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#09 翅折れ妖精

 「やっぱり変! 周囲に何も感じないのがかえってアヤし過ぎる。」


 いつもと変わらない森の風景。


 だが、ルミーナは耳やシッポをピンと立てるほど、緊張感を漂わせている。


「・・・・・・・・っ!?!」


 リーリィも何かを感じているようだ。


 そうなのだ、今ここには普段とは違うただならぬ空気が張り詰めている理由。


 そう、生き物の気配が全く感じられないのだ。


 まだまだ気配みたいなものを感じられぬ私にも、この異常な雰囲気には気が付けたほどだ。


 より注意深く周囲を警戒しながら私たちは先へ歩みを進める・・・。


「それ以上行ってはダメよ! それ以上踏み込めが確実に死ぬから!」


 突然かけられた声に驚きその場に三人背中を合わせて固まると、すぐに周囲を見渡しその声の主を探す。


 サテラの探索に反応はないが、たしかに何かがいるようだ。


 私は不自然に揺れる木の枝に気が付き、その付近を凝視する。


「ん・・・ッ?! ええっ!!!」


 枝の根元に人影を見つけたんだけど、チョット待って!


「ちっさ?!」


 それは小さな人間、そう国民的な人気の某着せかえ人形サイズの人間がそこにいた。 


「なにっ?! 妖精、さんっ!?!」


 私に遅れて気がついたルミーナが、驚いた表情でその正体を口にした。


 ファンタジーの代表選手のような存在を目の前にしてテンションが上がりまくりの私なんだけど、マジマジと凝視していて違和感を感じた。


 そう、背中の(はね)が変なのだ。


 トンボのような4枚の羽のうち2枚が途中から痛々しく折れ曲がっていたのだ。


「それ以上進むとあなた達、死ぬわよ! よく見てみなさい。」


 私たちの視線など気にもかけず、その妖精は進もうとしていた先を指差して忠告を続ける。


 その言葉に、私たちも指差す先に注意を向ける。


 不審な点はないかと目を凝らすが特に何も見つけられない私とリーリィ、でも獣人であるルミーナは何かに気がついたみたいだ。


「なにっ? なにか光ったような・・・、糸?! すっごく細い糸があちこちに張り巡らされてるっ!?!」


 糸と言われて初めて、私はその異様な状況に気がつくことができた。


 数歩進んだ先の森には、あらゆる場所に細い糸がピンと張り巡らされているのだ。


 その時、風に煽られた木の葉が舞い降りてきてその糸に触れて、なに事もないようにそのまま地面へと舞い降りていった。


 ただ、糸に触れたところから音もなくキレイに切り裂かれていたけどね。


「デススパイダーの糸よ。ちょっと触れただけで身体を切り裂かれるわよ。」


 すべての憎しみをぶつけるようにしかめた表情で、妖精が言葉を吐き出す。


「助けてくれてありがとう。でもデススパイダーってかなりの高ランクモンスターじゃない?! 

 なんでこんなところにいるの?」


 ルミーナは素直に感謝を言葉にしたが、次に出た言葉は理解できない現状についてだ。


 私も知識だけならデススパイダーを知っている。


 ここ数日勉強した魔物の知識の中に出てきていたんだけど、たしかにこんな森の浅い場所にいるヤツじゃないはず。


「この奥にヤツがいる。でもそいつは私の敵! 誰にも手出しはさせない!!」


 どうやら、この妖精はこの奥にいるデススパイダーとなにか因縁があるみたい。


「ねえ、もしかしてその翅、アイツにやられたの?」


 私は気になっていたことを直接ぶつけてみた。


「私達のテリトリーにいつの間にか入り込んでいて、不意をつかれて翅をやられた。

 おまけに呪いまで食らっちまった。

 いつものように飛べれば、私の魔法でアイツをやっつけてやれるのに!」


 そう言えば、デススパイダーからダメージを食らうと、まれに呪いにかかることがあるんだっけ。


 死に至るわけではないけど、表面的に傷は塞がっても怪我そのものの完治を妨げてしまう厄介な呪いだったはず。


 普通なら治癒魔法や養生で時間とともに完治する骨折や火傷の痕も、いつまでも折れたまま、爛れたままになるらしい。


 呪いを解く唯一の方法は、呪われた本人が自分の力で呪いの主を倒すこと。


 あの妖精は自由に飛べれば魔法で倒せるといっているが、呪いのせいであの翅が治ることはない。


 かといって呪いを解くには自力でやつを倒すしか無い。


 駄目じゃん?! もう、完全に詰んでるじゃん!


 そういう考えたとき、他の二人と目が合い、お互いに頷き合う。


「いいよ。お人好しのハバネに付き合ってあげる。」


「このまま放置、きっと犠牲者が出る、ここで殺るべき!」


 どうやら二人も同じ考えに至ったようだ。


 ここまで事情を知ってしまうと放おっておけないのが私の性分、なにか手はないか懸命に考える。


「ねえ、妖精さん! 私たちと組んでアイツ、倒さない?」


 私は一つのアイデアが浮かんだところで、妖精に声をかけた。


「何言ってるの?! あんたら程度でアイツに敵うわけ無いでしょ。死にたいの?」


「うん、そうだね。確かに私達だけじゃ無理かも。

 でも、あなたの魔法があれば勝てるんでしょ。」


「え、ええ、もちろん私の魔法なら・・・、でも今の私は・・・。」


 そう言って妖精は自分の翅を見ながら肩を落とす。


「ねえ、私ならあなたを飛ばせてあげられると思うんだけど、どうかな?」


 自信ありげにそう云う私に、驚いた表情の妖精が見つめていた。


「今から、その方法を見せてあげる。」


 私は手のひらを目の前に掲げて、イメージを固めると手の上に光が集まり、いつものようにドローンを形作っていく。


「よしっ! イメージ通りに完成!!」


 出来上がったのは、いつものドローンと同じサイズだが、プロペラを支えるアームがいつもより少し長めというか本体部分から遠ざけている。


 そして本体部分は、またがるタイプのシートと長く伸びたハンドルを組み合わせた、いわゆるジェットスキーのような形状をしていた。


 プロペラを回転させ、ホバリングの状態で空中に静止する新しいドローン。


「妖精さん、人間が馬に乗るみたいにこれに乗ってみてくれるかな?」


 そう、飛べない妖精さんのために私は、乗用タイプのドローンを造ったのだ。


 乗用ドローンはゆっくりと妖精の立つ枝に近づいていく。


 急に現れた得体のしれない飛行物体に、警戒心MAXながらおそるおそる接触を図る妖精さんをちょっと可愛いと思ってしまったのは秘密である。


「ドローンに乗ったら、そのままハンドルを握って”こう動いてほしい”というイメージを込めて魔力を流してみて。

 ああ、たくさんの魔力は必要ないからね。少しの魔力をタイミングよく流せばいいからね。」


 いまだ怪訝そうな表情ながら、私の言葉に頷くとドローンがゆっくり動き始めた。


 最初はふらつきながら上下左右へとゆっくり飛んでいたが、次第にキビキビとした動きになっていく。


 そしてあっという間に操縦をマスターしたのか、私達の周囲を見えにも止まらぬ速さで縦横無尽に飛び回るようになっていた。


「あははは、私翔んでる。自由に飛べてる。

 イケる! これならアイツに私の魔法を喰らわせてやれるわ!」

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