#03 お約束の初バトル
「きゅううううーーーーっ」
調子に乗っていくつものドローンを創造したところで、私は魔力切れを起こして気を失ってました。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「う、ううーーん・・・」
しばらくして意識を取り戻した私の目に飛び込んできたのは・・・
なにかの獣たちの死体でできた小山だった。
「えっ、な、なにーっ! これーっ!?!」
何が起きたか全くわからず慌てふてまく私は、周囲にいくつものドローンがフヨフヨと漂っているのに気がついた。
「そういえば、私ドローン作ってて、急に気が遠くなって・・・・、じゃこの子達は私が作ってた子か?!」
偵察用とくれば、次は自衛用だよねとばかりに、防御タイプや攻撃タイプ、それに魔法が使える子をあれこれ作りまくってたっけ。
「ということは、気を失ってる私を襲ってきた奴をこの子たちが返り討ちにしてたんだ。」
思わぬ形でドローンの優秀さと健気さを知り、無性に嬉しくなってきた。
「みんなぁ、守ってくれてありがと。これからもよろしくね。」
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目が覚めたと言っても、魔力はまだ回復しきっていないみたい。
なので、ドローン作りは一旦終わりにして、次の行動に移ることにする。
ドローンたちもドローン収納で回収しておく。
獣の死体? そんなのどうしていいかわかんないし、放置だよ、放置!
「いつまでもここにいるわけにも行かないし、そろそろ人がいるところを探さなきゃ。できれば野宿は避けたいし。」
とりあえず、サテラを呼び出して周囲を見張らせながら移動しよう。
今のサテラでは半径数十メートル程度の範囲しか探査できないので、進行方向を決める手がかりにはできない。
サテラの情報に含まれていた方位情報と、高度から観察できた周囲のパノラマ映像から得られたものを参考にすることにした。
まず北と西には絶壁と大河が見えたのでそっちへの移動は無し。
可能性があるのは南と東なんだけど、若干南のほうが森の終わりが近いし、その先には草原みたいなのが見えたから、そっちを目指すことにしよう。
周囲に注意をはらいつつ慎重に進んでいくと、サテラが敵意のない青い2つの光点と敵意のある赤い光点が一つ、近くで固まっているのを捉えた。
「もしかして人間が魔物と戦っているのかな?」
『第一村人ならぬ異世界人、発見!!』などと呑気に構えている状況ではなさそう。
今はこの世界の情報が欲しいし、とにかく危険を侵さないようにして静かに接近、状況の確認をしましょうか。
サテラをその場所に向かわせつつ、私も注意深くその場所へ向かう。
サテラをあまり近づけ過ぎないように注意しつつ、状況を探ってみる。
そして分かったのは、自分とあまり変わらない年格好の2人の人間が大きな熊のような獣と戦っているようだということ。
「戦っているというより、完全に追い詰められてるよね。
ラノベで定番の『完全に格上のモンスターに、運悪く鉢合わせした新米冒険者』ってシチュエーションみたい。」
友人にいつも『ハバネはホントお人好し過ぎる!』と呆れられていた私に、見捨てるという選択肢はないよね。
気を失ってたところを守ってくれたあの子たちを信じて私は行動を起こす。
「はぁ、はぁ、やっぱ、倒すのも、逃げるのも、無理、そう。もう、諦める?」
「ふぅふぅ・・・、はぁあ、なに言ってんの?! 初めての冒険を最期の冒険にする気なの?!」
大岩を背に大型の獣に追い詰められいる二人はどうやら少女のようだ。
「二人がかりで、戦っても、勝てる可能性は、ない。かといって、逃げ切れる、身体能力も、ない。」
「もうっ、なんで冒険者になって初めての依頼でこんな高ランクの魔物にかち合うのぉ!
もともと、この辺にこんなヤツ、居ないはずだよねっ?!」
「ナガレか、ハグレか、知らないけど、目の前に、あるのは、現実。」
ありえない状況に納得いかないと声を荒らげる相方に対して、冷静に現実を突きつけるもう一人。
なんとかして生き残るすべはないかと必死に考えを巡らせす二人だったが、無情な獣は目の前の獲物を狩るべくその歩みを進めてくる。
「虎の子、巻物を使ってみる?」
「むちゃくちゃ高かったのよっ! ゲン担ぎのお守りに買ったんだけどぉ。
でも、こんな上位相手じゃ、あんま効果は期待できないかもしれないけどね!」
「でも、私達に、今できる、最高火力!」
「じゃあ、倒せなくても、追っ払えれば上出来ってことで、火炎柱っ!!」
腰のポーチから巻かれた紙筒を取り出し、それを広げるように魔物に向け呪文のような言葉を叫ぶ。
次の瞬間、魔物の足元から炎の柱が巻き上がり、そのまま炎に包まれていく。
「わぉ~?! これがこの世界の魔法かぁ。」
私はやっとだどり着いた木陰から、初めて目にする魔法を見て少し感動してしまった。
その一見派手な炎の魔法も、その火力は魔物の毛皮の表面を焦がすのが精一杯だったようで、うっとうしげに獣が激しく身を捩ると炎は勢いを失いそのまま消えていった。
「やっぱり☆1の初級スクロールじゃ無理だったぁ?!」
攻撃を受けたことでさらに敵意を高めた獣は、怒りをぶつけるように咆哮を上げると二人に向かい襲いかかる。
「グゥワァーーーーォーーーッ!!」
その恐怖から一寸も動くことができず、ただ抱き合うようにその身をすくめる少女が二人。
フィーーーーーン!!
