#02 ドローン、飛ばしてみた。
暗闇から浮上するように、徐々に意識が覚醒していく。
何か近くで水の流れるような音が聞こえてくる。
視界が徐々にはっきりしてくる。
目の前に広がるのは、小川というか、渓流といった雰囲気の場所だった。
幼い頃、祖父がアユ釣りに連れて行ってくれた場所とよく似ていた。
どうやら私は、ちょうど河原と森の境界のような場所に横たわってるみたい。
「うーーん、ここが異世界なの・・・かな?」
元の世界とあまり変わり映えのない風景だし、やっぱ夢でも見ていたんだろうかという気持ちになりかけた。
でも、自分が着ているものが見慣れぬ衣服がだとわかると、すぐに服や頭、顔をペタペタと触りまくって確信する。
「間違いなく転生してる。そして私、なんか若返ってるかも・・・。
こんな服も私持ってなかったし。」
近くに水たまりを見つけ、急いでそこへ近づくとそーっと覗き込んでみる。
そこにいたのは、黒目に、見慣れた黒髪のショートカット、それもちょっとモミアゲが長めで、少々まとまりが欠けてボサっとした感じのいつもの髪型の少女だった。
「わぁー、なんか数年分若返ってる気がする!
それにちょっとプチ整形、入ってるかも?!」
そこには見慣れたいつもの冴えない顔ではなく、中学生に戻ったかのようなちょっと幼い自分がいた。
それだけじゃなくて、友達が見せてくれたキッズファッション誌の読者モデルばりの”綺麗なハバネ”になっちゃってるよ!?!
「女神さまぁ、これはちょっとサービス過剰じゃないですか・・・。」
そこはかとない居心地の悪さを感じたけど、正直嬉しくて水面を覗いて自分の顔を何度も見ちゃった。
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とりあえず見た目に関してはこういうものと納得して、まずは能力(ステータス?)を確認しましょうかね。
女神さまにもそう言われたし。
実際問題として現在、自身のこと、状況etc・・・、情報が圧倒的に足りていない!
そういえばゲームのステータスがどうのって言ってた気が・・・、
とそんな事をぼんやり考えていると、なんとなく数字というかそんな感じのイメージが浮かんできた。
明確な画像という感じではなく、なんというか昔に受験勉強で覚えた数学の公式を思い浮かべたような意味はわかるけど明確にビジュアルではないというか言葉にしにくいイメージだ。
そこには、体力や魔力、素早さや器用さなどなどゲームでよく見る数値の数々だが、ゲームの初期ステータスと比べるとちょっと高めな感じがする。
一般人レベルを遥かに突き抜けたと言う感じではなさそうだ。
ちなみに一般人レベルとの差が理解できたのはそういうことだと何故か理解できていたからで、『常識的な判断基準がわかる』みたいな女神さま効果の一つだろうと思うことにした。
まあ、考えても分からんことは分からんしね。
「よしっ、基本スペックは分かった。次は技能系かな。」
再び、自分にどんな技能やスキルがあるかを確認するように念じてみる。
すると何となく自分にできることが頭に浮かんでくる。
「魔法資質はすべての系統にあって使えるかは修練次第ってことね、普通に修行しろってことかな。
体技資質もほぼ同じ感じかぁ。武術の修行は苦手だなぁ。
でもラノベで鉄板の生活魔法みたいなのはぜひとも習得しないとね。」
『転生したてですぐに魔法無双!』みたいなチートではなかったけど、『全属性に資質アリ』というのがすでにチートなのだとは、その時の私は気が付かなかった。
だって、そこに気がつけるほど異世界常識知らなかったんだもん、しょうがないよね。
「えーっと・・・、あったあった、ドローン創造スキルだ!」
お目当てのスキルを見つけて私は更にそこへ意識を集中する。
すると、本命スキルの詳細が見えてきた。
「錬金術、魔道具創造、付与魔法、精霊術に従魔術なんかをすべて高度に習得してやっと可能になる総合技術体系なのを、使用者の強いイメージのみで実現する新造スキル・・・。
なんか女神さま、かなりの力技でゴリ押ししたみたい。」
ふむふむ、強いイメージというのは、細部に至る部分まである程度明確なイメージを持たなきゃいけないのね。
航空理論や構造ならまあなんとかなるかな。
あとはこんなことをしたいとイメージすれば、魔法系は自動で最適な付与をしてくれるわけか、これは非常にありがたいな。
「ふふっ、これでドローン通リ放題だぁ。・・・ってあれ?!」
説明事項はまだ終わっていないみたいだ。
「創造できるドローンはレベルに応じたものなる。初期レベルでは私が初級クラスと認識している機体となるぅ??
