第二十三章その3
こちらへやって来るカルドンの姿が徐々に大きくなる。
カルドンを押しのけてローゼルがひょこっと顔を出した。
にっこり笑顔だ。
ローゼル、カルドンの後ろにはグラジオラスとヒゴタイがいる。
懐かしい面々だ。
彼らに不信感を抱いているワイだが、笑顔が自然とこぼれるのを感じる。
「タロー!ダリアは自分で自分が分からなくなってきたのだ。カルドン達に対して笑えないと思っていたのに、今は不思議と笑顔が出てくるのだ。どうすればいいのだ?」
分かる!よぉ~く分かるよ!
「あぁ。俺も――」
同じ気持ちだと言おうとした時に、空気が揺れた。
ぐわんとした感覚が脳内に流れてくる。
めまいのような立ち眩みのような感覚だ。
「何なのだ?」
ダリアも同じ感覚を受けたようだ。
前を見るとカルドン達も片膝をついていた。
みんな同じ感覚を受けた?攻撃か?
キョロキョロと辺りを見回すが、これといって敵らしい敵は見当たらない。
「タロー、今のは一体?」
よろよろと立ち上がりながらダリアがワイに聞くが、ワイにも分からない。
「ヒハハ。私の力だよ!」
背の低い女の子が後ろから声をかけてきた。
笑いながらこちらにやって来る。
「離れろ!太郎!」
カルドンがよろよろと立ち上がりながらワイに言う。
ワイとダリアは今、カルドン達と謎の少女に挟まれた状況だ。
油断した。
今回はカルドン達が謎の少女と仲間じゃないから良かったけど、敵に挟み撃ちにあってたら大変だったな。
「何者だ?あんた。」
大方の予想はつく。
「私は<神の軍勢>幹部、<真理>のキティ。視覚や記憶を共有する力を持っているよ。前に<神の村>の情報を君に共有したのが私の力。今はめまいの情報を共有してあげたの。どう?楽しめた?」
ヒハハと笑いながらキティと名乗った少女が言う。
「くそっ!<神の軍勢>は本当にいたのか!」
カルドンが悔しそうに言う。
「勇者の仲間か。」
大男が少女の後ろからやって来た。
「我は<妄語>のオペレーター。勇者の仲間の人族ならば我らの指令を知っているはずだな?」
ギロリとオペレーターがカルドンを睨む。
「念のために言っておくが、俺様たちに勝とうなんて思わないことだ。俺様は<性欲>のスクリュードライバー。俺様達の言うことを聞いてもらおうか。」
やや小ぶりだが筋骨隆々の男が凄みを利かせる。
「神の指令って、魔族を滅ぼせってやつか?」
ワイがオペレーターに訊くと、オペレーターは黙って頷いた。
視線はカルドンに向けたままだ。
「えっとさ、それなら俺に直接言えばいいじゃん?なんで他の人を巻き込むのさ。それに俺の仲間を殺したのもあんたら神だろ?」
訳も分からずワイが訊くと、スクリュードライバーが答えてくれた。
「勇者には知らされていない真実というものがある。人族は俺様達神の奴隷だ。」
そう前置きをしたところでカルドンが遮った。
「ちょっと待て!」
焦るカルドンを見てキティがヒハハと笑った。
「いいよいいよ人間~。足掻いて足掻いて苦しみなよー。」
「太郎。俺達は勇者が魔族を滅ぼす存在であると聞かされて育った。それと同時に勇者が人族の願いを成就させる存在だとも聞かされた。」
カルドンが真面目な顔でワイに言う。
「願い?」
「神殺しだ…」
すまない!とカルドンが頭を下げる。
「ウチらは、勇者が神を殺すことで、どんな呪いを受けるか知らない。でもそういった罰当たりなことを全部勇者に押しつけようとしてたんだ…」
ローゼルも頭を下げてきた。
「全ては自分達が助かるために…神から解放されるために…」
ヒゴタイも同様に頭を下げる。
「へー。あっさり白状するんだ?何で?」
つまらなそうにキティがカルドンに訊く。
「俺達は、勇者ではなく、太郎の仲間になる!人族とかそういうのではなく、1人の友人として太郎を助けたいんだ!」
「ごめんね勇者。知ってたのに黙っててでもあんたに神殺しの報いなんて受けさせないから。」
ローゼルがぎゅっと手を握ってくる。
久しぶりの感覚に胸が跳ねる。
あ!とかダリアが言っているが、それどころの状況ではなかった。
「それってさ、つまり私たちに逆らうってことぉー?」
にやにやしながらキティがカルドンに訊いている。
「当然だ!俺達は太郎の仲間だ!<神の軍勢>を倒す!」
カルドンが叫ぶ。
嬉しすぎる。
ワイはやっぱりカルドン達を信用して良かったんだ。
さっき心の底から浮かび上がってきた笑顔の感情。
あの感情は正しかったんだ。
嬉しくなってカルドンの方を見たと同時にダリアが叫んだ。
「タロー!」
カルドンが死んでいた。
カルドンだけじゃない。グラジオラスもヒゴタイもローゼルも死んでいた。
「ヒハハ!」
キティが高笑いする。
片手で顔を覆い、指の隙間からこちらを見て笑いながら話す。
「人族はみんな死んだ。私達の仲間の呪いの力によってね。」
何だと?
ザワッとした感情が心の奥底から湧き上がって来る。
<猫の里>で言われた、嫌な空気が世界を覆っているというのが呪いだったのか。
今まで苦楽を共にしてきた仲間が全員死んだ…
「私達神に逆らうと死ぬように呪いがかかってたのも知らなかったんだ。」
ヒハハと相変わらず笑っている。
つまり、わざと逆らうような言葉を引き出したわけか。
「タロー。ダリアは許せないのだ。」
ワイもだよ。
スカーレットが殺された時以上の怒りがこみ上げてくるのが分かる。
「ぶち殺してやる!」
感情任せに叫んだ。




