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第19話 体育祭、いざ勝負(前編)

「やあ、アンリエッタ。大した活躍だね。精霊を具現化できるなんて、すごいじゃないか!」


 リーンが大空にハートを描いている時、金髪碧眼で背の高い男が声をかけてきた。


「何か用かしらっ? ヘンリー・ホフマンさん」


 芝生で休んでいたアンリエッタが振り向くと、真っ白な歯がキラリと光った。

 ああ、そうだ。思いだした。以前、昼食を一緒に食べたイケメンだ。すっかり忘れてた。


「へ、ヘンリー?」


 金髪イケメンに声をかけるが無視された。足早にアンリエッタのいる方へと向かっていった。。

  

「アンリエッタ。ホフマン家の嫡男である、この僕こそ君と一緒になるのがふさわしいと思わないかい?」

 

 なんだか妙な空気になってきた。

 僕はスタート地点で準備をしながら、彼女たちの

 風精霊エアも気になるようで、ちらりちらりと様子を覗いている。


「いやよっ! 一体、あたしのどこが好きなのっ? わたしんちがウェアハム家だからでしょっ?」


 ジト目でイケメンをにらみつけるアンリエッタ。

 手を後ろに回してるけれど、あれ、いつもの平手打ちの体勢だぞ。

 

 ヘンリーだって勇気を出して言っただろうに、容赦ないなあ。

 イケメンだよ? それに成績も優秀だし、家柄だっていい。

 それをあんな言い方しなくても。

 

「僕のどこが悪いっていうんだい? あんな冴えない奴なんて、放っておけばいいじゃないか」

「いやだったらっ、いやよっ! あんたなんか嫌いっ! 彼の爪の垢でも食べてよっ!」


 ぱちんっ、といきなり彼の頬を平手打ちした。

 いきなり叩かれ、目をパチクリさせるヘンリー。


「……ゆ、許さん。親にも叩かれたことがないのに」

「ろくなご両親じゃないわねっ。こっちは疲れてるのっ! とっととあっちに行ってよっ」

「侮辱したな! 僕だけでなくホフマン家も! 覚えてろっ」


 やっぱりひっぱたかれた。

 

 あいつ、ああいう奴だったんだ。やたら自分ちの身分をひけらかしちゃってさ。

 そりゃあ、アンリエッタも嫌がるよ……。

 

 それにしてもヘンリーが言っていた、冴えない彼って誰のことだ? 

 アンリエッタにはやっぱり好きな人がいたんだ……。

 

 さすがに僕はちょっとショックを受けた。


 ★★★★★

 

空を見ると漆黒の髪を乱舞させながら、リーンが宙を駆けている。

 ハートマークは描き終えたようで、次々と他の選手たちを抜き去っていく。


「やっぱりすごいわっ! リーンちゃんっ」

 

 確かに……。あの身のこなしはすごい。

 あれだけのアクロバット飛行をしたのに、まったく速度が落ちていない。コースも輪のギリギリを狙い、最短を狙ってる。


 そして、あっという間にゴール。

 ゴールのしかたも他とは違う。わざわざ回転しながら華麗に着地した。


「うおおおお!」

 

 僕たちのクラスから一斉に歓声が上がった。

 そりゃそうだ。これで一気に全校トップになったんだから。


 リーンちゃん、愛してる、とか、かっこいい、といった周りからの声援を無視して、まっすぐに僕のところにやってきた。

 セシルやアンリエッタが汗だくだったのに、汗一つかいていない。

 それどころか勝ち誇ったような笑みを浮かべている。


「どうじゃ? お前様」

「すごかったよ、リーン」

「ふふん。そうじゃろ、そうじゃろ。どうじゃ? 惚れなお……」


 小さな胸を張っていたかと思ったら、急に眉根を寄せて厳しい顔になった。


「どうしたの?」

「……いやな、お前様。あの男が妙な奴と話をしてたもんでな」


 リーンの視線の先には、フードを被った女性がヘンリーから離れていくのが見えた。

ヘンリーの手には紙のようなものがあった。

 

「ヘンリーがどうかしたの?」

「気をつけろ。あやつ、お前様に対して邪な気を放っておるぞ!」


 じっとヘンリーを見ていると、にこやかに手を振ってきた。

 つい、こっちも手をふってしまった。

 

 リーンが言うほどじゃないんじゃないか? 

 でもなあ。さっきのアンリエッタとのことを考えると、あんまりいい気分はしないなあ。


 とりあえず今は目の前のことを考えよう。

 自分の頬を両手でパシッと叩いて、気合いを入れた。


 いよいよだ。


 ★★★★★


 スタートについた僕は腰をかがめ、エアに風魔法を詠唱する。


「ウィンドエアー! 風よ、われを浮かせよ!」

『はい! ご主人様』


 詠唱と共に力強くエアがうなづくと、虹色の光が僕を包み込んだ。

地上から離れると、さらに僕は呪文を唱えた。

 

「ウィンドエアー! 風よ、われを疾風と化せ!」

『了解ですぅ。ご主人様あ』


 甘ったるいエアの声と共に、僕は一気に加速した。

 エアと一緒に編み出した僕の固有風魔法だ。

 

