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#13 スイーツ欠乏症

 そして休日の二日目。


 今日はみんなでお出かけです。目的はオヤツ探し・・・、いや、甘いスイーツ探しである。


 きっかけは昨日のスキル確認していたときのこと、この世界では当たり前の状況がどうにも我慢できなくなったのだ。


 この世界での生活にも余裕が持てるようになってきたからこそ、その事実に気づいてしまったのだろう。


 重大事項とも言えるそれは・・・、こういう何かに没頭しているとき、無性に甘いものが食べたくなることである。


 無意識に伸ばした手でなにげにつまむチョコにビスケット、スナック菓子、疲れた脳を癒すケーキやアイスクリーム!


 そうなのである。


 元の世界では、当たり前のようにお菓子があり、無意識に口に運ぶのがごくごくありふれた日常の習慣だった・・・!


 だがここでは、お菓子どころか、甘いものを間食する習慣さえ無いのが常識なのだ。


 たまに間食しても、屋台での買い食いぐらいで、それは軽食の類であって、決してお菓子ではないのである。


 甘くて美味しいお菓子に埋もれて過ごすような前世の記憶を持つ私にとっては、ここはある意味で地獄と言っても過言ではない。


 そして甘い物への欲求を抑えられなくなった私は、みんなを巻き込んでスイーツ探しを始めたのだ。


---------------


 クロスロードの街は、東西南北の国家群をつなぐ要所として、かなり物資の豊富な街である。


 なので、一般的に流通しているものなら価格を気にしなければ大抵のものが揃うと言って良かった。


 探せばきっとなにか甘味が手に入るはずだ!と勇んで出かけた私は、今敗北感に打ちひしがれていた。


 この街育ちの二人を案内役に、街の隅々まで探し回ったのだが・・・・・、


 手に入ったのは新鮮な果物か乾燥させたドライフルーツ、あとは精製されていないであろう茶色がかった粗砂糖ぐらいだった。


 いや、果物も十分甘くて美味しんだけど、今欲しいのはこれじゃない!


 私の敗北感の理由を知らないルミーナ、リーリィ、フィーリアの三人は、床に両手を付きうなだれる私を華麗にスルーして本日の成果である果物を楽しんでいる。


 とくに森の妖精であるフィーリアなんて、初めて食べる人族の果物にテンションアゲアゲだ。


「よし、無いものは無い! きっぱり諦めよう。

 こうなれば、もう自分で作るしか無いだろう!!」


 拳を振り上げ、不気味な笑いをたたえながらふつふつと闘志をたぎらせる私の姿は、珍しい果物を堪能する三人の目には写っていなかった。


---------------


「それでは、腕慣らしも兼ねてまずは簡単なものから挑戦します。」


 お昼過ぎの暇になった宿屋の厨房を借りた私は、買い込んだ材料を前にそう宣言する。


 いくらドローン狂いの私でも人並に、いくつかのお菓子ぐらいは作れるんだぞ。


 基本モノ作りが好きな性格だし、お菓子作りもその範疇と言えなくもないわけだしね。


 厨房には、私がこだわるお菓子に興味を惹かれたルミーナとリーリィに、ただただ好奇心の目を向けるフィーリア。


 そしてなにか珍しい食べ物を作るというので覗きに来た女将さんが、遠巻きに私を見守っている。


「まずは、小麦粉をふるいにかけて細かい粉に揃えよう。このまま使うと食感が悪そうだし。」


 そういって、普通に手に入る物では粉の大きさが不揃いなうえ不純物もチラホラ見える小麦粉を手に取る。


 一番目の細かいふるいにかけた小麦粉と、ほぼ鶏のものと同じに見える卵の黄身、そして何から取ったかわからないが味はほぼ牛乳と言えるミルクをボールに入れてかき混ぜる。


 ベイキングパウダー代わりに泡立てた卵白を使って、それ以外にもいくつか代用品を入れて、とりあえずできたタネをリング状に成形しておく。


 次に用意するのは、魔物から取れた獣脂、いわゆるラードを大鍋で熱して大量の油をつくる。


 さあ、これで”ドーナツ”を揚げる準備は完了だ。


 モノを揚げるという調理方法があまり一般的でないらしく、女将さんが真剣にその工程を観察している。


 油の温度もちょうど良さそうな頃合い、私は次々とドーナツのタネを油に放り込んでゆくと、パチパチと激しく油が弾ける音が響く。


「うわー、なんだぁ?!」「「きゃぁーー!」」


 見学者たちが、響き渡る聞き慣れない破裂音に驚きの声を上げる。


 そんな騒がしい外野を気にすることもなく、揚げ上がりの瞬間に耳と神経と研ぎ澄ます私。


「よし、今だ!」


 取り上げたドーナツを素早く油切り用の器に移す。


 頃合いを見て、砂糖を上からたっぷり振りかければ、ハバネ特製ドーナツの完成である。


 いい感じに冷めてきたドーナツを一つ手に取り、パクリ!


「うーーん、これよこれ! 素朴だけど全然アリだね。あまーい! 美味しーーい!!」


 満面の笑みを浮かべてドーナツを堪能する私に、詰め寄るルミーナとリーリィ、フィーリアも頭にしがみついてきた。


「ハバネーっ! アタイにも食わせろーーーっ!!!」


 うわっ、黙って見つめる女将さんの『私にも味見させろ!』オーラが半端ない!


 しっかり人数分用意しておいた味見用ドーナツを一つずつ手渡して、


「じゃあ、食べてみて。これが私が欲しがってたスイーツってやつだよ。」


 この言葉を合図に、それぞれドーナツを口に運ぶ。ルミーナとフィーリアはまさに齧り付く勢いだ。


「なーにーこーれー?! あまーい、おいしーい!!」


「ーーっ、美味! 甘美! こんなの初めて!!」


「なんだー?! あまいぞー! こんなの食べたことねぇ!!」


 ラノベで定番のスイーツ無双ってこういう感じかと変な感想を抱きつつ、喜ぶ三人を見て嬉しくなる。


 ふと横を見ると、食べて半分になったドーナツを見つめて真剣な表情の女将さんがいた。ちょっと目が怖い。


「食事じゃないあまい食べ物か・・・、

 お偉い貴族様がお茶を楽しむって聞いたことがあるが、そういうときに食べるもんなんだろ、これ。」


 真面目な顔で問いかけてくる女将さん。


「私の感覚では、休憩するときとか、のんびりしたいときに食べるって感じかな。」


「今のままじゃ高価すぎるけど、面白い食べ物だねぇ。 ハバネちゃん、これ私が作っても構わないかい?」


 予想通り、女将さんが興味を持ったみたいだ。


「全然、構いませんよ。というかぜひ作ってください。

 これからも時々こうやってお菓子作りしようと思うので、女将さんがそれを覚えてくれると私も嬉しいです。

 楽してお菓子が手に入りますからね。」


 こうして少しずつでもお菓子文化が広がれば、女神さまの助けにもなりそう。


 さて、残ったタネも揚げてしまいますかね。


 試食分を食べきった食いしん坊たちが待ちきれない顔してこちらをキラキラした瞳で見つめているしね。


---------------


 こののち、私が教えたいくつかのスイーツを使った”午後のティータイム”というサービスを女将さんが始める。


 そしてこれが大ヒットして、世に美味しいお茶とともにスイーツを楽しむ文化が広がっていくのだが、


 これはまた別の話である。

読んでいただきありがとうございます。


これからも応援してもらえるとありがたいです。

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