#65 悪いヤツはどこにでも湧いてくる
これからの楽しいプランを立てつつも、とりあえず目の前のお仕事を熟さなければならない。
と言って主に働くのは私だけなんだよねぇ。
私の行動や知識に高い関心を持っているリーリィだけは私を手伝ってくれるようだが、他のみんなはそれぞれ思い思いにこの街を楽しんでいようだけどね。
というわけで、先日の博物館巡りで目を付けた流れ人の遺物に関して私の知っている知識をレポートにまとめるのが今の私のお仕事というわけ。
手がつけられず放置状態だっただけあって、うろ覚えな私の知識でも十分過ぎるほど役立つものらしい。
今後の様々なバックアップを約束してもらった以上、こちらもそれなりの誠意を見せなきゃね。
そんなこんなで、リーリィのフォローを受けながらのお仕事を頑張ってる私なのだ。
でもまあ、一日中仕事部屋に軟禁して働かせるほどブラックな商会ではなかったようで、午後のおやつの時間で一日の労働からは開放してもらえる。
そうしてできた時間で、私もこの「ロジスティス」の街を自分なりに満喫しているのである。
ちなみに、ミリアを含めてストレイン商会の人間は私以上に忙しくは働いているらしい。
まずは「そろばん」。
この世界では、行商人たちがよく使う「数珠ヒモ」と言われる、5つごとに目印になる色違いの玉がある長い紐状の数珠が一般的な計算道具なのだという。
商品を数えながら、指でこの数珠玉を一つずつ弾いていくことで、足し算引き算を正確に行うのだそうだ。
ようは指折り計算では10までで指が足らないから、その代わりに数珠を使って計算しているわけで、暗算よりマシ程度でとても効率が良いとは言えない計算手段である。
それがこの世界の常識だったのだから、そろばんを理解したミリアたちは、まさに画期的な計算機と目に写ったようである。
商会をあげてものすっごく前のめりになってそろばんの習得と量産を進めており、ミリアに至っては私自ら手解きしてすでに多数桁の四則計算をマスターしてしまっている。
そして、「オルゴール」。
こちらは、商会お抱えの工房の職人たちが、私が再現したオルゴールにものすごい勢いで喰い付いてきたのだ。
もともとカラクリ好きの集まっている工房だったようで、オルゴールの開発以外の仕事をすべて拒否してしまうほどハマってしまったらしい。
画期的な商品になるということは商会も認めているようなので、しぶしぶながらゴーサインを出したのだということだ。
そういう私も、毎夕食時には豆腐や、納豆、餡子に寒天と手に入った材料で前世の味覚の再現に勤しんでいた。
ただ、どこで嗅ぎつけたのかストレイン商会所属の料理人たちがレシピを教えてほしいと大挙して押しかけてきた。
だけど、私は自分が食べたいから料理の再現を頑張っているんであって、それ以外に時間を取られるのは迷惑以外の何物でもないんだよねぇ。
だから先にまとめておいた基礎知識と簡単なレシピのメモを叩きつけて、「あとは自分たちで精進しろぉ! だからもう来んな!!」と拠点から叩き出してやった。
そんなこんなで、忙しいやら、騒がしいやら、と賑やかなウエスタリア滞在を楽しんでいた私たちだったんだけど・・・
その日、いつものように街に繰り出し屋台巡りを楽しんでいたラズリとアオが何者かに襲われた。
ただ、ぷちとはいえテクトとセイバーがついているから襲ってきた賊は速攻で撃退したみたいなんだけど、さらに賊の仲間が現れて今は街中を追い回されているらしい。
どうも珍しい存在である魔族のラズリと、摩訶不思議な魔道具を操る珍種のスライムと思われたアオが狙われたらしい。
「ハバネお姉ちゃん、変なおじさんが私たちを攫いに来たんだよ。
だから、テクちゃんとセイちゃんでぶっ飛ばしちゃった。
そしたら、怖いおじさんがたくさん出てきたから、今アオちゃんと逃げてるぅ。」
「ラズリ、大丈夫なの? 怪我とかしてないよね?!」
「うん、大丈夫だよ。
なんか鬼ごっこしてるみたいで、楽しい!」
ひとまずは襲撃を躱して今は逃走中みたいなんだけど、念話で伝わる会話は何やら楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
