#69 即席麺は偉大なり
太陽が真上に差し掛かろうという頃、私たちはホバーを停めて昼食の為の休息を取ることにした。
「ねえ、ハバネ。そろそろアレ食べてみようよ。」
ルミーナが昼食のメニューをリクエストしてきた。
「アレって言うと、ルミーナとフィーリアたちが仕上げて保存食のことだよね。」
「そうそう。こういう時に食べる物なんでしょ、アレってさ。
フィーリアもまた食べたいよねぇ?」
「おう、食べよう食べよう! アタイもそろそろ食べたいなあと思ってたんだよぉ。」
「んーん、獲れたてジビエ(野獣)料理もそろそろ飽きてきたかもね。
それじゃ食べてみようか、“即席ヌードル“!
ああ、フィーリアはラズリを分けて食べてね。」
そう、出発前にルミーナとフィーリアに開発を任せていた物が『即席ヌードル』、いわゆるカップ麺というやつだ。
これを開発するキッカケとなったのは、流れ人の博物館で見つけたある魔道具だった。
それはイメージした物質をごく近くに転移させられる、ただそれだけの魔道具だった。
それこそ、手のひらに乗った一摘みの砂や粉末を数十センチ転移移動させられるというシロモノだった。
だが、これを見つけた私は、すぐにその有用性に気が付いたんだよね。
これを使えば任意の物質を分離抽出できるはず、なら密閉容器の中から空気と水を抜き出せば・・・
それはフリーズドライができるかもしれないということ。
そうとなれば作るしかないでしょう、何故か無性に食べたくなるあのジャンクフード『カップ麺』を。
というわけで、私が麺とスープの原型を作ったんだけど、麺は油で揚げ、スープと具材に関しては例の魔道具で新開発した真空乾燥魔道具を使いフリーズドライにすることで、異世界製のカップ麺を作り上げたのだ。
出来あがったカップ麺を試食したミリアやその父親、商会幹部たちは満場一致でその有用性を認めることになったのはちょっと予定外だったけど。
当然ミリアのところの商会全面協力で、完成後は商会をあげて量産することになったのは言うまでもない。
手早く設置したテーブルの上で魔道具でお湯を沸かし、包装されていた麺とかやく、スープを器に入れて熱湯を注ぐ。
蓋をして専用タイマー魔道具を起動し、その出来上がりを待つことしばし。
タイマーが完成を告げるベルを鳴らす。
「「「「「いただきまーす。」」」」」
「やっぱり、おいしーい!」
「お湯を入れるだけ、それでこの味、画期的!」
「本当に凄い発明なのです。
うちの商会でも試供品の反響が凄いみたいで、もう大ヒット間違いないのです!」
私自身も試食として何回か食べてたけど、やっぱりいい出来だと思う。
もうかなりオリジナルに近いチープ感で私的には十分満足な出来なんだけど、まさかこっちでも大ウケするとはねぇ。
まあ、今後の流通うんぬんは、ストレイン商会に丸投げしたんであとのことはもう知らない。
そんなこんなで野外で食べるカップ麺が特別美味しいことを再確認したところで、旅を再開することに。
そろそろ日も傾きはじめた頃、今夜の宿が取れそうな村を見つけることができた。
「今日は、普通に宿屋でのお泊りになりそうだね。
ハバネのテントや簡易ベッドは快適過ぎるけど、たまにはこういうとこで落ち着いて休むのもいいかも。」
「快適な野営も良いのですが、情報収集も大切なのです。
なので、こういう場所に寄るのも必要なことなのです。」
「みんなも村に行くのに異存はないみたいだし、たまにはその土地の料理も楽しまないとね。」
ということで、人目がつかない距離でホバーを降り、歩いて村に入る。
街道沿いにある商隊などの旅人を相手にする宿場町のようなところのようだ。
ひとまず、食堂を兼ねた宿屋に部屋を取り、久しぶりの外食を楽しむ。
食堂を見渡すと、自分と同じような町や村を行き交う商人やその護衛と思われる客がほとんどのようだ。
とりあえず、食事を楽しみながら各地を回る商人たちの噂話に耳を傾けてみる。
・・・最近面白い魔道具が出回りはじめたらしい
・・・変わった食材を見かけた
・・・見たことのない料理が美味かった。
・・・噂の震源地はストレイン商会らしい。
流石は手広く商う大手商会であるミリアの実家だ、私の教えたアレコレがもう噂になるほどとはね。
そんな食堂内の喧騒の中に気になる会話が聞こえてきた。
・・・最近また浮島を見たって噂が増えて来たなぁ。
・・・まあ、恒例イベントみたいなもんだな。
・・・どうせ見つけても誰も辿り着けねえよ。
・・・そういやこの村に浮島に挑戦したってジジィがいるらしい。
・・・そんなのフカシにきまってるだろ、ガハハ。
浮島への挑戦者の話、これは簡単に聞き流せない情報だよ。
さっそく浮島を知るという老人のことをみんなで話し合っていると、私たちのテープルで配膳をしていた女将さんにその話が聞こえたのか、老人のことについて話しかけてきた。
「あなたたち、フォルダン爺さんに用があるのかい?
あの爺さんなら、ここで酒飲んでるとたまに浮島の話をしてたの聞いたことあるからねぇ。」
「フォルダンさんていうんですか?
あのぉ、どこに住んでるのか教えてもらえますか?」
「ああ、あの爺さんなら確か・・・・」
どうやら、当人を知っているとのことでその老人のことをいろいろ教えてもらうことができた。
私たちは、明日その老人を訪ねてみることにした。
なにか有益な話が聞けると嬉しいかな。
明けて翌日、久しぶりにしっかりした屋根のある場所での快適な睡眠を取ることができた私たちは、朝食を済ませると村の端にある古いがよく手入れされている民家を訪ねた。
玄関のドアをノックすると中から人の良さそうな老人が顔を出した。
「宿屋の女将さんに、浮島を目指してパーティにいたとお聞きしました。
ぜひ私たちに浮島の話を聞かせていただけないでしょうか?」
私たちをの顔を一人ずつゆっくりと見渡すと、好好爺のような優しい笑みを浮べる老人。
「わざわざそんな昔話を聞きにこんなジジィを訪ねてきてくれたのかのぉ。
ほほほっ、いいじゃろう、うちに入りなさい。」
フォルダンお爺さんはこうして快くわたしたちを家内に招き入れてくれた。
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