#95 そして、決着
「魔法使いと魔道具使い、どちらも同じように魔法を使うが決定的な違いがある。
それが何か知っているか?」
戦いの最中であるのに、ギルネジール・・・、面倒くさいからこれからギルって呼ぼう。
ギルが突然私に問いかけてきた。
「魔法使いは魔法の威力を制御できて、魔道具使いは魔法の発動が早いてことかな。」
これはリーリィとミリアから聞いてた一般的な常識と言われる通説だ。
早い話、熟練の職人の手作業による高いクオリティか、誰でもできる機械加工による並のクオリティの違いって感じの話なんだよね。
「確かにそれも間違ってはいないが、魔道具の最も優れている点、それは複数魔法の同時発動だぁ。
喰らえっ! サンドブラストォ!!」
そうギルが叫ぶと、背後の機械椀の2本の杖が光り、砂を巻き込んだ風の渦が一瞬で現れて私に襲いかかってきた。
確かに呪文を唱える魔法使いでは、2つの魔法を同時に発動できないのは当然だよね。これは脳内で唱える無詠唱でも同じだ。
「ナイフより鋭利な石英の粒子が渦巻く荒れ狂う砂嵐だ、あらゆるモノを巻き込んでズタズタにするのだ!」
「なるほど、そういう攻撃ならこっちはウォーターウォールで。」
私は水属性ドローンのティアを通して粘度の高めた水の壁を作ってギルの魔法を迎え撃つ。
激しい砂嵐が水の壁に襲いかかったが、その砂の粒は粘りつく水に絡め取られて粘土の塊のようになってその場に落下する。
「はいっ、いっちょ上がりっと。
ねえ、単に2つも魔法を早く発動できるだけじゃあ、大して脅威は感じないんだけど。」
「なにぃ!? 個々の単一属性の魔法より遥かに威力は上がっているんだぞ!
それが大したことないだとぉ!」
当たり前のこと言っただけなのに、かなりご立腹のご様子だ。
でもなぁ、複数要素によって起こる激しい自然現象をイメージして開発された複合魔法のほうが圧倒的に威力は高いんだよね。
火災旋風とか、火山噴火で起こる火砕流の再現とかね。
だから、単に目の前で混ぜただけの現象なんて、ちょっと派手な大道芸でしかない。
そう、物理法則に則った科学反応を理解して応用しない限りはね。
「なら。今度はこれだぁ! フレイムクラッドォ!」
周囲に風をまとった火球が轟々と音をさせながら激しく燃え盛りながら出現し、その火球が私めがけて放たれる。
今度は鍛冶屋のふいごのように風を送り込んで火球の燃焼を高めているのか。
まあこの辺が高度な科学知識のないこの世界の限界てところなんだろうね。
「ほい、エアーウォール。」
私は風属性ドローンのエアーに、空気の流れで形作られた壁を出現させる。
「炎に風だと? 馬鹿か、更に炎が強くなるだけだぞ!」
それはただの風だった場合です。
私が生み出したのは特定の気体のみで構成された壁なんだよ、そう二酸化炭素のね。
私のエアーウォールに真正面から突っ込んできたギルの火球、壁を通過しながらその炎はあっさりとかき消されてしまう。
「な、何だとぉ・・・・。」
何が起きているのか全く理解できずの呆然となるギル。
ギルの魔法はただ組み合わせただけ、威力を強化しようと思うならそれなりのやり方があるんですよ。
前世の理系知識、チートです、バンザイです。
ついにブチギレて、怒り狂ったギルは2本の触手椀の先にとっておきだったと思われる魔法をまとわせて猛攻に打って出た。
4つの機械椀の先の杖が光り、鞭のような2本の触手椀にそれぞれ2つの属性魔法を重ね掛けする。
一方の触手椀の先端にドリルのように纏わり着き高速で回転する旋風の中に剃刀の様な鋭さを持った氷片が渦巻いており、触れたものを即座に粉砕しそうな感じだ。
もう一本の触手椀には、炎の魔法を内部に封じた岩石の筒、まさに砲門と言えるものが形作らていて、その砲門の奥にはマグマのような溶岩が見えていて、いつでもその溶岩が打ち出せそうである。
「向かってくるもの全てを粉砕する氷片の刃と、燃え滾る溶岩の弾丸を無限に撃ち出す大砲だ。
受けられるものなら受けてみるがいい!」
私はテクトとセイバーでいつものように迎え撃つのだが、流石の威力に少々押され気味だ。
その様子を見て余裕の表情で笑みを見せるギル。
「俺の魔道具と重合魔法の組み合わせは最強なのだよ。」と。
そこで私は、
「重合魔法なんてまだまだだよ。属性魔法を極めれば、もっと凄いことが出来るんだからね。」
そう言うと氷片の刃に水属性ドローンのティアを向かわせる。
「自慢の氷の剣には私の氷魔法でお相手してあげる。」
「お前、バカなのか!
