#08 森の異変
今日は待ちに待った三人揃って依頼を受ける日だ。
私たちは冒険者登録を終えた日から今日まで、ゆっくり時間をかけて装備を揃え必要な情報や知識の勉強会をしていたのだ。
ルミーナたち二人も初日の失敗を胸に刻んで、私と一緒に準備と勉強をやり直し、今度はしっかりリベンジするって言ってる。
こうしてそれなりに準備ができたと三人が感じたところで、リベンジ(私は初チャレンジ)に向かいます。
ちなみに私の装備は、護身用のショートソードと、半袖短パンの丈夫なインナースーツに、肩当て、ハイソ&ブーツ、手の甲までカバーするガントレットといった感じの軽装仕様だ。
まあ、素の体力がまだまだ低いんで重い防具なんかゴテゴテとつけたら間違いなく動けなくなるから、軽装しか選択肢はなかったんだけどね。
「まずは、安全確実に焦らず一歩ずつだね。」
「そう、ハバネは、これが、最初。当面は、採取で、行く。」
「そうだね、この辺で採取できる薬草類はだいたい頭に入れたから、あとは実地でだね。」
依頼の貼られた掲示板の前で私はふんすと拳を握る。
それを見て『落ち着け、落ち着け!』となだめるように肩を叩くリーリィ。
その間に良さげな依頼を見つけて、それを剥がすルミーナ。
「この『各種ポーション用の薬草採取』がイイんじゃない? 種類と数がちょっと多めだけど三人なら大丈夫だよね。」
「これなら、勉強の成果、試せる。ルミーナ、ぐっじょぶ!」
「私も異論ないよ。うん、これにしよ。」
剥がしたい依頼書を持って受付に行き、受領の確認を済ますることで依頼は成立する。
「はい、この依頼ね。すぐに受付処理するわね。
うん、今のあなた達にはちょうど良さそうな依頼だわ。
でも街を一歩出たら何があってもおかしくないというのが冒険者の常識よ。
絶対に無理しないこと! 何があっても生きて帰る! これを一流になるための秘訣ですからね。
じゃあ、行ってらっしゃい、頑張ってね。」
受付処理をしてくれたナタリアさんに見送られて私にとっての初めての冒険が始まる。
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日も暮れた城塞都市クロスロードのここは『草原の子羊亭』。
「「「お疲れ!(さん)!(さま)!」」」
今日の依頼を無事クリアできたことに満足して、慣れぬ緊張からも開放された私は、ルミーナたちと宿の食堂で本日の健闘を称え合っていた。
「やっぱりハバネのドローンは便利だよねぇ。
サテラだっけ? さっと飛んでいってサクッと薬草見つけちゃうもんね。」
「ん、あのとき、私たち、助かったのも、サテラの、おかげ。」
今回の依頼ではサテラの『探査』が大活躍だった。
以前は薬草なんて見分けられなかったけど、勉強して薬草の詳しい知識を得たことによりサテラの探査精度が上がっていたのである。
流石にアカシックレコードみたいな異次元データベースにアクセス・・・とか都合良くは行かないみたい、うん分かってた。
「ここに転生したばかりで、知らない世界に一人きりだったから、状況把握を最優先したかったんだよ。
それで真っ先にサテラを創ったんだけど、それでルミーナとリーリィを見つけらて良かった。」
「サテラ、だけじゃない。 テクトも、セイバーも、優秀!」
「そうそう、スナイプイーグルやファングラビットの不意打ちも防げたしね。」
同じようにお勉強の成果で魔物の知識も増えていたので、サテラが見つけてテクトが防ぎ、セイバーが迎え撃つというドローンの連携もうまくハマるようにもなってた。
こうして少なからずも自信をつけた私たち三人は、それ以降も初心者向けの依頼を地道のこなしていき、冒険者としても着実に経験を積んでいった。
そうやって順調に充実した日々を送っていた頃、冒険者ギルドの一室で幹部たちが難しい顔で向かい合っていたなんて全く知らなかったんだけどね。
