第三十三章その3
「やっぱり!」
思わず声を出してしまった。
声の主はマティーニだった。
ワイをあんな目に合わせた著本人。
性懲りもなくワイの目の前に現れやがった。
「久しぶりね♡ダーリン♡」
腕に絡みついてきやがった。
イラッとした。ワイにとってこの女は激しい嫌悪感しかない。
「あんたよく勇者の前に姿出せるね。」
呆れた言い方をしたのはチラコンチネ。ワイも同感。
こいつどういう神経してんだ?
しかしマティーニはチラコンチネを無視してワイに話しかける。
「ダーリン寂しかった?ねぇねぇねぇ。」
キスしてこようとしてくるのを抑えてワイが否定する。
「寂しいわけねーだろ!」
「ひどーいダーリン。…ところで、君たちは何をしてるの?」
ギロリとマティーニがモヒートとウイスキーサワーを睨んだ。
仲間なんじゃないの?
「マ…マティーニ…これはその…」
怯えながらウイスキーサワーが言う。明らかにマティーニを恐れている。
こいつが異常性癖の持ち主だからって理由だけじゃなくて、純粋にマティーニを怖がっている感じだな。
「<禁欲>、<風害>。君たちウチのダーリンに手を出したわね?」
マティーニがわなわなと震えている。
モヒートとウイスキーサワーは恐怖で震えている。
マティーニが2人の方へ向かって歩き出す。
瞬間、まずいと思った。
「逃げろ!」
直感でモヒートとウイスキーサワーに言うが遅かった。
マティーニがくまのぬいぐるみを出して、2人を攻撃した。
ぬいぐるみの腕はノコギリになっていて、一瞬で2人はやられた。
「ウチはねー。出した人形たちを好きなように変身させることができるの。凄いでしょ?ダーリン♡」
にこりと笑って振り向いてきやがる。
全然すごくないし!
頭に血がのぼってきた。
「仲間だったんだろ?」
「そうだよ?でもウチのダーリンを傷付ける奴はいらない。」
「もう逆らわないと誓ったんだぞ?」
「そうだったの?でもダーリンを攻撃した事実は変わらないからいらない。」
「無抵抗だったんだぞ?」
「ウチが強すぎるからね。」
「お前ぇぇぇー!」
気が付いたらマティーニを殴っていた。
「ひどい…ウチを殴った…ウチはダーリンのためにやったのに。」
よろよろと立ち上がりながらふざけたことを言っていやがる。
「あぁぁぁぁぁー!」
マティーニが急に叫び出した。
「もうやめてよ!ウチに酷いことしないでよ!ウチね。酷いことされるといつも訳が分からなくなるの。そうなるとね?いつもウチの前から大切な人が居なくなってるの。」
最後にもう一度叫んだ時には、マティーニの目の焦点が合っていないように見えた。
こいつ完全にヤバいやつなんじゃ?
「マティーニ!落ち着いて。」
マルガリータがやって来て声をかけてるけど、ありゃ多分聞こえてないよ。
「あぁぁぁぁー!いぃぃぃぃー!」
叫びながら大量の人形を出しやがったぞこいつ。
「もういらない!ダーリンなんて必要ない!ウチ以外みんな死んじゃえ!」
くまのぬいぐるみやドール人形や日本人形がワイらに襲い掛かって来る。
驚きなのは、マルガリータやレッドアイにも人形が向かっていることだ。
「くそ。ここまでか。あんたらも気を付けなさいな。それと、敵なのにウイスキーサワーとモヒートを見逃してくれてありがとね。」
そう言うとマルガリータはくまのぬいぐるみに食われた。
あのぬいぐるみ人を食うのかよ!
レッドアイを見ればレッドアイもくまのぬいぐるみに食われてる。
「タロー!無事か?」
ダリアが向こうから呼びかけてくる。
どうやらジンフィズを倒したらしい。
残るはマティーニだけってことだけど、これどうやって倒せばいいんだ?
「放射:開始。」
なるほど!人形なら燃やせるってことか!
「ティム!」
ティムに呼びかけると、返事の代わりに炎のブレスが飛んできた。
ドール人形が腕をプロペラみたいに回して炎を防いでるけど、そんな簡単にドラゴンのブレスを防げるものか!
「イヒヒ。そう…とうとうウチ1人になっちゃったんだ?もう人形たちじゃ君たちを倒せないのかな?」
「炎はある意味最強の攻撃だからな。何でも変身させることができるって言ってもしょせんは人形。物理攻撃が限界だろ?」
「そうね。人形の材質は変えられても、遠距離攻撃には対応できないわ。爆発させるにしても中に爆薬仕込まなきゃいけないし、それ作るのはかなり時間がかかるの。<人形>の力って言っても万能じゃないの。でもね。長い時間かければ万能に近い力にはなるの。」
「悪かったな。長い年月かけて仕込んだ人形を全て破壊しちまって。お前には悪いが、お前を助ける気はない。抵抗しなければ楽に殺してやるから降参するんだな。」
「いいのよ。長い年月をかけて仕込んだ人形はこれで全部じゃないから。」
まだあんのかよ。でもティムや1がいる限りこっちの優勢は変わらんぞ。
「イヒヒ。イヒヒ。」
何だこいつ!自分でツギハギのつなぎ目を傷つけやがった。
腕の縫い目が裂けてくぞ。
「勇者様。嫌な予感がします。下がりましょう。」
タイニーに言われてとりあえずダリアたちより後ろに下がった。
「パラナ。念のため防壁を展開してくれるか?1も頼む。」
「了解。」
「分かりましたわ。」
マティーニの腕の縫い目から出てきたのは血ではなかった。




