第三十一章その6
「これは?」
「違う。」
「これは!?」
「違う!」
「これは??」
「違うー。あのねぇダリア!いい加減薬草の種類くらい覚えてよ!」
チラコンチネがダリアに怒る。
ダリアはぷい。とそっぽ向いた。
「知らないのだ。ダリアはタローの怪我によさそうな草を選んでるだけなのだ。」
「適当じゃ意味ないでしょ。」
太郎を回復させるために、ダリア達はパラナが指示する薬草などを集めていた。
切り傷などは良くなったが、切り落とされた両手足はまだ復活していない。
もっと悪い事もあった。
「タロー。あのままなのか?」
ポツリとダリアが言う。
誰に向けた言葉でもないが、近くにはチラコンチネしかおらず、チラコンチネが元気づけるように応えた。
「平気だよ。一時的なものかもしれないって言ってただろ?パラナとタイニーが全力で治し方を探してくれてる。さ。とりあえず戻ろ?」
手を差し出してダリアを立たせると、2人して太郎の元へと歩き出した。
「あぁぁぁぁーぎぎぎぎぎぎぎぃー!」
しばらく歩くと、2人の耳に太郎の声が聞こえてきた。
「タロー。」
再びポツリとダリアが呟く。
チラコンチネは今度は何も言わずに、ダリアの手を強く握りしめた。
「お目覚めですか?勇者様。気分はどうですか?」
パラナが話しかける声も聞こえる。
「うあぁぁぁー!がぁ!」
再び太郎の声。
「お二人共。ちょうど勇者様が気づきましたけど…」
ダリアとチラコンチネに気づいたパラナがこちらを向いてちょっと微笑んだ後、視線を落とした。
「やっぱまだダメか。」
チラコンチネの言葉にパラナは、はい。と暗い声を出した。
太郎は精神を病んでしまい、人としての言葉も行動も思考も失ってしまった。
気がつくと、自分自身を傷つけ、近くにいる人を傷つけるため、仕方なしに1が作り出した拘束具を取り付けている。
「今日はもう5本安定剤を打っているので、これ以上はもう打てません。」
パラナが言うように、1日5本まで精神安定剤を打てるが、それで大人しくなるのは短時間だった。
後は寝るのを待つだけだった。
「タロー?まだダリアは分からないか?」
いつものように、ダリアが真摯に声をかけるが、返ってくるのは獣のような唸り声ばかり。
こんなことが半月続いていた。
看病する側の精神的ダメージも相当のものだった。
他の者もダリアもそろそろ限界だった。
「タロー…ごめんな…タロー…大好きなのだ…」
ダリアは決意する。
太郎を看病して半月。
メンバーの傷は癒え、それぞれ組み手や魔法の撃ち合いなどをして戦力を上げた。
そろそろ<神の軍勢>を倒しに行かなければならないと、考えていた。
「近いうちにあいつらを倒しに行ってくるのだ。タローのことは心配だけど、いつまでもこのままというわけにもいかないことはダリアがよく分かっているのだ。タローもそんなことは望んでない。さっさと倒してすぐに戻ってくる。だからそれまでは<エルフの森>で看病されていて欲しいのだ。ダリアはタローの傍を1秒も離れたくないけど、あいつらだけは許せないのだ。分かって欲しい。ごめんなタロー。大好きだよ。」
そう優しく声をかけたダリアは太郎に、キスをした。
今までは、ハグですら太郎が嫌がり抵抗し攻撃してくるのでしなかったのだが、今回は太郎が最後まで話を聞いていたことと、流れでしたのだ。
が、太郎は何故か抵抗しなかった。
太郎が抵抗しなかった理由、そして話を奇声を上げずに最後まで聞いてくれたことは、今までの看病で少しずつ回復に向かっているからなのかもしれない。
他のメンバーは、ダリアが太郎にキスをしていることに気が付いて、見ないフリをした。
『へぇ。勇者がキスまでさせるようになったか。こりゃ回復までもう少しか?』
チラコンチネは心の中で、ヒュウと口笛を吹いた。
「ちょっといいか。」
気がつくとダリアはメンバーの近くに来ていた。
「パラナのおかげで、タローの手足の再生はあと1週間くらいらしいのだ。だから、タローの意志が戻らなくても手足が再生したら、ダリアは<神の軍勢>を倒しに行くのだ。タローは<エルフの森>で面倒を看てもらうのだ。」
パラナをダリアが見ると、パラナは黙って頷いた。
誰も異論はなかった。
既に何度も話し合ったことだ。
1週間で太郎の精神が戻る見込みは限りなく0に近いだろう。
「あと、ダリアは今日からタローと一緒に寝る!」
謎の宣言だった。
「はぁ?」
思わず声を上げたのはチラコンチネだ。
「攻撃されても知らないよ?」
「平気なのだ。それにタローはダリアには攻撃しないのだ。」
『どの口が言ってんだよ。真っ先に攻撃されたくせに。』
太郎が気が付いて真っ先に抱き着こうとして、攻撃されたのがダリアだった。
それでも、ダリアの有無を言わさぬ言い方に、誰もが頷くしかなかった。
「あれだね。勇者の精神が戻ったら戻ったで、ダリアのわがままに付き合わなきゃいけないから大変だね。」
にやっとチラコンチネが笑いながら言った。




