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#07 不可視の腕(かいな)

 白銀色のドローン『テクト』には、防御系魔法の『シールド』が付与させている。


 これは盾のように私を守るイメージで創造した際に与えられた能力だ。


 現在、私のスキルレベルでは付与できる魔法は1種類のみ、その制限内でドローン創造スキルが導き出した最適解として生まれたのがこのテクト。


 渾身の一撃をいとも簡単に防がれた驚愕からなんとか持ち直した筋肉男は、そこから怒涛の勢いで双剣を繰り出してきた。

 

 でも、その全てが小さなテクトによって容易に防がれていく。


 小鳥のように小さなテクトは、自由自在に飛び回り、繰り出される剣戟のそのことごとくに対して先回りしシールドを展開してその攻撃を防いでみせたのだ。


「ば、馬鹿な?! こんな小娘に俺の剣が通用しないだと! こんなの絶対ありえねぇ!!」


 怒りと焦りで頭に血が上った筋肉男は、荒ぶる感情のまま剣を振るう勢いを増していく。


 徐々に高まっていく双剣の勢いに、さすがのテクトも動きが少しずつ間に合わなくなってきて徐々に押されてきたみたい。


 ついには、振り抜かれた剣の勢いをいなしきれず、テクトが大きく弾かれてしまった。


 その隙を突くようにもう一方の剣が私目掛けてに迫ってくる。


 これで決着か!と誰もが思ったその時、高速でその剣をかすめ、迫ってきた太刀筋を弾き飛ばすものがあった。


 そう、もう1機のドローン『セイバー』だよ。


 相手の剣の動きに合わせ、正確に飛行し、自身を高速でぶつけることでその剣を弾いていく。


 それはまるで小太刀かショートソードを巧みに操り、相手の剣と激しく打ち合っているみたいだった。


 でも、なぜ大きくて重い剣の攻撃を、この小さなセイバーは受けられたのか不思議でしょ?

 

 その秘密はね、私だけが知ってたセイバーの素材と、そこに付加された魔法だったりする。


 この世界にはラノベばりにミスリルやオリハルコンと言った神秘金属が存在してて、それを使った武器は天下無双の力を発揮すると言われているらしい。


 では、セイバーの素材もそうなのかというと、実はそうじゃない。


 だって、この世界に来たばかりの私がそういったレア素材を知ってるはずないじゃん。


 実はね、この世界でも当たり前な素材である鉄だけど、生前世界にはこの世界にない優れたものが存在する。


 鋼と呼ばれる合金がそれである。


 実際にはこの世界の鉄製品も合金であり、ある種の鋼ではあるのだが、様々な優れた性質を持つ合金の知識はまったくなかったってこと。


 早い話、それとは知らず適当に合金を作っているような感じだね。


 鍛治師が鉄で何かを作れば、それはすでに何らかの合金というだけのことで、そこに合金の種類や製法といった知識は存在してなかった。


 それに対してセイバーの素材はいわゆる『ステンレス鋼』であり、この世界においては十分レア性能の金属と言えるものだ。


 硬く、錆びず、よく切れるステンレス包丁は私にとって身近なものだったし、ドローンのパーツとしても見慣れてたわけで、ドローン創造スキルはその知識を利用したようだ。


 ステンレスでできた頑丈なセイバーには、さらに強化魔法まで付与されており、強度と機動力が強化されていたのである。


 そんなわけで、私のセイバーは大男が振るう剣の勢いに負けっこないんだよね。

 

 2機のドローンは私の側を離れることなく、筋肉男の振るう双剣を舞うように捌いていく。


 その様子は周囲の人間に『見えない腕が見えない剣や盾を自在に操っている』ように見えていたようで、


 野次馬を決め込んでいた冒険者の口から


「不可視・・・」

「見えない腕・・・」

「見えない武器・・・」

「インビジブル・・・」などという単語が漏れていた。


「一体どうなってやがる?! なんで、こんなことが・・・」


 どれだけ攻め込んでも一向に怯む様子はなく確実にこちらの攻撃を封じていくドローン。


 そして、その息つく暇もない攻撃も蓄積する疲労によってそのリズムを崩していまう。


 セイバーに弾かれた反動に対処しきれず、大きく剣を弾かれてしまう筋肉男。


 そしてその隙を突くようにセイバーが男の胸元を目にも留まらぬ高速でかすめ飛ぶ。


 ガッチャーーン!!


