第二十七章その5
開けた場所に2人の<神の軍勢>がいた。
「これはこれは。魔王の娘さんと勇者ではないか。」
ダンディーおじさんが大げさに両手を広げる。
「<豪雪>邪魔しないで。」
つぎはぎ女が前に出たダンディーおじさんに言う。
「今紹介されたように、俺は<豪雪>のジンフィズ。以後お見知りおきを。<災害>チームに所属している。能力は<滑る>力。そしてこちらが<不殺生>のマティーニ。見ての通り、お人形さんを使った力を得意としている。<モーゼの十戒>チームに所属している。」
わざわざ丁寧に教えてくれた。
それにしても…
「チーム?」
「あぁ。勇者君は知らないのか。我々<神の軍勢>は、最高神ゼウス様をトップに、他は横並びなんだがね。派閥みたいなものがあるんだよ。我々は便宜上それをチームと呼んでいてね。チームの種類にあった称号が与えられているのさ。」
ワイの問にも親切に教えてくれる。
「丁寧に教えることないのに。」
ジンフィズの後ろでマティーニがむくれている。
相変わらずジンフィズはマティーニを無視して語る。
「例えば俺は<災害>チームなんだが、君たちが一度会ったことある、カリモーチョも同じ<災害>チームだ。有名どころだと<大罪>チームではないかな?聞いたことないかい?七つの大罪。」
まぁあるけども。
えーと、傲慢とか嫉妬とか憤怒とかだっけ?
「まぁほとんどが魔族との戦争で死んでしまったがね。<兵器>チームなんて全滅だよ。<神の軍勢>最強部隊も魔王の前では無力だったようだね。」
やれやれと首を振っている。
「それでだ!今残っている<神の軍勢>の中では確実に最強であろう俺とマティーニが君たちを倒しにやって来たというわけだ。」
またまた大げさに両手を広げている。今度は頭上を見上げている。
それよりもちょっと待て。
この2人が最強ツートップなの?ヤバくないか?
「タロー。ヤバくなったら逃げるのだ。ダリアが絶対に守るのだ。」
「いやダリア。それはダメだ。逃げるなら一緒にだ。」
ワイの前に行こうとするダリアを止めながら言う。
「泣かせるねぇ。でも安心してくれたまえ。そこで1つ提案があるんだ。勇者君が我々の最初からの望みである、魔王を倒してくれるというのならば、我々は手を出さないと約束しよう。更に奥で戦っている君たちの仲間も助けよう。」
「そんなことできるわけないだろ!」
即答だった。当たり前だ。
「では奥で戦っている君たちの仲間たちがどうなってもいいというのかね?」
少々驚きながらジンフィズが言う。
いや。それもよくないけど。でも魔王を倒すとか考えらんないし。
てゆーかワイにとって敵は神だし。
でもこのまま仲間がやられるのも嫌だな…
「安心しなよ。アタイらは無事だよ。」
後ろから声がした。
おぉ!頼もしい仲間たちだ。
「やれやれ。勇者の仲間は何だか羨ましいな。」
ややボロボロだけどドール人形を突破してきたワイの仲間を見て、ジンフィズが言う。
「本当はこんなことしたくなかったんだがな…人族が死んだのは知っているな?あれが<呪い>の力だということも知っているかな?実はね勇者君…君に呪いがかけられているんだよ。魔王を倒さないと死ぬ呪うなんだが、どうだね?死にたくないだろ?」
またもややれやれと首を振りながらワイに問いかける。
みんなの視線がワイに集まるのを感じた。
ワイは思考が停止した感覚になる。
だって、そりゃ死にたくないよ。カルドン達を見れば分かるけど、呪いは絶対だ。
ワイが逆らえばワイが死ぬってことでしょ?
でも…ダリアのお父さんを殺すことはできない…
チラリとダリアの方を見ると、心配そうにこちらを見てきた。
「タロー。タローが呪いを受けることなんてないのだ。ダリア達魔族が消えればいいならダリアはそれを受け入れるのだ。」
にこりと笑ってきた。
待ってよ。そんなことワイに決められるわけないじゃん!
「あぁ安心したまえ。魔王の娘さんは死ななくても結構だよ?魔王さえ倒してくれれば。どうだね?引き受けてくれるかね?」
…
「俺は…死ぬのが怖い。死にたくない。」
これはワイの本心だ。
「それでいいのだ。タローのことはダリアがちゃんと守るのだ!」
「ま。勇者が選んだ未来ならしゃーないか。」
ダリアがワイの両手を握る。手が震えている。
チラコンチネはいつも通り両手を頭の後ろに組んでいる。
「いいのだよ。誰しもみな、自分の命が一番大切なのだから。」
ジンフィズが優しく言う。
ダリアの手を離して真っ直ぐシャンディガフを見る。
「でも俺はダリアを守るって決めたから!魔王を倒すことはできない!」
やっぱりワイはダリアが好きだから、悲しませることはできない。
これでもワイは男だからな?
「呪いで死ぬんだぞ?」
ジンフィズが目を細める。
「いいよ別に。どうせ死んでいる命。ダリアのために使えるなら本望だ!」
半分やけだ。どうせ死ぬならかっこつけてやる。
ワイは後ろを振り返ってダリアを見る。
「悪いなダリア。結婚するって約束。守れなかった。幸せになってくれ。みんな、ダリアをよろしくな。」
決まったぁー。これかっこよく死ぬコースだ!
「タロー。」
ダリアなんて涙ぐんでいる。
「「…」」
ジンフィズとマティーニは、あまりの状況に言葉を失っているようだ。
「アタイは勇者を見直したよ。生まれ変わったらアタイと結婚してよ。」
チラコンチネがほっぺにキスしてきた。
いつもなら怒るダリアも今回は怒らない。
最期だから許してくれたのかな?
「勇者様…短い間でしたが勇者様と冒険できて嬉しかったです。」
タイニーが懐で涙ぐんで言ってくる。
「エルフ族は、勇者様の勇姿を永劫語り継ぐことを誓います。」
ぺこりとパラナがお辞儀をして、隣のヘリックスも深々と頭を下げた。
「ドワーフ族ハ一生魔族ノ仲間トなることヲ約束スル。」
「犬人族も、ダリア様の命に従うことを約束しますわ。」
ワチワヌイが顔をペロペロ舐め回してくる。
ペットの犬が顔を舐めている感じでくすぐったくて嬉しい。
やっぱりダリアは怒らない。
とゆーか、泣いてる。涙で顔がぐちゃぐちゃだ。
「ダロー。お別れなんで嫌だよー。ずっと一緒にいだいよー。」
泣きついてくる。
そんなダリアの頭をぎこちなく撫でる。
あぁ。死ぬまでずっと女性経験なかったな。ダリアとなら、色んな楽しい未来がきっとあったんだろうに。
胸に顔をうずめたダリアが見上げてくる。
何かを察したチラコンチネ、ワチワヌイ、ヘリックス、パラナ、タイニーが顔を逸らす。
1だけがずっと見てきているが、まぁ機械だしいっか。
ダリアの顎を指でクイクイと動かして、ちょうどいい位置に口を移動させる。
ダリアの瞳が近づくにつれて、心臓の鼓動が早くなる。
ここが戦場だということを忘れさせてくれる。
そのままワイの口とダリアの口が触れる――
お互いの目が大きく見開かれる。
あれ?こういう時って目を閉じるんだっけ?
まぁいっか。ワイ人生最期の人に触れた感触は、ダリアの柔らかな唇だ。
ほんのりしょっぱい味がしたのは涙かな?




