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#01 転生のお誘い

 そして私は真っ白な部屋・・・? というか空間にいた。


 何故か私はシンプルで真っ白なガーデンテーブルの椅子に、真っ白な服(ギリシャ神話っぽい貫頭衣?)を着て座ってた。


 目の前には、ギリシャ神話風(?)の白い服を着た美女が、そう正に女神さまのような女性が座ってらっしゃる。


 私って夢をあまり見ないんだよね。


 いや、もしかしたら見ているのかもしれないが全く覚えていないので見てないも同じだし。


 だから、夢がどんなものかよく知らなかったんだけど、目の前の光景は間違いなく現実じゃなさそう。


「これは夢も見ているんだろうなぁ。たしか夢は何かきっかけになる体験が元になるって聞いたことがあるけど、こういう夢を見そうな体験、何かしたっけ・・・?」


 微妙な感覚というかハッキリしない意識の中で、私はそんなことをぼんやりと考えていた。


「これは夢じゃありませんよ。」


「ッ?!」


 唐突に目の前にいる女神さま(?)がニコっと微笑みながら話しかけてきた。


 そしてその笑顔を少し真面目顔に戻してながら私に向かってこう言った。


「あなたは就寝中に起きた大地震により住居が崩れ落ち、覚醒する間もなく瞬時に命を落としました。」


「えっ?!」


 最初『コイツ、何を言っているの?』と理解が全然追いついていかなかったが、そう言えば最近身近で小さな地震がよくあったなぁとか、『近日中に大きい奴が来るかも』とやたらTVのワイドショーで話題にしていたのを思い出し、何となくだけど状況に納得ができるような気がしてきた。


「そうか、私死んじゃったのか・・・」


「あらっ、何かずいぶんとあっさり現状を受け入れているようですね。

 普通、ここに来る人は状況を受け入れられなくて暴れる人とかがわりと多いんですよねぇ。」


 目の前の女神さまは、嫌なことでも思い出したかのように、首を傾げて頬に手を当てて渋い表情を浮かべる。


 何とも冷静な自分に違和感を感じながら、ふとこんな考えが頭に浮かんだ。


「(どうやら私は死ぬ瞬間ってのを実感できていないため、無念や驚愕といった感覚をあまり感じていないのかもしれない。)」


 まあ確かに天災では誰かを恨むわけにはいかないし、住んでいた建物が欠陥住宅だったりすれば、『どう責任とってくれるんじゃぁ!!』と、その責任者を責め立てることもできたんだろうと思う。


 だけど、残念ながら一人暮らしする際にその辺はしっかりした物件を選んでいたからそれもあり得ないよなぁ、


 などと現状どうでも良いのではということに考えている私。


「あれっ? でも今私は死んでいるのだとしたら、これはどういう状況??」


「はいは~い、その説明をするために私が来たんですよぉ。」


「あっ、そ、そうですか・・・(これってもしかして転生イベント? この人、神様ぁ??)」


 やっと本来の出番が来たぞと言わんばかりにふんすと前のめりに話しかけてくる女神さまのノリの軽さに、私は若干腰が引けていた。


「私はあなたが考えるように”世界を管理する神”と呼ばれる存在で間違いではありません。

 ですが、私はあなたがいた世界を管理する神ではありません。あなたがいた世界とは異なる世界を管理する者です。

 まずはそれらの世界について説明しましょうか。」


--------------------


 女神様からの説明を簡単にまとめるこんな感じ。


・私たちの世界以外にも神様たちが管理する世界はたくさんある。

・それぞれの世界には発展度、文明度といったポテンシャルの格差が存在する。

・その対策としてポテンシャルの低い世界に対して高い世界の魂を転生させて刺激を与えるということが頻繁に行われている。

・そんな中、私たちの世界は常に上位にランクされる優秀な世界らしい。

・なので、今回の震災の犠牲者にはたくさんのスカウトがやってきているそうだ。

・目の前の女神さまもその一人。

・異世界への転生はあくまでもお願いであって拒否も可能、その場合は元の世界で生まれ変わる。


--------------------


 もうね、ラノベ王道テンプレの”異世界転生”じゃん。まさか私がラノベ主人公になるとかさ、もうビックリだよ。


「というわけで、私の管理する世界へ転生していただきたいのですが・・・ダメですかぁ?」


 ワザとらしさを滲ませつつ媚びるような視線を向ける女神さまに、思わずジト目を向けてしまった私は間違ってないと思う!


 だが、この提案を受け入れる前に絶対確認しないといけないことがある。


「返事する前に聞きたいんですが、転生先ってどんな世界なんですか?

