#11 ギルドマスター
妖精の仲間入りがなし崩しに決定してしまった。
まあ、とりあえずそっちは置いとこう、問題が別にある。
「これってやっぱ、例の件がらみだよね?」
ルミーナがデススパイダーの死体を突きながら、こんなことを口にした。
「例の件って、上位ランクの魔物があちこちに出没している件だよね。
ギルドが、気になることがあれば何でもすぐに報告するようにって言ってたっけ?」
最近、ギルドから緊急通知されていた案件のことを思い出す。
「デススパイダー、確実に格上、ギルドに報告、絶対必要!」
リーリィも異常事態であり報告事項だと同意を見せる。
「なに、なに? 何の話しぃ?」
事情を知らない妖精のフィーリアに、最近街で話題になっていることを教えると
「それ、アタイも聞いたことあるよ。里の長老がそんな話して皆に気をつけるんだぞぉ!って言ってた。」
「むぅ、その話気になる、詳しく話して。」
フィーリアの話を聞いて、更に詳しくと詰め寄るリーリィ。
「えーと、長老が言うには、ドラゴンか、そのくらい強いの魔獣が森の奥に住み着いた可能性があるんだとさ。
それで、これまで森の奥を縄張りにしてた奴らが外に逃げ出してるんじゃないかって言ってた。」
「「「なんだってぇーーーーーっ!?!」」」
サラリと口にしたフィーリアの言葉に、絶句して顔を見合わせる私たち。
「と、とにかく、いそいで街へ戻ろう! そしてギルドへ今の話を報告しよう。
もう、私たちがどうこうできる話じゃないよ、うん、そうしよう。」
どうしよう、どうしようとワタワタ慌てだすルミーナに飲まれて、パニクるタイミングを逃した私。
「そ、そうだね、なら証拠のデススパイダーも持って帰ったほうがいいよね?」
そう言って、私は黒い猫耳ドローン『キャリィ』を呼び出して、死体を収納させた。
「これでよしっと。 じゃあフィーリア、一緒に街へ帰ろうか。」
「わーい、人間の街はじめて! 楽しみぃ!!」
そう言うと嬉しそうに私たちのまわりをブンブンと飛び回った。
もちろん、ドローンに乗ってね。
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なんとか、日が落ちる前にクロスロードの街にたどり着いた私たちは、いつもの門番に気安く声をかける。
「ギノスさん、ただいまぁ、今日も無事に帰ってきたよぉ!」
ルミーナの明るい声に、笑顔で答える門番のギノスさん。
この門番は、ルミーナやリーリィの顔見知りだったようで、私を紹介したときに名前を教えてもらった。
「おう、今回もちゃんと帰ってきたな! にしては結構ボロボロだな、なんかあったのか?」
「うん、ちょっとね。その件も含めてギルドに報告に行くトコ。」
「おお、そうか。じゃあここであれこれ聞くのは止めておこう。
それそうと、さっきからお前らのまわりをフワフワ飛んでるのって、もしかして妖精か?」
街の様子を物珍しげに眺めながら、私たちの側に浮いている妖精はやはり気になるよね。
ちなみに妖精ドローンは”ケッタン”と名付けられた。
自転車みたいだと思って口にした、とあるご当地名称に、ことのほかフィーリアが食いついた結果であるのだが。
「助けたというか、助けられたというかね、あはは・・・。」
「そいつも報告の件に絡んでんのか? なら引き止めるわけにもいかんな。
だが、今度じっくり話を聞かせてもらうからな、んじゃ行ってよし!」
こうして街へ入った私たちは、まっすぐハンターギルドを向かった。
「わぁー! 何だあれ? あっちから何かいい匂いがする、うわー!うわー!」
初めての人間の街に、テンションアゲアゲの妖精。
用事が済んだら好きなところに連れて行くからと宥めてみるが、目を話すとすぐにどっかへ消えてしまいそうな勢い。
結局、私がケッタンのコントロールに干渉して強制連行と相成りました、ははは。
ギルドにつくと、まっすぐナタリアさんのカウンターに直行する。
「ちょっとぉ?! ハバネさん、その妖精はどうしたんですか?!」
「えーと、この妖精の説明も含めて森の異変のことでお話したいことがありまして、それもちょっと大事かもしれなくて・・・。」
「ええっ、何かあったんですか? これはギルマスに話を通したほうが良いのかしら・・・
ちょっと待っててください、ギルマスに会えるか確認してきますね。」
そういうが早いか、カウンターの奥に駆けていくナタリアさん。
「ねえ、ギルマスってギルドマスターのことだよね。二人はどんな人か知ってる?」
「ギルマス、ギルドで、一番偉い。私たち、あったことある。」
「うん、よく知ってるよ。 見た目はかなりおっかないけど、優しい人だよ。」
二人の様子から悪い人ではなさそうな感じだが、おっかないってどういうことだろ?
「待たせたわね。 ギルマスが話を聞きたいそうよ。 じゃあ三人ともついてきて。」
ナタリアさんに案内され、ギルドマスターの部屋に入ると、そこに二人の男性が待っていた。
窓際に置かれ書類が山積みされた重厚なデスク、その手前、部屋のほぼ中央に置かれた応接セット。
その奥側に一人が座っていて、もう一人は椅子のすぐ後ろに控えている。
筋肉隆々の肉体にスキンヘッド、ひと目見ただけで後ずさりしてしまうようなヤクザの親分がそこにいた。
後ろに控えているのも、眼光の鋭い冷徹そうなメガネの若頭だった。
『おっかないって、こういうことだったのかぁーーっ!!』と顔をひきつらせる私。
「私が、クロスロードハンターのギルドマスター『ガリー』だ、でこいつがサブマスターの『オルトナ』だ。」
そう言って後ろを指差すギルマスを前に、私はドスが効いた声にガチガチになっていた。
「ギルマス、相手は可愛い女の子なんですよ。 いつもの荒くれ相手と違うんですから威嚇するのは止めてください!」
涙目の私を見たナタリアさんが、マジ顔で説教を始める。
「ああ、すまんすまん。怖がらせるつもりはないんだ。ははは、まいったな。」
そう言って、頭を掻きながらニヤリと笑うギルマス、見事な作り笑顔であちこちがピクピクと引きつっている。
「ギルマス、慣れない作り笑顔はかえって不気味ですよ! ほら、今度は思いっきり引いてますよ、もうドン引きです。」
無表情のまま指でメガネを押し上げながら、サブマスが容赦ないツッコミを入れる。
「おまっ、不気味ってのはヒドイだろ! 慣れてねえんだよ、女子供の相手はよぉ。」
「ギルマス、相変わらず。でも良い人だって、みんな知ってる。」
「まあ、私たちも小さいときに初めてギルマス見て泣いたもんねぇ。」
プチパニックな私と違って、笑顔で様子を見ていたルミーナたちがギルマスに助け船を出す。
変に静かだと思ったフィーリアは、すみっこで物珍しそうにこれまでのやり取りをガッツリ鑑賞していたようだ。
ここまでのやり取りで吹っ切れたのか、自然な笑顔を浮かべたギルマスが改めて話しかけてきた。
「あー、ゴホン。 まあ、俺のことはとりあえず置いておいて仕事の話をしようか。」
そう言ったギルマスの一言で、部屋の空気が真面目モードへと切り変わっていく。
「で、報告したいこととは何だ? そこの妖精が関係しているのか?」
読んでいただきありがとうございます。
無事、10話を突破しました。
つぎは頑張って20話突破を目指します(低いハードル~w)
これからも応援してもらえるとありがたいです。