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「じゃあ、同じような報告が複数上がってきてるってことなんだな。」
「ああ、駆け出しからそれなりのベテランまでが、不釣り合いな居るはずのない上位の魔物と遭遇したと言ってきました。
これが事実だとすると、森で何かが起きているのではないでしょうか?」
作りのしっかりしたそれなりに高価そうな机に向かい、同じように高価そうな椅子に座って、部下と思われる者の報告を聞いていた男は、大きくため息をつくと両肘を机に置いてその手を組んで表情をしかめる。
「ハグレが単独で森の浅いところまで飛び出してくるなんてことはこれまでにもあったが、今回みたいなことは聞いたことがないぞ。
森の奥地で何が起きてるっていうんだよ、まったく。」
「森の最奥地は未だ未到達地です。この件を重要視するのであれば調査を行う必要がありますが、今の所はまだハンターたちだけで対処ができています。
無理をする必要もないのでは?」
「だが、何かが起きてしまってからでは手遅れになるかもしれん。とりあえず信用できそうな上位パーティに調査依頼を出すか・・・。」
そんな真剣で深刻な会話がされている間も、絶対にこのような調査依頼が来ることのない低レベルパーティの私たちは、いつものように元気良く採取依頼をこなしていた。
「そういえば、なんかここらの魔物、微妙に強くない?」
「うん、私もそんな気がしてる。なんだかこれまで聞いて魔物の分布と違っているような気もするし。」
「食糧、不足で、餌場が、変わった・・・、とか?」
疑問形で答えてコテンと首をかしげるリーリィ。
どうやら、私たちも森の異変と無関係ではいられそうにないようだ。
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今日はなぜか依頼のターゲットがなかなか見つからなかった。
今日の獲物は初心者向けで結構簡単に見つかるって聞いていたのに、何故か未だに出会えていないのだ。
「鳥系の魔物の依頼だったら、だいたいこの辺で見つかるはずなんだけどなぁ?
サテラ飛ばしてても、いそうな気配が全然なーい。」
いつものように探索用のサテラを飛ばして獲物を探していたけど、今回はなかなか見つけられないでいる。
「おっかしーなぁ?!
ここって初心者向けエリアだって言われてる場所だよ。簡単に見つけられて簡単に捕まえられる場所だよ。
そこに獲物が居ないなんて?!」
「ココ、新米冒険者が、よく来るトコ、ナニか、問題が、あるとしたら、ヤバい、かも。
調査、するか、ギルドに、報告、しないと。」
「でも、このままじゃ獲物が見つからないとしか報告しようがないよぉ。」
経験のない状況に困惑を隠せない二人に、私は声をかける。
「なら、もう少しだけ付近を調べてみようよ。 何か見つけても、深入りせず、すぐに引き返してギルドに報告するってことでどう。」
無理も、放置もできないとお互いの顔を見て頷きあい、同意を確認する。
そのまま私たちは臨戦態勢をとって、沙羅の森の奥を目指す。
そうやって森を進むうち、いつもとあきらかに違う周囲の様子に気がついた。
「森の雰囲気がおかしくない? 鳥も虫の声も聞こえない。獣の気配が全くしないなんてすっごく変!」
「この、状況、聞いたこと、ある。
強力な魔物、いわいる魔獣、居付くと、周囲の、魔物が、逃げ出す、事あるって。」
この話を聞いてつい最近の、私たちにとって忘れようがない出来事を思い出した。
「私たちが出会ったあのクマみたいに、他の場所に居ないはずの強い魔物が現れたって話、ココが原因なんじゃないかな?」
ルミーナとリーリィは、ハッとなってお互いを見つめ合う。
読んでいただきありがとうございます。
執筆スピードがなかなか上がりませんが、頑張って更新を続けようと思います。
これからも応援してもらえるとありがたいです。