まあ、並の魔物でも難なくあしらえるようになってきたラズリたちにとっては、ただ鬼ごっこでしかないのかもしれない。
「ルミーナ、リーリィ、フィーリア、ラズリたちは大丈夫みたいだから、
街の人に迷惑がかからない場所に誘導して、そこで賊を押さえようか。」
「「「りょーかーい!」」」
大して危機感も持たずに、私たちはラズリたちのあとを追う。
サテラとピープがいれば探査で居場所はすぐに分かるしね。
場所さえわかれば、ルミーナのシフティを現場に直行させてやればいつでもルミーナが対処できるけど、まあその必要はなさそうだ。
とりあえず、適時ラズリに逃亡ルートを指示しながら、対処しやすい場所へ襲撃者を誘導していく。
それほど時間もかからず、私たちは人気の少ない倉庫街の広場で合流を図った。
「あっ、ハバネお姉ちゃん、見つけたぁ!」
先行して広場で待っていた私とルミーナ、リーリィ、そしてフィーリアを見つけて、嬉しそうに駆け込んでくるラズリを抱きしめる。
そして後を追ってきたであろう怪しい男達がワラワラと出てきて、あっという間に囲まれる。
弱い獲物をかる獣のようなゲスい顔つきの賊の集団の中からリーダーらしき男が前に出てくる。
「お嬢ちゃん、随分手間を掛けさせてくれたねぇ。
おっと、保護者のお姉ちゃんたちの登場かよ。
そっちもなかなかの上玉じゃねえか! こりゃツイてるねぇ。」
いやらしそうな笑みを浮かべた痩せた男が、値踏みをするような視線で私たちを見ている。
「さて、お嬢さん方。
お嬢さん方も大変魅力的だが、今回はそこのおチビちゃんと妙なスライムが目的なんでね。
そいつらと、お嬢さん方が持ってるその妙な魔道具をこっちに渡してもらおうか。
そうすれば、今日のところはお嬢さん方は見逃してやるからさぁ。」
珍しい魔族の少女と珍しいスライム、そして見慣れない不思議な魔道具も寄越せと馬鹿なことを口走る。
小娘と侮って、嫌らしい嘲笑いを浮かべる賊達。
「ラズリたちは大事な家族なんだよ。
なんで、おじさんたちに渡さなきゃなんないのさ?」
「どうせ、人身売買が、目的の犯罪者。
チンピラヤクザに、家族は、渡せない。」
「こういう人間は悪いヤツなんだろ?
悪いヤツはぶっとばしても良いんだよな、なっ?」
「ホントにこういう輩は、潰しても潰しても湧いて出てくるのです。
いい加減うっとおしいのです。害虫は駆除するに限るのです!」
「て、てめえら! 優しくしてれば付け上がりやがってぇ!!」
ルミーナやリーリィ、フィーリアにミリアの辛辣な煽り文句で、激高する賊達。
「ええーい、こうなりゃ全員捕まえて高値で売っぱらってやるぅ!
おめえら、とっとと捕まえやがれぇ!!」
ぶち切れたリーダーの号令で動き出す襲撃者。
ハンター崩れと思われる襲撃者達、そのうち魔法を得意とする者たちが魔法を放とうと詠唱を始める。
リーリィがピープで魔法の発動を感知し、ピンポイントでそれらへ無詠唱魔法の攻撃を加える。
魔法を放つことも出来ず、討ち取られていく魔法使い達。
援護をするはずの魔法使いが無力化され、策を失った剣士や武闘家が意地になって襲いかかってくる。
だが、弓などの遠距離攻撃はミリアのペネトレーのレーザー攻撃で構えるそばから攻撃を潰されてていく。
残った武闘派ハンター崩れは、ルミーナとシフティによる高機動攻撃に次々と駆逐されていく。
あっという間に仲間を失い窮地に陥った敵リーダーが見慣れぬ魔道具を取り出し慌てて発動させる。
「ハバネ、気をつけてなのです!
なんかヤバそうな魔道具を使ったみたいなのです。」
広場の中央に突如現れた輝く魔法陣から炎をまとった巨人が出現する。
「召喚の魔道具なのです!
それも狂った炎精霊とは!
あの魔道具は最初から制御するつもりなんてないものなのです。
暴走する精霊、これはかなりヤバ気なのです!!」
襲撃者のリーダーはヤケになって、なりふり構わず制御できない狂った精霊を解き放ったみたい。
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