唐突な逃走
皆さんは登校や通勤の時間はいかがお過ごしでしょうか?
電車の窓からぼんやりと流れる風景を見たり、音楽を聴いたり、友達と喋るのもいいですね。
まぁ、僕レベルになると…
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
叫びながら裏路地をダッシュするんですけど。
いやぁ、なんでそんなことしてるのかって?
ははは、それは僕が知りたいんだよね。とりあえず僕の数メートル後ろを見てみてくれ。
「ヒャッハァァァァ」
「オラオラオラオラ」
「待てやコラァァァ」
いかにも世紀末にいそうな3人組が鬼の形相で何故か追ってくるんだよね。
僕、何かしましたっけ?
というわけで今結構まずい状況です。
せめて行き止まりにさえ行かなければ…
「馬鹿め、そっちは行き止まりだ。」
あ、オワタ。僕の人生早くも終わりました。やぁ皆さんお疲れ様でした。あ、そういえば自己紹介してませんでしたね。僕の名前は…
「追いついたぞガキめ」
「いや人の自己紹介遮るのマジでやめてもらいますか?ふざけて…」
世紀末三人組のうちの鶏を思わせるような派手な頭をしたマッチョな男が鉄バットを見せつけるように己の肩に置いた。
「ふざけてるのは僕でしたね本当にごめんなさい!」
全力で謝ったあと、気配に押されるが如く僕は背中を行き止まりの壁にピタリと貼り付ける。
雰囲気的に鉄バットをどこから出したのかは聞けなそうだ。やはり四次元ポケットだろうか。
「おいテメェ、『あれ』はどこだ。」
三人の中で一番ちびっこいのが射殺すような鋭い目つきで訪ねてくる。
「す、すみません。その『あれ』ってやつに心当たりがないのですが…」
「とぼけんじゃねぇ。テメェが『あれ』を持っているって事はばれてんだよ」
だめですね、これ。人の話全く聴いてくれませんよ。詰みましたね、はい。
人生の終わりを予感しながら今日の行動について少し振り返ってみる。えっと…確か…
僕、桃山太郎は今日もいつも通りに起きていつも通りに家を出た。もちろん近くの高校に徒歩で登校するためだ。高校生になりたての頃は少しだけ輝いて見えた街並みも、二ヶ月たった今ではすっかり古ぼけて見えた。
友達も少なからずいるし、我ながら順風満帆な高校生活を送っていると思っていた、さっきまでは。
母さんが作ってくれた弁当を持ち、家を出て少し歩き人があまり通らない裏道に入った瞬間、あの世紀末三人組が追いかけてきたのだ。
もちろんその間何か落とし物を拾ったわけでも無く、ただ歩いていただけなのに。なんという理不尽。
そんなわけで、この意味不明な状況を理解していただけただろうか。
僕は改めて目の前に迫る三人組を観察する。一人は特徴的なトサカを持つ筋肉マッチョの鶏みたいな男。
その横にはお相撲さんもビックリな体型の豚のような男。
最後に小柄ですばしっこそうなネズミのような男。
全員20歳くらいだろうか。全く意味不明にも程がある。
「なにぼけっとしてやがる。早く『あれ』を出せつってんだろ」
あぁ、もうこうなったら…
「ふっ、そこまで言われたら仕方がない。お前らが欲しいのは…」
持っていたカバンをゴソゴソとあさり目的のものを掴む。
「これだぁぁぁぁぁぁぁ」
僕の投げた袋から大量の砂が舞い上がる。
「ゲホッゲホッ、くそ、なにしやがった」
三人が怯んでいるうちにその横をすり抜けがむしゃらに裏路地を駆け巡る。
「これこそがお手製『目眩しボム』の力だ。」
そんな独り言が薄暗い路地に消えていった。