第三章その7
酒場でお腹を満たしたワイら、へなちょこでヘンテコなパーティー一行は、再びレモングラスの森を歩いていた。
今のところビッグラットには出会わない。
まぁ、行き帰りのどちらかで出会えればいいんだからそこまで重要ではないよね。
そんなことよりピンチです。
ワイは今、大きな気持ち悪い蜘蛛に襲われています。
仲間?何故か気づかれずみんなどっか行っちゃった。
え?呼べば?
無理無理。だって糸で口塞がれてるもん。
ただでさえ蜘蛛って気持ち悪いのに、大きくなるとこれ程気持ち悪くなるとは。
叫びたいのに叫べない悲しさ。
とりあえず必死に走ってるんだけど、この蜘蛛がまた早くてビックリ!
!追いついた!何とか食べられずに済んだ。
ん?みんな何やら獣と戦ってる?
「!タロー!どこに行ってたのだ?心配したんだぞ。」
ダリアがワイに気づいて糸をほどいてくれた。優しくて惚れてしまいそう。
ダメダメ。ワイにはヒゴタイちゃんがいるんだから!
「こいつは?」
絶対に近づいたらいけない動物、ライオンが目の前には居た。
「<レモグラライオン>という名前らしい。聞いて驚くな?ダリアパンチが効かないんだ。」
カルドンが何故か自信たっぷりにワイの問に応えてくれた。
ガサッ!
しまった!忘れてた。後ろには巨大な蜘蛛<レモグラスパイダー>がいたんだ!
「うぉ!なんだこのキモい蜘蛛!」
ローゼルがレモグラスパイダーに気が付く。
前はライオン、後ろは蜘蛛に挟まれてしまった。
しかもライオンにはダリアのパンチが効かなかったらしい。
「とりあえず後ろの蜘蛛に火を浴びせるぞ!グラジオラス!」
カルドンが指示を出すと、グラジオラスは、はい。と短く返事をしてカルドンの詠唱を待つ。
この時間がなぁー。
「生きとし生ける全ての者よ!その生命のみなも――うぉ!」
カルドンの詠唱を待ってくれる程レモグラライオンは優しくないようだ。
「おのれ!我が詠唱を邪魔するとは不届きな奴め!闇に焼かれて死ね!」
大げさに手を前にバッと出した。
その瞬間、グラジオラスのファイアがレモグラスパイダーに炸裂した。
焦げた匂いが鼻につく。
「はぁ!」
気合と共にローゼルが弓矢を放つ。
レモグラスパイダー目掛けて放ったその矢は、何故かワイの腕に刺さる。
「いってぇー!」
どうやったら後ろにいるワイに刺さるんだ?
「大丈夫ですか?太郎ちゃん。」
刺さった矢を一気に引き抜いてくれる。
「痛いですか?」
心配してくれるのか。なんて優しいんだ。
「羨ましいです。」
ん?なんか言った?
「その、僕は回復士なので、あまり怪我とかしないんですけど。その…」
ん?頬を赤らめてるけど、もしかしてヒゴタイちゃんそっち側?痛みとかが好きなタイプ?
顔が可愛いしM属性が多少あっても問題ないだろう。
そんなことを考えていると、腕の痛みが癒えた。
回復士の名は伊達じゃない。さすがだ!
「ふむ。ヒゴタイも俺が指導してもいいな。」
魔法には目がないカルドンがまた、訳の分からないことを呟いている。
戦況は相変わらず良くない。
ライオンの攻撃を、アヤメが盾で受け止めている。
いつもみんなの後ろに隠れているアヤメだが、こういう時は盾役になってくれるようだ。
その間にレモグラスパイダーを倒す作戦のようだ。
先ほどのグラジオラスのファイアはそこまで効いていないようだが、多少はダメージを与えているだろう。
ノーコンのローゼルの弓矢も数発に1発程度は当たっている。
「ダリアパーンチ!」
カルドンの叫びと共にダリアのパンチが炸裂した。
これは効いた!レモグラスパイダーを倒した。
念のために、ダリアとアヤメが入れ替わって大剣で留めを刺した。
「ダリアのパンチが効かないんだが、どうすればいいのだ?」
ライオンの噛みつき攻撃を避けながらパンチを叩きみつつ、ダリアがカルドンに訊く。
「うむ。強靭な筋肉に阻まれているようだな。ローゼル!君の弓矢とアヤメの剣で援護しよう。グラジオラスは魔力が戻り次第魔法を撃ちこむ!」
カルドンが的確に指示を出す。
ワイは?
「太郎!君は――」
お?ワイも何か戦いの役に立つのかな?
「ここで待機だ!」
役立たずってこと?まぁなんも出来ないしそれは認めるけどさ。
「俺は今の内にさっきの蜘蛛を解体して、売れそうな部位を手に入れておこう。」
え?カルドンそんなことできるの?
意外とこのパーティーってきちんと機能を果たしてるのか?
役立たずなのワイだけ?
「いいんだ太郎君は!勇者だからいいんだ。」
困惑の表情をしていたら、カルドンが慰めてくれた。
「大丈夫!僕が傍にいるよ!」
ヒゴタイに肩をポンッと叩かれた。
「はぁ!」
気合と共にアヤメが大剣を叩きこむ。
レモグラライオンはその攻撃を避ける仕草を見せるが、ダリアがそれをさせない。
効かなくても、多少の効果はある。連続パンチを叩き込んでその場に釘付けにさせる。
ローゼルは弓矢を連発して、半分以上をワイに当ててる。
その度にヒゴタイが羨ましそうな目でワイを見て、傷を癒してくれる。
カルドンはグラジオラスを気づかいながら、蜘蛛を解体している。
硬い物を削るような音が時折聞こえる。
ワイは戦いを手に汗握って見守っている。
まるで漫画やアニメの世界に来たようだった。
いや、戦いは何度か経験したけど毎回ダリアのパンチで沈めてたから、こういうきちんとした戦いって意外と初めてなんだよね。
ローゼルの矢の数本がレモグラライオンに当たっているが、どれも致命傷には至らない。
アヤメの大剣も当たっているのに、動きが全然鈍らない。
レモグラライオンは間違いなく強敵だ。
「ダリアの必殺技を見せる時が来たのだ!」
必殺技?そんなのあるの?
ダリアが高く飛び上がり、そのままレモグラライオンを蹴った。
「どうだ!ダリアキックの威力は!ダリアパンチよりも何万倍も強いんだぞ!」
これが必殺技?
あ、でも頭に当たったからか結構効いてる。
「いきます!」
掛け声と共にアヤメが再び大剣を振り下ろす。先ほどはライオンの足を狙っていたが今回は頭を狙う。
野生の勘だろうか。死を予感したレモグラライオンが逃げる素振りを見せた。
「逃がすかよ!」
ローゼルが、ジャンプして飛び上がりながら弓矢を連発する。
え?意外と凄くない?
矢は全てライオンに命中し、内数本は足を射抜いた。
そのままアヤメに叩き切られて、レモグラライオンは倒れた。
型にはまるとこのパーティーめちゃくちゃ強い!
ワイは初めて、へなちょこでヘンテコなパーティーの凄さに気がついたのだった。