ってことは私が買ってもらった最初のドローンってことになるのかな。」
結局の所、待望のドローン創造も含めて全ては当人の努力次第ということで、女神さまもそこまで過保護ではなかったらしい。
「まあ、細かいことはおいおい確認していこうかな。
それよりも何よりもまずはドローンを作ってみましょうか。」
今の私を人が見たら、クリスマスプレゼントの包装紙を嬉しそうに開けている子供みたいだったかも。
それほど満面の笑顔で嬉々としてスキルを行使するべく自分の中の魔力をコントロールし始めた。
前に差し出した両の手のひらを上に向け、そこへ練り上げた魔力を集めながら作ろうとするドローンを思い浮かべていく私。
煩悩全開の私はできるだけ高性能なドローンを思い浮かべようとするんだけど、何故かイメージが固まりそうになると途端にぼやけて霧散してしまう。
何度やっても結果は同じだったため、やっと今のスキルレベルが足りていないことに思い至った。
そこで私は自分が玩具と考えているタイプをイメージすることにした。
すると今度はイメージがあっさりと頭の中ではっきりとしたものとなり、手のひらの魔力が変化を始めた。
「これが創造魔法・・・」
目の前で起こる超常の現象にちょっとした感動を覚えつつその変化を眺めていると、それは光を発しながらそのシルエットをはっきりとしたものへ変えていく。
このとき、身体から何か抜けていくような感覚があったけど、それどころじゃないとサクッとスルーした。
そして手のひらの上に、全長数十センチほどの4つのプロペラを持つ小型のドローンが現れていた。
「これが私が初めて作ったドローン。ねえ飛んでみてくれるかな?」
なんとなく私はペットにでもするように声をかけてみると、『了解。』とドローンの思念のようなものを感じた気がした。
次の瞬間、プロペラが回転を始め”ブーン”という微かな羽音をあげて、ドローンは手のひらから飛び立ち、私の周囲をゆっくり回るように飛行を始めた。
「うわーっ、なんかちょっと可愛いかもw
そうだ、周囲を探査できるようにイメージしたはずなんだけど、できるかな?」
今度は声を発せす、思念で話しかけるようにしてみるとそれに答えるようにドローンは上昇していく。
およそ十数メートル、肉眼でギリギリ確認できる高さでドローンは静止すると、頭の中に周囲の様子がぼんやりと伝わって来た。
「はわわ~、急にイメージが頭に流れてきたよぉー?! ふうむー、こんな感じで伝わってくるのかぁ。」
唐突に流れ込んできたドローンからの情報に最初は戸惑ったものの、意識を集中すると自然と状況が理解できるようになってきた。
「ふーん、周囲の地形はこんな感じなのか。あっちに広場みたいなのがあって、こっちは斜面になってるんだ。
ふむふむ、そしてこの色がついてるマークみたいなのは動物かな?」
地図のようなイメージの中に赤や青いっぽい光点のようなものを感じたのでそこに意識を集中してみる。
するとそれが何であるの説明が頭に浮かんできた。
どうも色は脅威や害意の有無を示していて早い話が敵味方を表しているらしい。
「小さくて青いのがいくつかいるけどこれは森の野生動物なのかなぁ、赤いのが異世界お約束のモンスターかも。」
とりあえず、身近なところに脅威がないことがわかったので一旦ドローンを呼び戻すことにする。
「能力は分かったから、一旦戻って。」
ドローンに指示するように思念を送ると、なめらかな動きで手元に戻ってきて、すっと差し出した手の上に着陸してプロペラが停止した。
慈しむようにドローンをひと撫ですると、優しく話しかける。
「君は偵察衛星みたいなことができるんだね、じゃあサテライト・・・、
うん、君はサテラ、サテラドローンって呼ぶことにする。これからもよろしくね、サテラ。」
このときの私、可愛い愛犬を相手にしているみたいに優しくドローンに話しかけてたよ。
「でも、このあとどうしよう?
ずっと飛ばせておくのも何だし、収納ケースみたいなのを考えないと駄目かな・・・・、えっ?!」
手の上のドローンを見ながらどうしようか考えていると、突然手の上からドローンが消滅した。
突然の状況に軽くパニクってた私、ふと頭の中に知識の一部が浮かんできた。
「ドローン収納?? 収納空間に格納、出し入れは自由、ドローン創造スキルの機能の一部って。
こんなことまでできるだぁ!!
女神さまぁ〜サービス過剰です! 過保護過ぎですよぉ! でもありがとう御座います♪」
女神さまの過ぎた施しを大いに感謝したのだが、冷静になって何故か引いてしまう私ってやっぱ小市民でした。
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その後は、1号機の成功に気を良くした私は、2号機、3号機と新たなドローンをどんどん創造していく。
魔力切れでぶっ倒れたのは、それからしばらくしてからだった。
できるだけ定期投稿したいと思いますが、初心者ですのでどうなることやら・・・
とにかくがんばります!