第二十五章その3
「あのクソ虫どもがぁー!絶対に殺してやる!」
神界に戻ったジンバックがまだ怒っている。
「勇者を殺すことは許しませんよ。」
ジンバックに優しく諭すのはゼウス。
「しかしゼウス様!」
くってかかるジンバックを止めたのはゼウスではなく、<不殺生>のマティーニだ。
「ウチのサイコ君が完成したんだよ。<食欲>は黙って言うこと聞いてな。」
「マティーニもお待ちなさい。ジンバックとマティーニはジンフィズ・モスコミュール・ホワイトレディ・カシスウーロンと共に勇者の元へ行ってください。勇者に呪いをかけると脅して魔王を討って貰いましょう。勇者が言うことを聞かないならば本当に呪いをかけたり<契約>の力で強制的に魔王を討たせましょう。これで私たち神の勝ちです。」
ゼウスが優しく微笑む。
ゼウスに言われた後にジンバックは、足を踏み鳴らしながら歩く。
先には、ゼウスに名ざしされたジンフィズ・モスコミュール・ホワイトレディ・カシスウーロンがいる。
「ゼウス様に怒られてきたか。」
<豪雪>のジンフィズが軽い口調で言う。
「それよりも手筈を確認するぞ。」
ジンフィズの軽口を軽くいなして<謙虚>のカシスウーロンが言う。
「相変わらず堅物ねぇ。今回私は勇者の前に顔出さないわよ。近くまであなた達を運ぶことが仕事。私を見た瞬間攻撃的になられても困るしね。」
<潔白>のホワイトレディは白くて長い髪を片手で後ろにやりながら言う。
「それなら<食欲>も同じなんじゃない?勇者に半殺しにされたんでしょ?」
イヒヒと笑いながら<不殺生>のマティーニが<食欲>のジンバックをからかう。
「うるさいよ。僕は戦闘向きの力じゃないんだからしょうがないでしょ。僕は君たちみんなを一度に空間転移で移動できるようにするのが仕事。僕もホワイトレディと一緒に今回は影で見てるだけにするよ。」
やれやれと左右に首を振る。
「とにかくオレの<呪い>の力を知らしめて脅せばいいのだろう?やつの前に出るのはオレとカシスウーロンだけでいいのではないか?なぜこんな大所帯で行く必要があるんだ?」
<怨恨>のモスコミュールが他の5人に聞くが、誰もその応えが分からなかった。
「確かに私とジンバックは必要だとしても、マティーニやジンフィズが行く意味は何かしら?」
ホワイトレディが首をかしげる。
「もしかしてゼウス様は、僕たちを勇者と戦わせようとしている?」
ポツリと言ったジンバックに全員の視線が集まる。
「ゼウス様が必要なのは勇者のみ。魔王の娘は契約で呪えないけれど殺してもいいし、何なら人質として使える。」
カシスウーロンが一気に言い終えると、ジンフィズが後を引き取った。
「するとつまり何か?俺達は逆らう異種族どもを根絶やしにする権限を与えられたと?」
「むしろさぁ、勇者にどんどん絶望を与えればウチらに逆らう気も失くなるんじゃないかな?」
イヒヒと笑ってマティーニが言うが、あながち間違いじゃないと他の5人が思う。
「勇者の仲間になった異種族をも全滅させ、魔王の娘を人質にして勇者に魔王を殺させる。確かに一番効率的かもしれんな。」
ふむ。とモスコミュールが頷きながら言う。
「ということは、私もジンバックも隠れる必要はないってことね。」
にやりとホワイトレディが笑うと、ジンバックが大声で笑った。
「あのクソ虫どもを殺せるんだね!勇者さえ生きていればいいんだね?これを分からせるためにわざとゼウス様はこのメンバーを集めたわけだ!今に見てろよクソ虫ども!」
「戦力をもっと集めなくていいのか?」
堅物のカシスウーロンらしい考えだ。
確実に勇者以外を殺すならば、もっと戦力を集めてもいいだろう。
しかしジンフィズがそれを否定する。
「必要あるまい。魔族との戦争で戦闘向きの力があまり残っていない今、俺がいることは正に神の加護があるからに他ならない。俺がいれば負けはまずない。」
ジンフィズの力も決して戦闘向きの力とは言えない。
しかしジンフィズには、その力を戦闘に活かせるセンスがあった。
<神の軍勢>の中でもトップの実力を持っていることは確かだった。
「…いえ。あいつらの実力は間違いないわ。念には念を入れましょ。」
ジンフィズの力を知っていても尚、勇者一行の方が上だと考えたのはホワイトレディ。
「あんたの実力を疑っているわけではないの。ただ、念のためよ。」
反論しようとするジンフィズを遮って、そう付け加えた。
「誰を連れていくつもりなんだい?」
ジンバックの質問にホワイトレディは即答した。
「ソルティドッグ・ジントニック・シャンディガフにレッドアイよ。」
「ちょっと待て。数いればいいってものでもないぞ。レッドアイやシャンディガフならともかく、ジントニックには戦闘能力は皆無だぞ。身体能力も低いし殺されるだけだ。」
ジンフィズが否定する。
「<傲慢>との連携を考えているのかもしれないけど、ウチも反対。戦闘中にそう簡単に連携なんて取れないと思う。」
マティーニにしては珍しく仲間を心配しているようだ。
「心配しないで。考えがあるの。」
ホワイトレディの考えを聞いた他の5人は、なるほど。と頷いて、これなら確実に勇者以外を殺せると思った。