 いきなり弱肉強食の魔窟に連れて行かれても、生き抜ける自信ないですよ。」


「ああ、そうでした。大事なことをまだ伝えていませんでしたね。てへっ。」


(イラッ!)


「私ったら、やっと転生者の指名権がもらえたんでちょっと舞い上がってましたぁ!あはは。」


 ワザとらしいぶりっ子ぶりに、最初に感じた威厳めいた印象を、クラスにいたウザ女子レベルに格下げされつつある女神さま。


「心配しなくても大丈夫ですよ。ハバネさんの世界にある転生ラノベによくある王道のような世界ですから。

 通貨による経済が安定している中世程度の文化レベルで、さらに剣や魔法に魔物なんかが当たり前の楽しいファンタジーな世界ですぅ♪」


 と、もうノリノリで語っていたかと思ったら、急にテンションがだだ下がりし始めた。な、なんで?


「でもですね、そんな社会がかれこれ五千年ほど続いているんですよねぇ、文化革命とか産業革命とか全然起きないんですよ!

 ハバネさんの世界じゃ初期文明から2000年ほどでハイテク科学文明へと発展していったのに・・・。

 人類が生活しやすいようにと魔法まである世界にしたのに・・・。」


 言葉を紡ぐたびにさらにテンションを下げていく。


 この話を聞いて、以前に授業で言っていた先生の言葉が頭に浮かんだ。


『満たされた社会は堕落する、足りない社会は発展する。』


 この言葉を思い出して私はピンと来た。


「それって、魔法があるから停滞してるんじゃないの?」


「はぐっ?! や、やっぱりそう思いますか。」


 私の指摘は、クリティカルで女神様の思い当たる節を貫いたらしい。


 うつむき、両手の人差し指でこめかみを抑えながら『ぐむむむっ・・・』と唸る女神様。 


「魔法なんて便利なものがあったら、あまり深く考えなくてもいろんなことができますものね。

 科学原理とか物理法則とかそういった方向に目が向かなくてもしょうがないかも。

 私だって呪文一つで火はついたら、それで満足して物が燃える仕組みになんて気にしませんもん。」


 私の意見に、はぁーーっと深い溜め息をこぼすと


「実を言うと、仲間内でそうじゃないかとは言われてはいるんですよぉ。

 実際、魔法のある世界ほど文明の停滞は顕著のようなんですよねぇ。

 ほら、自分が設定した世界がダメなんてみんな思いたくないじゃないですかぁ・・・・


 でもっ!!」


 ここでにわかに勝ち誇るような表情に豹変した女神さまが宣言するように声を上げる。


「私はここで逆転の一手を手に入れたのですぅ!

 優良人材の宝庫ともいえるあの世界からハバネさんを迎えることができたのです。

 知ってますか?、ハバネさんの世界からの転生者はどこの世界でも結構な成果を叩き出しまくっているんですよ。

 そのせいで指名権の競争率が高いこと高いこと・・・、今回の震災により有望人材が多数現れたことで私にもやっと指名権を手にするチャンスが巡ってきたんですぅ。

 ですから、ハバネさん! ぜひとも私の世界に来てやらかしてくれませんかっ!!」


 勢いよく身を乗り出してきて顔を思いっきり近づけてくる女神さま。


 あまりの勢いでそのままキスしそうになって、ビックリした。


「で、でも、私には世界を改善するなんて大それたことなんてできませんから。

 まだ成人すらしてないんですよぉ・・・、無理、ムリ、絶対に無理っ!!」


「ハバネさん、その辺は深刻に考えなくてもイイですよ。

 あなたは転生先で面白おかしく自由に楽しく過ごしてもらえば、それで構いません。

 無理に何かしようと考えず、自分の好きなことを好きなようにやりまくってもらえれば、それが周囲への刺激に、ひいては世界へ影響を広げていくはずですから。

 良い刺激にしろ、悪い刺激にしろ、それが世界の動くきっかけになってくれればこちらとしても万々歳です。」


「じゃあ、新しい人生を自由気ままに好きなように生きて良いってことですか・・・・?」


「ハイッ! もう思いっきりやらかしちゃってくださいw」


 満面の笑顔でエールを送る女神さまに、『それで良いのか、女神さま?』と一抹の不安を感じるも、異世界への転生に胸の高鳴りを私は感じずにはいられなかった。


「それでは、ハバネさんの転生についてですが。」


 と、真面目モードに戻る女神さま。


「今までの世界とは常識がかなり違う世界ですので、すぐに死んでしまうようなことにならないよう、身体機能や魔法素質などはある程度底上げしておきますね。

 その上で、異世界転生のお約束、一つだけチートっぽいのスキルというか能力を授けちゃいます。

 ハバネさんは、どのような能力が欲しいですか?」


 新しい世界で好きなことを思いっきり自由にやって良いと言われて思い浮かぶ好きなものなんて一つしかないよ。


「ドローン!!」


 迷うことなく、即答で口から飛び出したのは当然これ!


