#49 日本人ですから
「・・・ううん、ま、まってぇ、私のドローン・・・、
えへへ、すごいのです・・・・・、ドローンがいっぱいなのです。
・・・ん、むにゃむにゃ・・・・・、んんう、あ、あれっ?!」
ギルドの一室を借り、そこにあった長椅子に横たえられていたミリアメーサが目を覚ましたみたい。
それまで私たちは空いている椅子にそれぞれ腰掛けて、問題の人物が目を覚ますのを待っていた。
まだ寝ぼけているのか、締まらない表情で周囲を見回していたようだったが、私の顔に気がつくと急速に意識を覚醒させて私を凝視する。
背筋に悪寒を感じてビクッと体を震わせる私に、先程と打って変わって冷静さを取り戻した彼女が話しかけてきた。
「先程は興奮してしまい、大変申し訳なかったのです。
私は、ストレイン商会代表の娘でミリアメーサなのです。
どうぞ、ミリアとお呼びくださいなのです。」
先程の醜態は何だったのかと思うほどの豹変を見せるミリアは、姿勢を正して丁寧に挨拶してきた。
「あなたが、最近噂の新人パーティ妖精の翅のハバネさんなのですね。
とてもお会いしたかったのです。早速ですが、私にドローンを譲ってほしいのです。
お金ならいくらでも出すのです。欲しいものがあればなんでも用意するのです。」
「絶対にイヤ!」と私は即答。
「そ、そんなぁ・・・」
この世の終わりのような顔になり崩れ落ちるミリア。
ドローンをお金儲けのために売ったりや誰かに命令されて使うなんてするつもりなんて全然無いし、そんな事言うヤツに渡すつもりもサラサラ無い。
自分のためか、大切な仲間や大事な人のためにしか使わないし渡さない!
これまでにも、「ドローン寄こせ!」とか「仲間に入って言うこと聞け!」とかバカなこと言ってくるヤツはたくさんいたけど、そういう連中はキッチリしっかりドローンで蹴散らしてきたんだよねぇ。
だから、今クロスロードでそんな事言うのは他所から来た連中だけだったりする。
私を口説き損なった衝撃から立ち直ったのか、それでも諦め切れないミリアが何か考え込み始めた。
「ねえ、なんかいつも寄ってくる連中となんか雰囲気が違うね。」
いつもおバカの撃退に付き合ってくれるルミーナがミリアを見てそんなこと言ってきた。
「ん、なんか、ちょっと、親近感?
たぶん、欲望に、忠実なだけ、だと思う。」
リーリィはミリアに対して微妙な感想を漏らす。
まあ、何を言ってきてもドローンを渡すつもりはこれっぽっちもないんだけど。
そんな事考えていたら、真顔のミリアが口を開いた。
「大金を積んでも脅しをかけても絶対にドローンを渡さないハバネさんも、親しい人には喜んでドローンを与えるのですね。
なら、私にできることは一つだけなのです。」
一体何を決意したのか、すごい迫力だぁ。
「妖精の翅の皆さん、私のパーティ加入を認めて欲しいのです。
そして、ハバネさんに私のことをシッカリ見極めて欲しいのです。」
「はいっ? えっ、どういうこと?!」
何がどうなったのか、突然のパーティ加入申請?! 驚きのあまりみんなで顔を見合わせてしまった。
「私がちゃんとしたハバネさんの仲間になれるか、試して欲しいのです。
それでもダメなら諦めて、もう付き纏ったりしないのです。
だから、お願いしますなのです。」
真剣な目で私を見つめるミリア、ただの勘でしか無いんだけど・・・、多分この娘は悪い子じゃないと思う。
でも、やっぱりよく知らない娘をいきなりパーティに入れられないよね、常識的に考えてもさ。
なかなか私に首を縦に振ってもらえず痺れを切らしたのか、いきなり抱きついてきたミリア。
あまりに突発的なタイミングだったからか、ルミーナやフィーリアも反応が間に合わなかった。
耳元に顔を近づけて、思いも寄らない単語をつぶやいた。
「ハバネさん、あなた、ずばり流れ人なのですね。」
「・・・・・!?!」
驚きのあまり声にならない声を上げる私。そんな私を無視して話を続けるミリア。
「ハバネさんが望むなら、お米、醤油、味噌などいろいろ用意できるのです!」
「なあっ!?!」
お米と聞いて、頭が真っ白になる私。
心が、身体が、今でも求めてやまないが、もう二度と手に入れることはないだろうと諦めていたモノ。
その名前をここで聞くことになるとは・・・・
「これらは流れ人が、特に黒髪の流れ人が求めてやまないものだと言われているものですが、私はそれらを入手する術を持っているのです。」
・・・・この世界には、慣れ親しんだ和食なんてものはない。
あるのは、素朴な田舎の海外料理といったものだけだった。
基本、「焼く」「煮る」「炒める」という調理方法で食材に火を通し、塩といくつかのスパイス、ハーブで味を付けた物がほとんど。
煮込んでブイヨンっぽい出汁を活かすような料理もなくはないが、たまたまそうなると言った認識で確立した料理法とは言えない。
転生時に女神が、この世界の文化の発展は鈍いと言っていたのも頷ける。
この世界の食に関して諦めつつも不満をため込んでいた日本人にとって、和食食材の存在はそれだけ衝撃的だった。
私から離れて、適切な距離で向き合い直したミリアが真面目な顔で語りかけてくる。
「別にこの条件を盾にドローンを寄こせなんて言わないのです。
あくまでも私を仲間に入れてもらって私をちゃんと見てもらうための取引材料なのです。
ドローンは、私を仲間と認めてもらったとき考えてくれれば良いのです。」
そこまで言い切って、優しく微笑むミリア。
この時点で私にはすでに選択肢はなかった。それにこの取引に関してはミリアの誠意を感じた。
私たち二人の様子をそばで見ていたルミーナたちにも、特に嫌がる雰囲気は感じられないし。
ということで、和食材などの定期的な提供を交換条件に、私はミリアの臨時パーティ入りを認めたのだった。
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