#76 立体映像ですかぁ?!
祭壇にも見えるその部屋の中央に安置された水晶の珠。
それに私が触れるとその珠は光を放ち始めた。
その輝きは更に強さを増していき、そして視界のすべてを真っ白に塗りつぶしてしまう。
「お姉ちゃんっ! ま、眩しいよぉ?!」
「なんなのぉ! 何が起こってるのぉ?!」
「「「・・・・・・・・っ!?!」」」
突然のことに、目を庇い、狼狽えるみんな。
だが、そんな輝きもすぐに収まり、くらんだ視界も徐々にもとに戻ってくる。
回復した視界に映るのは、先程と変わらないホールの風景・・・、ではなかった。
目の前に、水晶の珠を撫でるように手を添えている、地面をするほどの丈の長いローブ、そう魔道士ようなローブを着てフードを目深に被った人物が立っていたのだ。
その人物はよく見ると薄っすらと向こうの風景が透けていて、明らかに普通の人間ではなさそうである。
「これは、在りし日の主様の姿を魔法で記録した物を映し出した虚像です。」
警戒心を顕にする私たちに向かい、メンテナが状況を説明してくれた。
そう聞いてじっくり観察してみると、たしかにピントが甘い立体映像のようにも見える。
目の前に現れた人物は、前世で見た古い活動写真のように擦り切れた映像でコントラストも甘く、映し出されている人物もフードを被っており顔も半分は影がさしてよく見えなかった。
そんな映像が動き始める。
「ようこそ、強き者よ。
この儂の言葉を聞いているということは、儂が施した試練をしっかり乗り越えてこの場所にたどり着いたということじゃな。
ふむ、中々の実力者のようじゃ。それとも魔道士のレベルが儂らの時代から遥かに高くなっておるのやもしれんが、まあよかろうて。
ここは儂の最期の場所、かつて大賢者と呼ばれた儂のすべてを残した場所じゃ。」
ここを創った賢者と思われる人物が私たちに向かって話を始めたようだ。
「名もないような田舎の小さな村で生まれた儂は、たまたま魔法の才能に恵まれたことで有名な魔道士の目に止まりに弟子入りが認められた。
厳しい修行の日々であったが、ひとつまたひとつと新たな魔法を修めていく日々はとても楽しかったのぉ。
そうやって魔法づくしの日々を送るうちに、儂はそれなりにた名の知られる魔道士になっておったのじゃ。
そしてその名が王家にまで知れると、宮廷魔道士として招かれることとなったのじゃ。
得た地位と権限は、儂がさらなる魔法を研究するに恵まれた環境であり、自身の飽くなき好奇心を満たす事ができる充実した日々を送くっておった。」
ふむふむ、どうやらこの賢者様は天才でも化け物でもなく、自身の好奇心に忠実でちょっとマッドな努力家だったみたいだね。
「そんな幸福な日々を送る傍らでは、世は乱れ大国同士が争う戦乱の時代を迎えておったようでのぉ、当然のごとくこの国も巻き込まれることになった。
いつしか儂も生み出した魔法と育て上げた魔道士たちを引き連れて最前線で戦っておったのじゃよ。
儂らは次々に大戦果をあげてゆき、それにより我が国に大きな利益をもたらしたのだ。
だが、儂らの優れた威力ある魔法はあっという間に他の国に広がってゆくこととなり、その後の戦を更に悲惨で凄惨なものへと変えていったしまったのじゃ。」
戦争による悲劇に手を貸してしまったことへ深い後悔を感じさせるように声色がくすんだように感じる。
「そんな戦場の有様を見続けるうちに、いつしか儂は自分のしてきたことが恐ろしくなり魔法への意欲も次第に枯れていってしまった。
戦乱の世が終わりを告げる頃には、儂は誰に告げることもなくひっそりと姿をくらまし、人里離れた場所へ隠れ住むようになったのじゃっ。
その後の儂は、ただひたすら自分のためだけ、自分の好奇心を満たすためだけに魔導を極める日々を送っていた。」
「保有魔力の高さと自身で開発した延命の魔法で人族としてありえぬ長い時を過ごしてきたが、流石に命の終わりのときが近いことを悟った。
そして気がついたのだ。 長き時を過ごして明かしたこの世の理、幾多の新しき魔導、数々の魔道具。
それらを託すべき者がいないこと、儂の死とともにそれら全てが失われてしまうことにのう。
残された時間は長くなかったが、それでも儂は儂の中にある膨大な知識を後世に残す手段を模索し続け、そして遂に作り上げた。」
「願わくば、ここにたどり着いた者が儂の轍を踏まず、その知識を良きことに生かしてくれることを望む。
その知識を封じた魔道具は、そこにいるだろうメンテナと言う魔導人形に託してある。
今、儂の話を聞く者へ渡すかどうかはメンテナの判断に委ねておる。
こんな老人の長話に突き合わせてすまんかったのぉ、あとはメンテナに任せておるので、ゆっくりこの地を楽しんで行くが良い。」
話すべきことが終わったようで、賢者の映像は徐々に薄れるように消えていった。
「我らが主の最後の言葉を聞いて頂き、ありがとうございました。」
残されたメッセージが終わると、メンテナが深々とお辞儀をする。
「それでは主が語りし最後の遺産のところへ案内したいと思いますが、その前に一つお伺いしたいことがございます。よろしいでしょうか?」
「それって私が遺産を受け継ぐにふさわしいか確かめるってことだよね?」
「そう、お考えいただいて構いません。ただお聞きしたいのはたった一つです。
主が得たというあらゆる知識、それを手に入れてあなたは何を望みますか?」
メンテナはこの世界においてチートとも言えるであろう膨大な知識を、私が受け継ぐにふさわしいかどうかを見極めたいのだろう。
でも、真意を誤魔化したとしても多分簡単に見抜かれてしまうだろうね。だから私は本心を答えようと思う。
「賢者の知識を手に入れたら私は・・・、私利私欲のために使いますよ。
そして私が望むのは、私の周りにいる人達が笑顔でいて、そんな世界でのんびり笑って暮らすこと、ただそれだけです。
栄誉も名声もそんな物は望みません。支配者になるつもりもありません。そんな面倒なこと、こっちから願い下げです。
平和な世界の片隅で、好きなことを思いっきりできれば、それが私の望みであり野望ですね。」
「うんうん、やっぱハバネはそんな感じだよねぇ。」
「そう、ハバネは自己中、でも優しい。」
「はいなのです、王様や魔王なハバネなんてまったく想像できないのですよぉ。」
「「ハバネ(お姉ちゃん)は、やっぱハバネ(お姉ちゃん)だよなぁ。」」
そして、私の答えを聞いたメンテナはしばし沈黙する。
「・・・・・・・。」
長いような短い時が流れ、
「ハバネ様、我らが主が残した最後の遺産にご案内します。どうぞこちらへお越しください。」
そう言うとメンテナは私たちを新たな部屋へと案内するのだった。
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