#18 魔法巻物(マジックスクロール)
アオとのじゃれ合いも一段落して、マッタリとした時間が流れていく。
そして私はふと気になっていたことを思い出して、じゃれつくアオをシッポであしらっているルミーナに声をかける。
「ねえ、ルミーナ。
ルミーナって身体強化がメインで魔法攻撃とか出来なかったよね。
でも、私と初めて会ったときにクマに魔法使ってなかったっけ?」
「クマ? あー、あの時か。
あれはね、私が魔法を使ったわけじゃないんだよ。
あの時は、魔法巻物を使ったんだよ。」
「魔法巻物???」
なにやら知らないアイテムが出てきたよ。
そうかぁ、魔法があるんだから魔法の道具があってもおかしくないよね。
私も今の所、ドローンを介してしか魔法使えないし、あれば便利そう?
「それで巻物ってどういうものなの?
街で使ってるとこ見たことないし、もしかしてすごく珍しものなの?」
私の問いかけにルミーナとリーリィはお互いを見て頷くとリーリィが説明を始める。
「巻物っていうのは、魔力を込めれば誰でも、それこそ魔法が使えない者でも魔法を発動できる魔道具のことだよ。
魔力は魔法が使える使えないに関係なく、誰でも持っているからね。
そういう人にも魔法の恩恵を受けられる道具が魔道具だね。」
「あの時、わたしたちが、使ったのは、火炎柱。
炎の柱に、敵を巻き込む、下級の攻撃魔法。
でも、クマには、通用しなかった。」
「魔法なんて気合でぶっ放せばいいじゃん。人間って面倒くさいんだな。」
魔力の塊みたいな妖精のフィーリアが言いたい放題だ。
「まあ、威力は値段に比例するかんね。私たち懐具合ではあれが精一杯だったしぃ。
お守り代わりだったんだけど、ハバネに出会えたしご利益はあったのかもね。」
そう言ってウインクかますルミーナ。
「それにしても、どういう仕組みで魔法を発動してるのかな?
スクロールってそもそもどういうものなの?」
「ん、巻物は、紙に魔法陣を、描いて、魔石を、貼り付けたもの。
巻物を広げて、魔法を込める、それで魔法が、発動する。」
リーリィがサクッと概要を教えてくれた。
「そっかぁ、やっぱ魔法陣がキモなのかぁ。
うんうん、魔法といえば魔法陣だよねぇ。」
友人に読まされたラノベに多少は感化されてたかもしれない私のオタク心をくすぐるワードに素直に反応する。
「何がやっぱりなのかわからないけど、魔法陣そのものは魔法の発動に対して重要なものじゃないんだよ。」
と、意外なことを言うルミーナ。
「えっ、なんで?! 魔法陣が魔力に作用して魔法を発動させるんじゃないの?
こう、ピカーッって魔法陣が光ったりしてさぁ。」
「ねえ、リーリィ。
ハバネに巻物のこと、詳しく教えてあげて。」
興奮ぎみの私をよそに、若干呆れ気味のルミーナがリーリィにバトンを投げる。
やれやれと言った様子で、説明を始めるリーリィの言った内容をまとめるとこんな感じだ。
巻物とは、紙の上に魔方陣が描かれていてその要所に豆粒大の魔石を貼り付けたもの。
魔法陣のデザインと配置される魔石の属性次第で様々な魔法を発動することができる。
ただし、効果や威力は魔石の大きさや質に大きく影響を受けるらしい。
そして魔法陣なのだが、驚いたことに魔石が正確に配置されていれば魔方陣が描かれていなくても魔法は発動するのだそうだ。
魔法陣の役割ははっきり言って魔石を正確に配置するための”型紙”でしかないとも言われているらしい。
魔法陣を描くためには、起動する魔法に対してのある種の規則性のようなものがあり、用いる図形やその組み合わせ、魔石の選択とその配置など学術的に研究されているぐらいにしっかり意味はあるのだが、魔法の発動の際に魔法陣を描くことは必須ではなく、あくまでも正しく配置された魔石があれば魔法は発動するのだ。
スクロールにおいての魔石の役割は魔法の発動体であり、配置された魔石同士の干渉により発動する魔法が決定される。
ここであることに気がついた魔導士が過去にいたそうだ。
魔法が発動できるのであればそれは魔石でなくても良いのではないか、魔導士を巨大な魔法陣の上に立たせて魔力を込めれば個々の魔導士を超える大きな魔法を発動できるのではないかと考えたらしい。
そしてその実験は実際に行われたらしいが、結果は大失敗だったという。
スクロールのように、魔石の発動タイミングが完全に同期しなかったことや注ぎ込む魔力量を正確に合わせられなかったなど様々な原因があったようで、その解決の目処が立たないままその実験は忘れ去られていったみたい。
このように巻物の仕組みや構造はそれほど難しいものではなく一般的にも知られているが、一般に出回っている魔法陣は下級魔法がほとんどで、効果や威力の高い魔法陣は魔導士ギルドや特権階級によりほぼ秘匿状態らしい。
ちなみに、魔法陣や魔石の大型化による大威力化の試みも試されたらしいが、こちらは発動のために注ぐべき魔力が膨大過ぎて結局失敗したとのこと。
なお、新しい魔法陣の開発もあちこちで地道に行われており、趣味で続けていた素人研究者が高度な魔法陣を生み出したなんて話も稀にあるのだそうな。
元の世界であった”小学生が自前の望遠鏡で未登録の星を発見する快挙!”みたいなノリなのかもと、どうでも良いことを思ったりする私。
そしてもう一つ、魔石を使わない巻物について面白いアイデアを思いつき、いつかその実験をしてやろうと心に決めた。
「(このアイデアが使い物になるなら、ドローンでもっと面白いことができそう。ふふっ♪)」
不敵な笑みを溢す私を見て、ルミーナたちが怪訝そうな視線を向けていた。
「「「あの顔、きっとロクでもないこと考えてる・・・」」」
今回はちょっと短めかもです。
思いついたネタをうまくまとめるのに四苦八苦してますが、お付き合い願えれば幸いです。