけな。それと、<ジャイアントビー>って蜂が巣を作ってたらウチらだけで対処するのは困難だよ。」
真面目なトーンでローゼルが言う。
ワイらは何も戦闘が目的ではない。生態系が分かればいいのだから、この戦いをスルーすることもできる。
モンスターがスルーしてくれればであるが。
「やっぱり見逃してくれないか。」
厄介な。と言いながらローゼルは弓を構えた。
「ダリア!木の実と蜂は無視して本体の木を叩くよ!」
不思議な光景だった。
いつもなら使い物にならないはずのローゼルが、こういう時には凄く頼りになる。
「分かったのだ!」
いつもは反発しているダリアも素直に従っている。
やっぱりワイが思った通り、このパーティーは型にはまると凄く強いんだ。
こっちが戦闘態勢に入ったのに気づいたのか、<笑う木>がザワザワっと体であろう幹を震わせた。
それが恐ろしい攻撃だとも知らずに、ダリアとローゼルは攻撃しに<笑う木>に向かって行ったのである。
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グラジオラス・カルドンサイド――
街に向かって右側、つまりりんご市を背中にした場合に山の左側(東方面)を担当している。
ダリア達が<笑う木>と戦闘を開始した頃、ここでも戦闘が行なわれていた。
<グルッポフォルミーカ>と呼ばれる集団で敵を襲う蟻の一種だ。
「魔力は温存せよ!」
集団とはいえ所詮は蟻。体格の違いでさほど苦戦はしない。
「分かりましたマスター!」
グラジオラスは手に持つ杖で蟻に攻撃する。
カルドンも小型のナイフで攻撃している。
『どこかに巣があるはずだ。そこを叩けば我々の勝ちのはずだ。』
そう考えたカルドンは正しい。
巣から無数と思える数の<グルッポフォルミーカ>が出てきているならば、巣を叩けば数が増えることはない。
蟻の集団の列を見つけ、その先をカルドンが見据える。
「あっちの方に巣がある!いくぞ。」
カルドンがグラジオラスに指示を飛ばし、目の前の敵を放棄した。
ここまでのカルドンの思考は正しい。
間違いがあるとすれば――
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ヒゴタイ・アヤメサイド――
「何にもないね。」
ヒゴタイがアヤメに言う。
「何もないのが逆に不気味です。」
りんご市に向かって左側、つまりりんご市を背にした場合山の右側(西側)を彼女ら2人は探索している。
自然豊富で知られるラベンダー山だが、こちら方面には生物の生気を感じられなかった。
動物も虫もモンスターでさえも見当たらない。
それどころか、地面には草木の1本も生えていなかった。
そこは荒れ果てた大地のように思えた。
「聞いていた話と大分違うように思うのですが…」
おどおどとアヤメが言う。その声は小さく、今にもこの場から逃げ出したいという気持ちがにじみ出ていた。
「どうしようか?一度みんなと合流する?」
ちらりと後ろを振り返る。
みんなと別れて数分も歩かない内に徐々に草木が無くなり、荒地に変わり果てていた。
何やら嫌な予感がする。今戻らなければならない気がする。
そんな本能とも言える予感が2人の脳裏に過っている。
「戻りましょう。ここはなんだか不気味です。嫌な気がします。」
ピタリと足をとめ、アヤメの言う通り2人はその場を後にして急ぎ足で戻った。
程なくして荒れた大地から自然豊かな土地に戻れた。
足を止めて荒地の方へ目をやると、禍々しい霧のようなものがかかっている。
「何か絶対にいるね。まずは太郎ちゃんたちに合流しよう。」
ヒゴタイがアヤメの手を握って歩き出す。
その先には、<笑う木>と戦うダリア達がいる。
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カルドンは正しい選択をしたつもりでいた。
無数に湧き出る<グルッポフォルミーカ>を相手にするよりも、巣を叩く方が効率的なはずであると。
<グルッポフォルミーカ>の列を進んだ先には必ず巣がある。
間違いは、その巣がどこにあるかを予想していなかったことだ。
「マスター!あれ!」
グラジオラスが指し示す先には、ダリアとローゼルがいた。
木に向かって走っている?
その更に奥からは何故かヒゴタイとアヤメが来ている。
「何が起きているんだ?」
いつも的確で素早い判断を下せるカルドンの思考が一時的に停止している。
それが致命傷になった。
木が体を震わせた――




