#17 アオのこえ
「ハバネぇーっ?! ちょっと! 突然叫んでどうしたの?」
不思議な声が聞こえていないルミーナが、突然驚きの声を上げた私の様子を見て何事かと声をかけてきた。
「あーー、えーーとね・・・、
アオがね・・・、
しゃべったみたい。」
「「「はあぁーーー??」」」
あまりにも非常識な発言に、『何言ってんだ、こいつ?!』みたいな表情で妖精のフィーリアまで呆けたような奇声をあげていた。
いや、まあ、わからなくはないけどさ。
「スライムが、しゃべるわけ、ない。
というか、そんな知性が、あるわけ、ない!」
リーリィがごくごく当たり前な常識を私にぶつけてくるんだけど、それでも私は言い放つ。
「ドローンを通して念話が聞こえた。君たちの声じゃないなら残るのはアオしかいない。異論は受け付けない!!」
昔から少数派になっても大人しくフェードアウトできない性分から、誰も信じてくれないアウェーな状況でも私は自説を曲げない。
でもでも、まっとうに否定の根拠が示されればその限りではない・・・から、
石頭ではない・・・つもりだけど・・・と、ちょっとだけ心で言い訳した。
「(はばね・・・、あお・・・、しゃべる?・・・)」
「うんうん、ちゃんとアオの声は聞こえてるよぉ!」
声に合わせて心配そう(?)に私を覗き込んでくるアオに私は嬉しくて優しく撫でてあげる。
「ねえ、ハバネぇ。ホントにスライムのアオの声が聞こえるの?」
私のあまりの勢いに飲まれたのか、恐る恐る私に再度問いかけるルミーナ。
「どういう原理かは全然わからないけど、どうやらドローンに付与した念話スキルにアオが干渉してるみたい。
うーーん、なんでこんなこと出来るんだろ???」
「じゃあ、ホントにアオの声が聞こえてるのね。でもほんとにアオなの?」
「うん。
ここに念話できる人いないし、アオの声とリアクションがピッタリ合っているから間違いないと思う。」
私の説明聞いても、まだ半信半疑な様子でアオを見つめるみんな。
「(なに・・なに・・・、みんな・・・、みてる・・・。)」
キョロキョロと周囲を見回す仕草が可愛いアオ。
「でも、ホントかなぁ?
スライムが話せるっていうかそんな知恵があるってトコがアタイには信じらんないんだけどぉ。」
アオのそばまで自分のドローンを寄せていき、片目を閉じで透明なアオの内部のコアを凝視するような仕草をしながらフィーリアがいまだに信じられないと口にする。
確かにこの世界の住人にとってはスライムに知性があるなんて、私のいた世界の昆虫に知性があるっていうのと同じぐらいありえないって話なんだよねぇ。
やっぱ、リーリィの特殊個体説が正解なのかもだけど、ワタシ的には非常識でもなんでも賢いアオは十分アリなんだよ、うん。
「私たちにもアオの声が聞けたらねぇ・・・。そうすればもう疑いの余地はなくなるんだけど。」
自分のベットに仰向けに倒れ込みながらルミーナがそうこぼす。
「うーーん・・・、あっ!そうだ! あの機能が再現できればもしかしたら・・・、よしっ!」
とあるヒラメキが降りてきた私は、アオドローンを捕まえてそのまま凝視した状態で固まる。
「ちょっと、ハバネ?! 一体どうしたの?」
突然の奇行に驚きの声を上げるが、その声は私の耳には届いていなかった。
頭の中にアオドローンのステータスを浮かび上がらせて、ドローン創造スキルの行使を始める。
「(たしか、イメージさえしっかり固めれば今あるドローンをカスタマイズできるはず。
そして、今からイメージするのはインフォメーション機能っと。)」
私がイメージしているのは、一般的に普及していた特殊でもなんでもないドローンの機能だ。
モニター画面などのインターフェイスを持たない機体が状態やエラーを伝えるために備える音声機能をこちらのドローンでも再現するつもりなのだ。
そしてその機能を念話スキルと連携させるべくできるだけ明確にイメージを固めてカスタマイズを実行すると、じきにその手応えみたいなものが帰ってきた。
固まっていた身体を弛緩させてるように息を吐き、アオドローンから手を離す。
「ふー、これでよし! さてうまくいくかな。」
不思議そうに瞳(?)をかしげて私を見つめるアオに優しく声をかける。
「アオ、私の言葉わかる? わかるなら、また私にまた喋りかけてくれるかな。」
私の方に向き、しばらく見つめ合っていると室内に声が流れてくる。
「はばね・・・、あお・・・、しゃべる・・・、はばね。」
中性的で抑揚があまりない子供のような声がアオの乗るドローンから聞こえた。
「アオ、偉いね、ちゃんと聞こえたよ。」
「あお、えらい・・・、はばね、えらい・・・。」
会話になっていないような拙いやり取りだけど、ちゃんとアオの声が聞こえた。
カスタマイズは成功だ、やったね。
「アオが、スライムが、しゃべった! 凄い! 興味深い!」
リーリィが驚きの声を上げ、好奇心に満ちた表情でアオを見つめる。
「ハバネの言ってたことが本当だってことはわかったけど、アオの喋りって孤児院のおチビたちみたいだね。
なんか喋り始めたばかりの子供みたい。これから成長していくとしたら、ちょっと楽しみかも。」
孤児院で年少の子たちの面倒を見た来たことを思い出したのか、ルミーナのアオを見る目は優しく見える。
「へえー、アタイもしゃべるスライムなんて初めて見た?! なんかおもしれー。」
好奇心旺盛なフィーリアも興味津々だ。
「アオ、私リーリィ。私を助けてくれて、ありがとう。」
崖から落ちるところを助けられたことに感謝しつつ優しくアオを撫でるリーリィ。
「リーリィ、たすける・・、みんな、たすける・・。」
2本の触手を出して嬉しそうに降るアオに、フィーリアが抱きつく。
「うーん、可愛いやつだ! よしアタイがおねーちゃんとしてアオのことを守ってやるからな!」
触手で両脇から抱えるようにフィーリアを持ち上げるアオと、楽しそうにじゃれ合うフィーリア。
笑いながらその様子を眺めていたルミーナとリーリィ、そんな空気に釣られて私は思いつきを口にする。
「アオの歓迎会しよっか。ドーナツたくさん作ってさ、そんでもって楽しく騒ごう♪」
「「「賛成ーっ!!」」」
「にゅ・・・、どーなつ・・・。」
しゃべるアオちゃん、登場!
でも、このあとの扱いをあんま考えてない・・・・
さて、どうしよう。
今回も読んでいただきありがとうございます。
これからも応援してもらえるとありがたいです。