 急に視界が狭まる。目標の輪を見失わないように、僕は目を凝らした。


 最初の輪が見えた時だ。

 ドンっと横から強い衝撃を受けた。


「うわっ!」

『大丈夫ですかあ。ご主人様……』

「このくらい大丈夫だよ、エア」


 体勢を立て直して、エアに指示を出そうとしたとき、背中に焼けるような衝撃が来た。


「っ…………!」


 肉が焼ける匂いと激しい痛みが走る。

 目の前が暗くなりそうだ。


 どうしてこんなことに。


『ご主人様、二発目来ます!』


 僕の後ろを見ていたエアが叫んだ。

 ひりつく痛みをこらえて、体を反転させた。


 なんだかわからないが、防御しなきゃ。


「ウィンドエアー! 出でよ、風の壁!」


 目の前に迫ってきた炎の塊を、風魔法で作った壁で食い止めた。

 これはリーンから教わった応用だ。


 渦巻く炎の中から、背の高い男が出てきた。

 

「ちっ。面白くない!」


 そいつは吐き捨てるように言った。

 炎と煙が消えていくのにしたがって、男の姿が見えた。


 ヘンリーだ。


 直前にリーンが気をつけろと言っていた奴だ。


「貴様は潰すぞ、小僧。覚悟しておけ」


 炎の塊を無詠唱で練り上げていく。

 おかしい……。ヘンリーは炎魔法を無詠唱で使えない。

 

 目を凝らして、彼は両目をつり上げ、口は頬まで裂けていた。

あの顔、見たことがあるぞ。


 その時、地上の方からリーンの声が聞こえた。

  

「そやつは魔導書グラン・グリモワールぞっ!」


 そうだ。

 セシルのふりをして、病室に来た奴の表情だ。


「ちっ。アイリーンめ、よけいなことを。くらえっ!」


 下にいるリーンをにらみつけると、顔ほどの大きさに練り上げられた炎の塊を投げつけてきた。


『危ない! ご主人様あ!』


 あわててエアが風の壁で防いでくれた。


 大事な空中スラロームの真っ最中なのに……。


「ヘンリー! いや、グラン・グリモワール! どうしてこんなことをする? それにヘンリーは? 彼はどこにやった!」


 ヘンリーに化けた大魔導書に、僕は怒りをぶつけた。


「ヘンリー? それがこの体の名か? そんな奴はもういない」


 ぐにゃり、と顔を歪ませるグラン・グリモワール。

 そこには整ったイケメンの面影はない。

 醜悪で歪みきった男がいた。


「いないだって? 殺したのか! 大魔導書!」

「いや。貴様を始末したいって言ったからな。ちょいと体を借りただけだ」


 いくらなんでもヘンリーがそんなことを言うわけがない。

 彼が昼食に誘ってくれたから、クラスに打ち解けるきっかけができた。

 セシルとも会えたんだ。


「じゃあ、生きてるんだな?」

「ふん。このグランに飲み込まれてしまわなければな」


 吐き捨てるように言うと、グラン・グリモワールは知らない呪文を詠唱しはじめた。


「来たれ! 時と空の壁よ」


 見る間に地上や周りの選手たちが見えなくなった。

 薄靄の中にいるような感覚に襲われる。


『これ、空間魔法ですよお。ご主人様。完全にアイリーン様たちと隔離されちゃいましたあ』


 僕の耳をひっぱりながら、エアが騒いだ。


「エア、結界のようなもの?」

『そうですよぉ。彼を倒さない限り、これは破れませんよぉ』


 彼を倒す。

 僕一人で大魔導書グラン・グリモワールを相手にするのか。

 できるんだろうか。


 不安に思っていると、肩にいる風精霊が耳打ちをしてきた。


『あのですねぇ。誓約していただいた時のように、キスしてくれませんかぁ。そうしたら、あたしの力、全部ご主人様にお貸ししますぅ』


 風精霊第四階梯。

 最初にあったとき、エアはそう名乗った。


 それなりの力がありそうだっていうのは、リーンの接し方で何となくわかる。

 リーンは魔法で上下関係を決めるタイプじゃない。

 けれども、エアには一目置いている。

 

 よし! 決めた!

 彼女の提案にのろう。


「じゃあ、これで……」


 覚悟を決めた僕は、肩にいるエアに唇を差し出した。


『あん! ご主人様ぁ。色気ないわぁ。ほら、ちゃんと両手で抱き締めて』


 なにやらいそいそと手のひらに乗ってくるエア。

 抱き締めるっていったって……。

戸惑っていると、嬉しそうに小さい体をくねらせながら

 

『もうぉ。アイリーンが困るわけだわあ。奥手ねえ、そこがいいんだけど……。精霊のお姉様がキスを教えてあげるわぁ』

「え、え? ええっ!」

『ほらあ! 怖い人がさっきからにらみつけてるわよぉ。』

  

 グラン・グリモワールが冷気を集めはじめた。

 まずい! あれ、アイスボールだ。

 僕はあの氷魔法への対処を知らない。


「わ、わかったよ。教えてください」

『ふふっ。手のひらであたしを大切に包んでねぇ』


言われたとおりにエアを手のひらで包む。


『よしよし。あたしの後に続けて詠唱してねぇ。詠唱後、優しく唇にキスよぉ』


 黙って僕はうなずいた。

 アイスボールが徐々に大きくなっていくのが見えた。

 周りを冷気が通るためもあるけど、背筋がぞくぞくしてきた。

 

『風と空の女神の名において』


 彼女に続けて詠唱する。


「風と空の女神の名において」


 こくりとうなずくと、エアが詠唱を続けた。


『「われは共に風と空にならん!」』


 花びらのような小さな紅色の唇に、僕は自分の唇を重ねた。


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