俺の最強の氷の剣に同系統の氷魔法でどうにかなると思っているのかぁ?!」
「まあまあ、イイもの見せてあげるからね。」
ティアから魔法が放たれると、極低温の霧のようなものが発生し、その霧のような塊が氷片の刃を包み込んでいく。
霧を払おうと触手椀を振り回すが私の霧はまとわりついて離れない。
しばらくしてその霧が晴れていき現れたのは真っ白の塊で、風魔法で高速回転していた氷片の刃ではなくなっていた。
そして 周囲にピキピキッと小さいが甲高い音が響いたと思ったその瞬間、
パシィーーン、と言う破裂音と共に触手椀の先端ごと氷片の刃は粉砕して白い粒子となって霧散する。
「なっ?! いったい何が起こったのだ!
氷片の刃が氷魔法で砕け散るとは、どうなっているんだぁ!!」
まあ、そうなるよねぁ。この世界の人には絶対零度なんて概念、分かるはずないからね。
「んじゃ、次はこっちの溶岩大砲みたいなのだね!
氷には氷魔法だったから、溶岩には炎魔法でいっきまぁす!」
私の宣言に、信じられないという表情を浮かべるギルネジール。
「何を言ってるんだ?! 鉄を溶かすこの世で最も高熱の溶岩を炎魔法で対抗するだと!!」
怒りゲージMaxで何か喚いているギルをスルーして、火属性ドローンのヒートを眼前に据えてファイヤーボールを発動させる。
「なんだ、その火の玉は?! 駆け出しの魔法使いでももっと威力のある火の玉が出せるぞ!」
目の前に浮かぶただの火の玉を見て、馬鹿にするように笑うギル。
私は構わず火の玉に魔力を込めるイメージをヒートに伝えていくと、炎はその勢いを増しながら色を変えていく。
そして炎は徐々に明るく輝いていき色も赤から黄色、そして青く変化していく。
その変化に不穏な気配を感じたのか、傍観していたギルが攻撃に転じる。
轟々というおよそ炎とは思えない音を立てて青白く眩しい光球となった元火の玉に向けて、触手の先端からこちらを狙う岩の砲塔からいくつもの溶岩弾が撃ち出された。
私は、輝く火球をその溶岩弾を向けて放つと、激しく輝く火球に触れたそばからジュッと音を立てて蒸発していく溶岩弾。
さらなる理不尽なその光景に、信じられぬという驚愕の表情を浮かべるギル。
私の火球は、そのまま溶岩砲塔に向かって突っ込んでいく。
砲門に届く寸前に私は火球を炸裂させると、膨張する光に溶岩砲塔は根本から飲み込まれて、そして綺麗に蒸発した。
このとき私が使ったのは、プラズマという概念。
太陽で起こっている最強の炎と言っても良い現象で、これと比べたら溶岩なんて冷えた焼け石みたいなものなんだよね。
理解を超えた状況にマジ切れしたギルが自動修復させた2本の触手を滅茶苦茶に振り回す凄まじい攻撃を繰り出し、4本の機械腕の杖から魔法攻撃を乱れ打ちしながら、私に突進してきた。
「もうこれで終わりにしようね。」
私は未だに使い慣れないショートソードを構えて、正面に展開しているクロノによるドローンゲートに向けて渾身の突きを繰り出した。
このドローンゲートの出口はギルの背中に開いていて、私のショートソードは魔道具の中央にある制御用の魔石を貫き砕いていた。
制御を失ったことで自壊し始め、粉々になるギルの魔道具。
ヨロヨロと勢いを失い膝をつくギルネジールは、呆然とした顔で虚空を見つめている。
「この対決、勝者はハバネ!」
この瞬間、私の勝利が見届け役から告げられた。
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