#77 アオ、それダメッ?!
案内として先頭を歩くメンテナ、そのあとに続く私たち。
どこに行くのか尋ねると『英知の宝珠』のある部屋にいくという。
私たちに渡したいというのは、賢者が得たあらゆる知識、会得した魔法を収めてある魔道具なのだという。
「すごいのです! 古の大賢者が得たあらゆる知識、それはいったいどんな素晴らしいものなのでしょうか。もうワクワクが止まらないのです。」
知識オタでもあるミリアはいつも以上に興奮気味でみんなちょっと引いている。
リーリィもいつにも増して静かにしているように見えるが、内心では好奇心が疼いているのがわかる。
ちなみに知識を封じる魔法とそれを読み出す魔法は、古の賢者様がそのためだけに開発したものらしい。
ホイホイと魔法を作っちゃうなんて流石は大賢者様だね。
そして案内された部屋はだぶん賢者様が使っていた書斎であっただろうと思われた。
なぜかというと壁一面に本棚がしつらえてあったからなんだけど、蔵書は一冊もなかったんだよね。
メンテナいわく、かつては賢者の蔵書で埋め尽くさていたらしいが、長い年月の間に朽ち果ててしまったのだそうだ。
知識のすべて、いわばバックアップを宝珠に収めたんだから、蔵書の貴重性はなくなり、保存の魔法をかける必要を感じなかったのだろうということらしい。
そしてその書斎中央にある豪華な机の上にはその宝珠が鎮座していた。
注意深くてその宝珠を手に取ったメンテナが、恭しく私に手渡してきた。
しげしげと受け取ったそれを観察した私は、好奇の瞳を向けるルミーナたちのその宝珠を手渡す。
順番に宝珠を観察していた私たちだが、正直言ってただの水晶玉にしか見えなかったけどね。
「ところでさあ、これってどうやって使ったら良いの?」
宝珠を目にしてどうしていいかわからなかった私は、メンテネに尋ねてみた。
「宝珠を使うための魔法があります、それを使用するのです。
主は知識を封じこめる魔法とともにそれを読み取る魔法を一緒に開発なさいました。」
「そっか、でその魔法はどこにあるの? どうやって覚えればいいの?」
「主のすべての知識は、宝珠の中に収められております。」
・・・・・・・・・。
「「「「「はぁっ?!」」」」」
ちょ、ちょっと待って!! 宝珠を使う魔法は宝珠の中にあるってこと?!
それって金庫の鍵が金庫の中に入れてあるってのと同じことじゃね?!
もしかして賢者ってバカなの?
「ねえねえハバネっ、それってどうやっても使えないってことじゃん!」
うん、そうだよねぇ、完全に手詰まりだよ、ホントにどうしようないのかな?!
「メンテナ、それってもう詰んでるよ、どこか別に魔法のことは残ってないの?」
「はい、以前は宝珠の使い方に関する手引書のようなものがございましたが・・・
書斎の書籍と同様、長い時の中で朽ち果てて消滅してしまいました。」
それからいろいろ聞いたメンテナの話から思ったことがある。
たぶんだがこの賢者様、自分の知識を誰かに継承させるということにあまり積極的ではなかったのかもしれない。
うまくいけばめっけもの、程度だったのかも。
その程度の保険みたいな作業だったから、こんな単純なミスにも気が付かなかったのだろうと思う。
でもまあ、賢者の知識というのにちょっと興味はあったけど無理なものはしょうがないよね。
そう思ってすっぱりと諦めた私は、元あった場所に宝珠を戻す。
そして自分の考えをみんなにも話して聞かせていたのだが、アオだけまだ宝珠を気にしているようだ。
受光体である目のようなもので宝珠を眺めたり、触手を伸ばして宝珠を突いたりしている。なんか可愛い。
そんなアオの様子が目に入り、声をかける。
「アオはそれが気に入ったのかな。でもダメだよ。
それは貰っても使いようがないから、そのまま置いていくからね。」
私の話が分かったのかどうなのか、アオは二つの目のような受光器官を透明な身体の中で傾けた、まるで首をかしげるように。
その後も宝珠を触手で抱えて眺めるように弄ぶアオ。
何気なく、そんなアオの様子を眺めていたのだが、突然アオがとんでもない行動を起こす。
すぽん・・・・。
何を思ったのか、その宝珠を体内の取り込んでしまったのだ。
「ダメっ!アオ!! それ、すぐに出しなさぁーいっ!!」
「このまま、だと、宝珠、吸収、される。」
「アオちゃぁん、ダメっ!! すぐにペッってするのぉ!」
突然のアオの凶行に、慌てるまくる私たち。
宝珠を取り込んだまま、我感ぜずな態度で不思議そうにこちらを見るアオ。
そんな騒がしい状況の中でも、メンテナはただ黙って壁際に控えている。
メンテナにとって宝珠はもうすでに私たちのものという認識なんだね。
「ねえ、ちょっと変じゃない?
アオに取り込まれた宝珠がまだ吸収されてないよ。
いつもなら金属でもなんでもすぐに分解吸収しちゃうのにさあ。」
ルミーナの言葉にアオを観察する。
そこには、体内に宝珠を浮かべている以外はいつも通りのアオがいる。
「ねえ、アオ。 あなたその宝珠で何をしたいのかな?」
私の問いかけを理解したのかどうかわからないけど、体の表面まで押し出された宝珠を触手でつかんで上に差し上げるアオ。
「なーんだ、ちゃんと宝珠を返してくれるんだね。はい、それを頂戴。」
そう言って私は手のひらを上に向けてアオに向かって差し出す。
だがそれを見たアオは、すぐにまた宝珠を体内に取り込んでしまったのだった。
「アオちゃん、また飲み込んじゃったよ。」
さっきから不思議そうにアオの行動をみていたラズリがつぶやく。
「もう、アオってば一体何が気に入ったのかなぁ。
はあ、中の情報が読み取れなければ、何の役にも立たないただの玉なのに。」
せっかくの大賢者の知識も、結局はスライムの玩具にしかならなかったのかぁ、とため息をつく。
「あお、わかるよ、たまのなかみ。」
「ほぇっ?!」
アオの発した言葉に、思わず妙な声が出ちゃった。
「あお、なかみわかる。まほうのこと、まもののこと、やくそうのこと。
たまのなか、いろんなこと、いっぱいある。」
「もしかして、宝珠の中身がアオには分かるの。
じゃあさあ、この島が浮いてる仕組みがどうなってるのか教えてくれる?」
なんか、またまたアオの不思議能力が発揮されたみたいだ。
いつものたどたどしい言葉遣いながら、浮島の原理をアオが話し始めた。
重力に作用すると言われる鉱物を魔法であれこれ処理して液体化し、それをある種の回転運動をさせることで重さが減少するらしい。
そして大気より比重が軽くなったところで浮き上がるらしい。
これでアオがちゃんと宝珠の知識を引き出せることが分かったんだけど・・・。
ただ知性や思考の底上げになるわけではないようで、アオ自身が賢くなるわけではないようだ。
ようは、アオだけが読める膨大なデータベースが手に入ったということになるみたいだね。
「天才スライム、爆誕! とはいかなかったかぁ、ざんねん、」
まあ、なんにしろ、賢者様の知識が無駄にならずに済みそうってことで、それを聞いたメンテナが少しうれしそうに感じたのは私だけかな。
読んでいただきありがとうございます。
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