第三十三章その7
「あいつは!ゼウスじゃ!」
ワイの声に反応したブッドレアが言う。あいつがゼウスなのか。
ダリアを剣で刺そうとしていやがる。
スローモーションの世界だからこそ余計に分かる。
ブッドレアの守りよりも剣の方が早い。
その中で何故かワイだけがみんなより少し早く動ける気がする。
根拠はない。でも、ワイだけがダリアを助けられる。
そんな予感。
周りを見渡せる程の余裕は、全てがスローモーションの世界だからだろう。
チラコンチネが驚いた表情をしている。
パラナとタイニーは恐れからか両手で顔を覆っている。
ヘリックスは流石だ。ゼウスに一直線。
1は相変わらず無表情だし、ワチワヌイは激怒したブッドレアを見ている。
ブッドレアは慌てた表情をしつつも、ダリアを守ろうとしている。
やっぱりワイしかいないな。
後から聞かれても何となくとしか応えられない。
何か打算とかがあって行動したわけではない。
とにかくダリアを守りたい。それだけだった。
――ズブ。
…
「タロー!」
ダリアが叫ぶ。
この世界に来てからたくさん怪我したし、痛い思いは嫌という程味わった。
現世では経験できなかった、ある意味貴重な体験。
その中でもひと際痛い痛みが今回だ。
今までにない出血量だ。
当たり所が悪かったというか、心臓じゃなかったけど心臓に近い胸を刺されたからかな?
痛みは一瞬で、その後体がブルブルっと痙攣した。
瞬間、冷や汗と共に悪寒がワイを襲った。
その一瞬の痛みで分かった。
ワイが今まで経験した痛みの中で一番痛かったと。
「おやおや。娘を狙ったつもりでしたが勇者に刺さりましたか。」
遠くでゼウスの声が聞こえる。
「タロー!タロー!大丈夫か?タロー!」
うるさいな。大丈夫だよ。ワイがこんなんで死ぬと思うか?
ついさっきまで、ダリアと結婚するつもりでいたんだぞ?死ぬわけないだろ?
温かい風がワイを包む。
パラナの魔法かな?
「この外道が!」
ぼーっとする頭でブッドレアがゼウスをぶっとばすのを理解する。
多分、これでこの世界から<神の軍勢>がいなくなったのだと何故か確信した。
朦朧とする意識の中で、ダリアがワイを抱きかかえて涙を零しているのが分かった。
――あぁ。また泣かせちゃった。もう泣かせたくないと何度も思っていたのに…