まるで弦楽器のような軽快な音をさせ、その小さな緑銀色の物体は獣と二人の間に飛び込み、その場に滞空するとその身に緑色の光をまとう。
次に瞬間、地面からつむじ風のような空気の流れが生まれ、それはさらに勢いを増し魔物を包み込んでいく。
それに伴い獣の大きな身体の表面に小さな裂傷が次々生まれ出血し、その血がまた風に巻かれ、さらに傷が増え出血が舞い上がる。
突然の大量出血によるものか、意識の混濁を起こし棒立ちとなる大きな獣。
羽音とも現れた新たな黒鉄色の物体は目にも止まらぬ高速で駆け抜け、狙いを定めるように魔物の首筋を一閃する。
刹那の静寂の中、音もなく魔物の首が滑るように地面に落下すると、噴水のように血が吹き出しその巨体が地に崩れ落ちた。
「「え、えっ、えーーーーっ!!!!」」
その光景を目の当たりにした二人は、何が起きたかわからないまま声にならない驚きの叫び声を上げた。
ガサガサ、ごそごそ、ズサズサズサ・・・
生い茂る雑木をかき分けるようにして私が姿を表したのはそんなタイミングだった。
全身、葉っぱや小枝にまみれてたけど、そんなことに構ってられず、驚いている二人に上づり気味に声をかけた。
「えーとぉ、やっつけちゃったあとでなんですが、まさか心優しい森のクマさんが悪徳密猟者に襲われてた現場じゃないですよね?」
ある意味、緊張感をぶち壊すような気の抜けた声音で、ピントのずれた問いかけをした私に、
「「そんなわけ、あるかっ(ないでしょ)!!!」」
と、非難の声を上げる二人だった。
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申し訳無さそうに右手で頭の後ろをかきながら、二人に歩み寄った私は満身創痍でボロボロの二人の様子を見て驚き、大慌てて行動を起こす。
「っ?! ヒィリー、すぐ来て!」
目の前に先程の甲虫のような白い何かが、突然現れたのを見て驚く二人。
ヒィリーを二人の頭上で滞空させてその機体が白い光を発すると、二人の傷が一つ一つと傷が塞がり消えていった。
しばし沈黙の時間が流れる中、一通りの治療を終えたヒィリーが私の側まで戻ってきた。
「・・・これ、って、治癒、魔法?!」
魔法使いのような杖とローブを着た一人が驚いたような声を上げる。
「私達、マッドベア相手じゃ絶対助からないと思ってた。助けてくれて本当にありがとう。」
もう一人の少女が照れくさそうにしながらお礼を言ってきてくれたが、私はそれが耳に届かないほどの勢いでその少女の頭部を凝視していた。
そうなのだ、その頭部にはピンと立った犬のような耳があったのだ。
「犬耳?! わぁーケモミミだぁ!!」
オタクというほど病んでは居なかったけど、年相応に友人から回ってくる漫画やラノベには触れてきたし、カワイイ物は嫌いではなかった。
だ・か・ら、ごく自然な動作で動くケモミミやシッポのインパクトは私にかなりの衝撃を喰らってしまったよ。
「あれっ? あんた、もしかして獣人見たことないの?
私は森狼族のルミーナ。こっちは人族のリーリィで、私達はこの近くにあるクロスロードって街のなりたてホヤホヤのハンターだよ。
あなたは、このへんじゃ見たことない顔だけどどこから来たの?」
ルーミアの言うクロスロードはそれなりに大きさの街らしいけど、そこに住む者には住人かそうでないかを見分けられる程度には町の住人の顔は頭に入っているみたい。
助けた二人の片割れ、ルミーナにはすぐに私が他所から来た人間である分かったようだ。
「わ、私の名前はハバネ。孤児だった私は人里離れた奥地で人嫌いの変わり者に引き取られて住んでた。
その人が死んじゃって仕方なく人里を探して外に出てきたんけど、外のこと何も知らなくてさ。
あちこち迷った挙げ句に、今ココにたどり着いた感じ・・・かな。」
自分の置かれている状況が全くわからない現状だし、自分の正体は隠すべきだと思う。
だから、森を歩きながら考えたバックストーリーでこの場を乗り切ることにした。
私の返事を聞いて何か考え込むような表情のリーリィの横で、まだまだ聞きたいことがあるというようにルミーナが話しかけてくる。
「へぇー、じゃあじゃあ、あのチッコイ甲虫みたいなのは何? ハバネの従魔??
すごいよね、中堅ハンターでも苦戦するマッドベアをあっさりやっつけちゃうし。」
「ああ、この子たちのこと・・・・・ね。」
未だに出しぱなしで傍らをフヨフヨと漂っているドローンたちに視線を向けて、しばし考える。
「魔獣、でも、精霊、でも、ない。見たことも、聞いたことも、ない、モノ、これ何?」
いままでじっとこちらを観察するように見ていた魔法使いらしいリーリィが口を開いた。
「この子たちは私が造った獣魔みたいなモノだよ。危険はないし可愛いでしょ。」
と、白い機体のヒーリィを手のひらに乗せて愛おしそうに眺めながらそう答えると
「この子、たちを・・・・、造、ったぁ? この世界に、こんな、技術、ない。あなた、何者?」
魔法使いらしいこの子って、魔法やなんかにかなり詳しそう・・・、困った、ごまかしきれるかなぁ。
なんかドローンのような存在ってかなり珍しい存在っぽい? もしかして私、かなりやらかしちゃったのかも知れない。
「えっ!? そうなの? 魔法のある世界だって・・・、この世界で有効なスキルだって言ったし・・・・」
慌てた私が口走った言葉を聞いて、更に顔をしかめて疑念を深めるリーリィ。
その傍らでただならぬ雰囲気にオロオロするルミーナ。
ふと何か思いついたらしいリーリィが、とんでもないことを口走る。
「もし、かして、あなた、”流れ人”、なの?」