 音を立てて男の背負っていた双剣の鞘が地面に落下しその音が響き渡る、その瞬間、練習場の時が止まった。


「模擬戦終了! 勝者ハバネ!!」


 二人の戦いを見守っていたと思われるギルド職員によって戦いの終了が告げられた。


 そしてどよめくような歓声が周囲から上がった。


「うぉーー!!」

「なんなんだ、あの戦い方は?!」

「あのガキが勝っちまったぜ!」

「スゲーッ! マジスゲーッ!!」

「見えない武器!」

「不可視のかいな!」

「不可視、インビジブル・・・、インビジブル・アームだ!!」

「あいつは不可視の(かいな)、インビジブル・アームだ!」

「すげーっ、いきなり二つ名かよ?!」

「うおおーー、不可視の腕ぁ!」

「いいぞぉ、インビジブル・アーム!!!」


 巻き起こる歓声の中に湧き上がる「インビジブル・アーム」コール。


 まだハンターにさえなっていない私に、なんだか不相応な二つ名が確定した瞬間だった。


 膝をつくように崩れ落ちた筋肉男は、屈強なギルド職員たちによってどこかけ連れて行かれていくのが見えた。


 そして、呆然とその様子を見ていた男の仲間たちから隙きを突いて逃れたルミーナとリーリィが私に駆け寄ってきた。


「何もできなくてゴメンね。でもハバネ、凄くカッコよかったよ!」


「ハバネが無事で、安心、した。でも、一人にして、ゴメン。」


 三人抱き合うようにして無事を確認しているところへ、カウンターで相手をしてくれた女性職員のナタリアさんが話しかけてきた。


「今回の騒ぎ、事前に防ぐことができなくて、本当にごめんなさい。

 本来はこのような騒ぎが起きないようにするのが私たちの仕事なんだけど、

 ハンター同士のトラブルに直接干渉しないルールがあって、この騒ぎを止めることができなかったの。

 あくまでもハンターから申し立てがないと私たちは動けないのよ。

 今回そういう説明をする前に騒動が起きてしまって、

 あなたたちに迷惑をおかけしましたこと、ギルドを代表して心からお詫びいたします。」


 深々と頭を垂れての謝罪をするナタリアさん。


 そんなことより、私の思わぬ大活躍(?)で異様に盛り上がる居心地の悪いこの場から、一刻も早く逃げ出したい私たち。


 怪我といった損害も特になかったこともあり、すぐさまその謝罪を受け入れて、本来の登録手続きを済ませることにした。


 私たちに気を使ってか、奥の個室へ案内されると、早速ハンター登録の手続きを始める。


 基本的な身体能力や過去に神に裁かれるような行いがあったか等がわかるという魔道具を使った検査は余裕でパス。


 その後も口頭面接を無事クリアし、数滴の血液採取を経て、無事自分のギルドカードを手に入れました。


「これでハバネさんも冒険者の一員です。現在のランクはお仲間二人と同じ最も下の”☆ナシ”です。

 でも、先程の騒動を見る限り実力は間違いないですから、ランクアップもすぐでしょうね。」


 笑顔の担当さんからカードを受け取り、じっくり観察する。


 カードの隅に広めの空白があるが、多分ここに☆のマークが書き込まれるみたいだ。


 ちなみにハンターのランクは、一番下の☆ナシから最上位が☆5つとなるという。


 聞いた説明では、☆一つで新人、☆2つで見習い、☆3つで一人前、☆4つはベテランや上級者として扱われるらしい。


 さっきの筋肉男も、☆3つとそれなりの実力者だったため、ギルドも手を焼いていたとのこと。


 これに凝りて大人しくなってくれれば、などというのはナタリアさんの言葉。


 そして最上級の☆5つは達人、人外、怪物・・・、一国の軍隊と渡り合えるとも言われ、その強さは伝説級とのこと。


 これから平穏に暮らすためにも、そういう存在とはお近づきにはなりたくないなぁ。


「あっ、そういえばハバネさんには、まだ自己紹介してませんでしたね。

 私の名前はナタリアです。そこそこ頼りになるお姉さんですから、いろいろ頼ってくださいね。

 そうそう、三人でパーティを組むそうですね。パーティ名が決まったらまたお越しください。


 では、このあとはお預かりして査定に回していた買い取りの精算をしますのでもう少しだけお待ちください。

 それでは、これから長いお付き合いになると思いますがよろしくおねがいしますね。」


 そう言って奥にある扉に消えるナタリアさん。


「これで、ハバネも、ハンター。装備や、必需品、買いにいこ。」


「おーけー! できたら途中の屋台でなにか食べよう。ちょっとお腹すいたし、ハバネもそれでいいよね?」


「いろいろ知らないことだらけの私だけど助けてくれて本当にありがとうね、

 二人共。これから私も頑張って二人の役に立つからね。」


「すでに二つ名までついちゃったハバネだし、助けてもらうのこっちだったりしてw」


「あーーっ、それすっごく恥ずかしから止めてっ!!」


「「あははーー」」


そんなこんなで、ナタリアさんが持ってきた買取額が思いのほか高かかったことに驚きながら、三人はギルドを後にした。

読んでいただきありがとうございます。


これからも応援してもらえるとありがたいです。

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[気になる点] 06ではハンター登録と買取の申し込みをしただけで、採用試験すら未だ受けてないから、ハンターになってないはず そうするとただの一般人に難癖付けて、ルールも決めず一方的に頭へ攻撃した外道…
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