「ドローンを思いっきり飛ばしたいです!

 新しい世界の空で、思いつくかぎりのあらゆるドローンを造って思う存分自由に飛ばしまくりたい!

 だから、そのためのスキルをください!」


 もうね、遠慮も躊躇もないおねだりが炸裂だよ。


「ドローンというとハバネさんの世界にある飛行機械ですよね?

 ううーん、希望に沿うようなスキルは見当たらないですねぇ、ならいろいろ組み合わせて新しく作ってしまいましょうw

 とりあえず錬金術に魔導具の創造スキルを合わせて、魔法付与に、従魔系の・・・・・・・・・・・・・・」


 なんか女神さまが虚空を見上げて何やらブツブツとつぶやき始めちゃいましたよ。


 「よし! こんなもんですかね。出来ましたぁ、”ドローン創造”スキルです♪」


 挙動の怪しい女神さまを見守ること数刻、唐突にこちらへ笑顔で振り向く女神さま。


「では、この出来たてのスキルをハバネさんに授けます。

 これでハバネさんが思い浮かべるドローンを自由に創造できるはずです。

 ・・・・・・・ただしスキルを相応のレベルまで上げればですけどね。」


 希望通りのスキルがもらえると聞いて私の喜びがMAXに達しようとした刹那、何やら怪しげなワードが耳に届いた。


「レベルを上げればぁ???」


 転生したらすぐにでもドローンをと考えていたんだけど、何やら雲行きの怪しさが漂ってきたぞ。


 多分凄く面倒くさそうな表情をしているだろう私は、『どういうこと?』とも言いたげに女神様を凝視した。


「えっ、えっ、なんですかっ?! その世界の終わりみたいな顔して?!

 ハバネさんの世界でも普通ですよね? 

 いくら高性能な乗り物や楽器を貰ったって練習しなければ使いこなせないでしょう。

 それと同じですよ。それにこんな超高度なスキルが鍛錬もなしに簡単に使えるわけないでしょう!」


 確かに、言われてみれば至極当然な理由だった。


 まあ、できるはずないようなことを出来るようにしてもらえただけ、大盤振る舞いな転生特典だったと思う。


「ようは、いきなり魔王やドラゴンと渡り合うような無敵ドローンが作れないというだけですよ。

 ハバネさんの世界のホビー機レベルならすぐに作れるようになりますからね。

 ハバネさんにはスキルを極めてもらって、ぜひともこの世界を引っ掻き回していただきたいですぅ。」


 何やら女神様が笑顔で不穏なことを言っていらっしゃる。


 ここは空気を読んで聞かなかったことにしとこう。


「あとは新しい世界での常識を学ぶ猶予を考えて成人少し前ぐらいの年齢にしておきますね。

 余所者でも馴染みやすくて暮らしやすそうな街の近くに転移させますから、ゆっくり慣れていってください。

 服や装備、お金など当面生活するのに必要なものもちゃんと用意しておきますね。

 あっ、もちろん読み書きなどコミュニケーションで困ることもありませんから安心してください。」


 どうやら転生していきなり詰むようなことが無いように配慮してくれるらしいし、いくらか気持ちが軽くなったかな。


「あっちの人間は子供のころから戦闘や魔法に慣れ親しんでて、そういうのを感覚的に認識しているけど、今のハバネにそれはできないでしょう。

 なので身体の能力やレベルなんかはゲームのステータスっぽく脳内で認識できるようにしておきました。

 向こうに着いたら最初に確かめてみてくださいね。」


「それでは、ハバネさん。

 向こうへ行っても、世界のためとか、発展のためとか、そういう面倒なことは考えなくてもいいですから、

 新たに手に入れた2度目の人生を、自由気ままに、やりたいように、思いっきり謳歌してください。

 それから、今後私たち神は世界への直接的な干渉はできませんから、なんとか自力で頑張ってください。」


 最後にかけられた励ましの言葉に感謝を感じつつ、異世界転生が始めり意識が薄れていく・・・・


「まあ、世界への不干渉はあくまでも基本的にということなので、抜け道はいろいろありますけどねw」


 薄れる意識の中、悪戯っぽく笑う女神様が見えた気がした。

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― 新着の感想 ―
[一言] それ、素直に錬金術とか機械工学魔法とか創成魔法や魔道具作成でやれるのでは?
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